Author: HK

アマゾンブランド登録と商標登録の話題 Part2

アマゾンブランド登録が刷新されて、商標登録が要求されるようになったことは以前お話しました

その後多少ルール変更があったので、特にお問い合わせが多い点も含めて、まとめ直します。

新ブランド登録とは何か

ブランド登録プログラム自体は、これまでもアマゾンにありました。ブランド登録をすることで、商品ページの編集権限が強くなったり、模倣品の排除に協力してもらいやすかったりというメリットがありました。それらをさらに強化して、新たな機能まで加えたのが、新ブランド登録プログラムです。米国では、旧バージョンを「アマゾンブランド登録1.0」、新バージョンを「アマゾンブランド登録2.0」と呼ぶことがあるようです。

ブランド登録2.0では、1.0の特徴を引き継ぐか、それらを改良した上で、さらに機能が加わりました。

特に知的財産権の保護という観点からは、ブランド登録2.0を利用することで、模倣品を排除しやすくなりました。具体的には、ブランドオーナー用の管理画面にて、商品ページや出品者を管理することができるようになりました。また、知的財産権侵害の申し立ても、管理画面からできるようになりました(従前の申告ページを利用しなくてもよくなりました)。これによって、これまで商標権・意匠権侵害に限ってオンラインで申し立てができたものが、著作権などにも対象が拡大されました。さらに、申し立てが優先的に処理され、違法出品の削除が迅速になされるようになりました。

他には、ブランド登録2.0では、そのブランドの一覧カタログのようなページが作成できる機能が実装されました。米国ではその一覧ページのデザインをある程度自由に変更でき、いくつかテンプレートも用意されています。※その一覧の各商品ページには誰でも出品できる点に留意してください。出品自体を独占できるわけではありません。

その他、新商品に優先的にレビューが投稿されるような機能(レビュアーにアマゾンから報酬が支払われる)や、特別な広告(ヘッドライン検索広告)が購入できたりという利点もあります。これらの機能は順次日本にも導入されると思われます。

ブランドオーナーの方は、ぜひともブランド登録2.0を利用すべきでしょう。費用はかかりません。

なお、ブランド登録1.0の登録は、自動的に2.0にはアップグレードされません。2.0は新規に登録し直す必要があります。当面は両者が併存するものと思われます。

ルール変更点

当初、「標準文字商標」での商標登録が要求されていましたが、これが「文字商標」に緩和されました。

標準文字のみ
 ↓
標準文字あるいは文字商標
 ↓
文字商標

という変遷をたどり、いまでは「文字商標」であればよいことになっています。といっても、標準文字商標は文字商標に含まれることから、二番目と三番目は実質的に同じ内容だといえます。

国によっては標準文字制度がない(例:中国)こともあり、そのような国ではもともと文字商標での登録で足りていたことから、日本の基準をそこまで広げた(緩和した)ということでしょう。

ここで、アマゾンがいう「文字商標」に、どこまで含まれるのかが問題になります。例えば少しでも文字に装飾がなされていたらダメなのか、あるいは特殊な書体で表された文字の商標はどうなのかという部分は、まだよくわかりません。特に、文字商標だけれどもその一部にのみ装飾が付されている場合などは、より微妙です。

要は商標制度を利用してブランドのオリジナル性を確認するのが目的でしょうから、重複して登録され得る商標ならば、登録されていてもブランド登録の根拠とはならないでしょう。そういう意味では、装飾された文字や、特殊な書体の文字の登録では、ブランド登録が認められない可能性があります。

実際の運用としては、アマゾンがある程度踏み込んで判断するのかもしれませんし、図形が含まれないならばすべてブランド登録して、重複が生じた際に個別に対応するのかもしれません。このあたりはしばらく様子をみる必要があります。

文字商標の登録が要求される理由

ブランド登録1.0では言及がなかった商標登録が、2.0で要求されるようになったのはなぜでしょうか。

まず端的に、ブランドオーナーであることの確認をするために商標登録を利用していると考えられます。
ブランド名を商標登録しているのは正規のブランドオーナーでしょうから、商標登録のデータを利用してブランドオーナーであることを確認しているものと思われます。
逆にいうと、例えば他人がブランドを勝手に商標登録してしまったような場合でも、誰がブランドオーナーであるかは、アマゾンに対してではなく商標登録の有無で(特許庁や裁判所で)争えと言うのだと思います。アマゾンとしては商標登録名義人をブランドオーナーとして認識するという意思表示なのでしょう。

そして、文字商標に限定しているのは、アマゾン内でブランドの重複を避けるためだと思われます。書体やデザインに特徴のない文字列ならば、同じ商標が異なる人に重複して登録されることはありません。重複がしないことの審査を、商標制度を利用して行っていると推測されます。

指定商品をどうするか

ブランド登録を目的としてこれから商標出願する場合、指定商品をどうするかが問題になります。

普通であれば、実際に販売する(or販売予定がある)商品をすべて指定すべきでしょう。しかしブランド登録のみを目的とする場合は、もう少し節約できる可能性があります。というのは、ブランド登録はアマゾンの定めるカテゴリ単位でなされ、これは経済産業省の定める指定商品の範囲とギャップがあることがあるからです。

例えば、アマゾンでは、「服・シューズ・バッグ・腕時計」というカテゴリがあります。これを商標の区分に対応させると、

第14類:腕時計
第18類:バッグ
第25類:服・シューズ

となります。

アマゾンではそのカテゴリに含まれる商品をひとつでも販売&商標登録しておけば、そのカテゴリ全体についてブランド登録できることから、例えばあるセーター(服)のみを販売&商標登録すれば、「服・シューズ・バッグ・腕時計」というカテゴリ全体についてブランド登録をすることができると思われます。

そうすると、例えば「アパレル・バッグ・ウォッチ」という商品群を扱う場合でも、3区分すべてを指定せずとも、どれか1区分のみを指定すればよいことになり、出願費用を節約することができます(例:第25類「被服」のみを指定)。

同様の例は他のカテゴリでもあり、例えば「スポーツ&アウトドア」「ベビー・おもちゃ・ホビー」「パソコン・オフィス用品」「ホーム&キッチン・ペット・DIY」「家電・カメラ・AV機器(※照明器具が含まれるカテゴリです)」なども、複数の区分にまたがります。

なお、このように商標登録よりも広い範囲でブランド登録をしてしまうと、アマゾン内でブランドの重複が生じ得ますが、それをアマゾンがどう処理するかは不明です。これも個別の対応となるのかもしれません。
※ この観点からは、やはり取り扱いのある商品すべてを指定しておくのが安全です。例えば第25類「被服」のみを指定して商標登録をして、「服・シューズ・バッグ・腕時計」というカテゴリでブランド登録を受けたとしても、他人が第14類「腕時計」について同じ商標を登録した場合に、自分のブランド登録の範囲が事後的に狭められる可能性があります。

外国での商標登録もOK

商標登録は必ずしも日本でされている必要はなく、現在は、米国、カナダ、メキシコ、インド、日本、フランス、ドイツ、イタリア、スペイン、イギリス、欧州連合のいずれかで登録されていればOKとされています。つまり、例えば米国のみで商標登録されている場合、日本で登録をし直さなくても、米国の商標登録を根拠に、日本のアマゾンでブランド登録できます。

これは、外国ブランドの商品が日本に輸入される場合を想定しているからだと思います。例えばアメリカのブランドが日本に輸入されるときに、アメリカでのみ商標登録されているケースは少なからずあります。その際に日本での商標登録までは要求しないということでしょう。

ここでもブランドの重複が問題になりえます(例えば日本と米国で同じ商標が異なる権利者に登録されている場合がある)が、これも個別対応なのかもしれません。

ブランド登録のリスク

ブランド登録プログラムの利用規約を見ると、以下のような規定があります。
※ この規約はブランド登録プログラムが提供される国すべてで共通です。参考日本語訳はこちら

4. Content and Materials
You grant Amazon and its affiliates a royalty-free, non-exclusive, worldwide, perpetual, irrevocable, and sub-licensable right and license to reproduce, perform, display, distribute, adapt, translate, modify, re-format, create derivative works of, and otherwise use on and in connection with Amazon websites and related products and services, any content or other materials you make available through Brand Registry; provided that Amazon will not alter your trademarks from the form provided by you (except to re-size them to the extent necessary for presentation, so long as the relative proportions remain the same) and will comply with your removal requests as to specific uses of your trademarks (provided you are unable to do so using standard functionality made available to you by Amazon); provided further that nothing in these terms will limit Amazon’s and its affiliates’ ability to use any content or other materials without your consent to the extent allowable without a license from you under applicable law or valid license from a third party. All other content and other materials included in or made available through Brand Registry are the exclusive and confidential property of Amazon (“Confidential Information”), which you may only use to the extent necessary for your participation in Brand Registry. You may not disclose any Confidential Information of Amazon or its affiliates, or disparage Amazon, its affiliates, or any of their respective products or services.

要は、そのブランドの商標などを、アマゾンはアマゾン内で自由に使えますよという内容です。サイト内で商標を表示する場面も出てくるでしょうから、このような規定があること自体は当然なのですが、ブランド登録プログラムを通じて提供した商標などを、アマゾンが

on and in connection with Amazon websites and related products and services
アマゾンサイトや関連商品・サービスについて
reproduce, perform, display, distribute, adapt, translate, modify, re-format, create derivative works of, and otherwise use
複製、実演、表示、頒布、翻案、翻訳、改変、再フォーマット、派生物の作成、その他の使用

できる権原を与える、とかなり広めな用途が想定されていて、権利者が予期しない使用方法まで許諾してしまう可能性があります。

もっとも、後段にあるとおり、使用方法にはそれなりの制限が付されているので、現実に問題が生じる可能性は高くないかもしれませんが、担当者にとっては、社内のコンプライアンスをクリアできるかが重要になりそうです。

おまけ1:小売等役務(第35類)を指定できる?

これはくだらない話なのであまり触れたくありませんが、相変わらず問い合わせが多いので少し検討します。

先程の例でいうと、「服・シューズ・バッグ・腕時計」を、「被服,履物類(第25類)」「かばん類(第18類)」「腕時計(第14類)」と3区分を指定すると費用がかさむので、それぞれを対象とする小売等役務(第35類)を指定して、1区分の費用で済ませられないかと考える人がいます。その場合にブランド登録できるのかが問題になりますが、結論としては、できるようです(登録できた例があります)。

たしかに、日本では小売等役務とその小売等の対象商品の重複をクロスサーチするので、小売等役務について商標登録されていれば、他人に個別の商品について商標登録されることはありません。従って、小売等役務(第35類) を指定した商標登録に基いてブランド登録をしても、問題はないのかもしれません。ただし、これがクロスサーチをしない国ではどうなのかは、いまはまだわかりません。

おまけ2:相乗り排除との関係

これも中国輸入向けのくだらない話ですが、相乗り排除のために商標登録をするケースがあります。その上でブランド登録もしたいという相談があるのですが、そもそも目的がまったく異なるので、商標登録の内容も当然異なります。

相乗り排除をするには、実際に商品に付す商標を登録するのが最も有効です。その商品の販売に対して商標権侵害を主張するわけですから、当然です。商品には通常ロゴや飾り文字を入れるでしょうから、それを図形として登録すべきです。

一方で、上述のとおり、ブランド登録には文字商標の登録が要求されます。「文字商標」の定義が曖昧な以上、可能なかぎり標準文字商標を登録すべきといえます。

結局、それぞれの目的に合わせて登録する商標の内容を選択する必要があります。

と書くと、要は二件出願させて手数料稼ぎたいんだろうなどと言われるので中国輸入は面倒くさいのですが(笑)、もし予算の関係でどちらか1件しか出せないならば、「相乗り排除なんかやめなさい」と言いたいです。アマゾンにとっては紛れもなく迷惑行為ですし、まともな人がやることではありません。

もしそれでも両方やりつつ商標出願は1件で済ませたいというのであれば、標準文字で出すしかないでしょう。ロゴや飾り文字で出してしまうと、明らかにブランド登録の要件を満たしません。一方で相乗り排除(違法出品の削除)については、アマゾンは申告があれば右から左に全部削除してくれるので、標準文字でも別に構いません。ただしそうした排除は法的に根拠がないケースも出てくるでしょうから、商標の類否判断ができない人が費用だけ見て適当に標準文字を登録して他人を排除すると、訴訟等になった際に不利になるリスクがあることは知っておくべきでしょう。

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商標登録に新規性を要求したらどうかというオハナシ

なにわけわからんことを言ってるんだと怒られそうなタイトルですが、まぁ聞いてください。

みなさんご存知のとおり、特許や意匠と異なり、商標の登録においては新規性は要求されません。これは、特許法や意匠法は創作法と呼ばれ、新しい技術やデザインを生み出したこと自体に価値を見出して保護するのに対して、商標はあくまでも選択物なので、その商標が出願時に新規であるかどうかは関係ないからです。「選択」というのは既存の選択肢の中から何かを選び出すことをいうわけですから、「新規」であることとはそもそも相容れないわけです。

その結果、商標の世界では、仮に自ら商標を使用していても、他人に先に出願されれば、他人の商標登録が認められ、以降自分はその商標が使用できなくなってしまうという問題が生じます。これについて、は過去の記事をご覧ください。一応先使用権(商32条)という規定もあるのですが、他人の出願時に周知性が要求されるなど要件が厳しく、あくまでも原則は自ら出願しない限り保護されない法制度になっています。

お気づきの方も多いと思いますが、こうした法制度のせいで、例のベストライセンスの件のような、先回り出願という問題が生じています。つまり、ある商標が使用されていても、それが出願されていないことに漬け込んで、関係のない他人が勝手に出願をして登録をしてしまい、正規の商標の使用者の活動を制限するような事態が生じ得ます。これは「悪意の出願(trademark application in bad faith)」と呼ばれ、近年世界中で問題となっており、国際関係の悪化にも通じることから、先進国が主体となって対策を練っているところです。

ところが、いくら審査を厳しくするとか、登録後に潰しやすくするようにしたところで、先願主義を採用する以上、先に出願しさえすれば他人の商標でも登録できるのが原則なわけですから、悪意の出願であっても登録してその商標を保護せざるを得ないケースがほとんどです。つまり「悪意の出願」は現行の商標法が当然に内包し許容するものだといわざるを得ません。

そこで、仮に商標でも新規性を要求してみたらどうでしょうか。

まず前提として、商標の世界での「新規性」は、特許のように何かを創り出したことが偉いという立場にはそもそも立っていないことが重要です。あくまでも法が意図しない商標の登録を排除するためにテクニカルな観点から導入されるに過ぎません。

またもうひとつの前提として、ここでいう新規性とは、商標(文字や図形等)自体の新規性をいうのではなくて、指定商品・役務とその商標の組み合わせの新規性をいう点も重要です。

例えば、「Apple」という商標(文字列)自体は当然公知ですが、「パソコン」という商品との組み合わせについては新規である、という考え方ができます。これによって普通名称を排除することができます。記述的商標については扱いが難しいかもしれませんが、類似や実質同一の概念を用いて新規性を否定してもいいかもしれませんし、進歩性(創作非容易性)の概念を導入してもいいかもしれません。いずれにせよ、こうした規定を入れることで、識別力や独占適応性を欠く商標(商3条)については、登録を否定することができます。

さらに、新規性の導入により、商標登録の本丸である先行登録商標とのバッティング(4条1項11号)はもちろんのこと、先行未登録商標(4条1項10号の類型)が周知でない場合までも排除できるようになります。当然19号のような規定はそもそも不要になりますし、7号を乱発する必要もなくなります。

一方で、これだと自らの出願も、自らの使用事実に基づいて拒絶されてしまうという問題が生じますが、これは商標制度の趣旨からはおかしいので、新規性の定義を「他人の商標」についてに限定するとか、新規性喪失の例外の規定を入れるなどして回避することになるでしょう。

商標の世界に新規性を導入しようという考え方の根底にあるのは、「自ら出願していなければ他人に先取りされても仕方ない」という前提がおかしいというところにあります。先願主義というのは、その商標と指定商品の組み合わせ(本記事でいう「新規性」の対象)をたまたま複数の主体が使用している場合に、先に出願した者に登録を与えようという趣旨であって、他人の商標を勝手に出願(悪意の出願)する者にまで登録を与える必要はないはずです。

現在こうした「悪意の出願」には、出願時にその商標が周知・著名であった場合には4条1項10号、15号、19号を適用して登録を排除できますが、周知でない場合は排除が難しいです。そうしたケースでは7号を適用するしかありませんが、これは特許庁・裁判所ともに適用基準がよくわからず、周知性を要求したりしなかったり、登録は認めるが権利行使をしたら損害賠償の対象になると言ってみたり、権利行使をしたら無効理由となると言い出したり、まさにカオスです(これについては現在AIPPIが情報収集しており、来年あたりに報告書が上がってくるはずなので期待していますが、おそらくカオスっぷりが再度明らかになるのではないかと予測しています)。

日本企業を含む世界中の企業にとって、こうした悪意の出願は大きな関心事であり、実務上は商標の世界でも「冒認出願」という用語が一般に用いられています*。ビジネス上は特許だろうが商標だろうが自社のものを他人に勝手に登録されるのは許せないというのは当然ですし、法の趣旨もそれとは矛盾しないはずです。

* 商標は創作物ではないので「商標登録を受ける権利」のようなものはそもそも発生しないため、「冒認出願」という概念は本来ありません。

まぁ実査には商標に新規性が要求されるようになることはないでしょうが、一種の思考ゲームとして考えてみると、あながち「商標」と「新規性」は相性が悪いわけではないということがわかってきます。いずれにせよ悪意の出願については今後排除を強めていくというのが世界的に大きな流れですが、本人性や悪意性の確認は容易でないことが多いでしょうから、「他人が使用している[商標×商品の組み合わせ]は登録不可」とバッサリやってしまって構わないように思います。

ただそれだと大企業が登録した商標が実は田舎の端っこで細々使用されていたことが判明して無効とされるようなケースも出てくるでしょうから、これはこれで問題ですね。やはり難しい問題ということなのでしょう。

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アマゾンブランド登録に標準文字商標の登録が要求される件について

アマゾンのブランド登録をご存知でしょうか。これは、アマゾン内で、アマゾンが独自にブランドを登録・管理する制度です。

ブランド登録の意義については後述します。ブランド登録をするには、上記ページから申請をします。申請があると、アマゾンはそれを審査して、基準に達すると判断されれば、無事にブランド登録となります。(なお、既存の著名ブランドは、申請をせずともアマゾン自身が登録していると思われます)。

さて、最近ブランド登録の審査基準(登録要件)が変更され、「標準文字の商標登録が完了していること」が必要となりました(おそらく平成29年5月1日以降)。

特に中国から商品を輸入してアマゾンで販売する方々(以下、中国輸入業者)から、この件についての問い合わせが多く、正直なところ通常業務に影響が出ており困っているので、最初にそれについて書きます。

アマゾンブランド登録をすると、出品に際してJANコードが不要であったり、商品カタログの編集権限を独占できたりというメリットがあるようで、中国輸入業者にとってもブランド登録は重要なようです(この点については詳しくないので業界の人に相談してください)。

で、問い合わせが多いのが、過去に商標登録をしたが、標準文字商標の登録が必要だとして、ブランド登録できなかった、どうすればいいか?、あるいは既にブランド登録をしているが、ブランド登録の要件の変更にどう対応すればいいか?というものが大半です。前者は、アマゾンに申請をしたが拒否されたということなのでしょう。中にはその「過去の登録」を弊所で行っていないにもかかわらず、こういう問い合わせをしてくる人がいて、便利屋か何かと勘違いしているんじゃないかと思うんですが、私は弁理士です。非常識な人に無料で対応する趣味はありませんので念のためご留意ください(こんなことを書かないといけないくらい非常識な人が多いんです、ほんと)。

結論から言いますと、過去の出願・登録がない場合、あるいは出願・登録があっても商標が標準文字でない場合は、出願し直してください(新たに標準文字の出願をしてください)。それしか方法はありません。特に過去の出願(審査継続中)や登録(登録済み)がある方は、それを標準文字に変更するとか、その内容を追加するとかできないかとお尋ねになるんですが、できません。商標の内容は、一度出願したらいじれないと思ってください。他の選択肢を検討するだけ時間の無駄ですし、弊所にお問い合せいただいても「出願し直してください」としか答えようがないので、お互い無駄なやり取りは省略しましょう。

過去の商標登録が標準文字かどうかを判断するのは簡単で、公報(公開公報あるいは登録公報(商標公報))に「標準文字」の記載があれば標準文字商標ですし、なければ標準文字商標ではありません。

もちろん、J-PlatPatでも確認できます(「標準文字」の記載を探してみてください。)

念のために、標準文字制度の説明をしておきますと、これは、商標が文字商標(文字のみからなる商標)であって、明朝体やゴシック体などの標準的な書体を権利範囲(専用権の範囲)とするときは、書体や文字デザインを特定せずに、「標準文字」として登録できる制度です(詳細はこちら)。

以下の図は必ずしも正確ではありませんが、文脈上標準文字制度を理解していただくのに十分だと思います。

で、なぜアマゾンがブランド登録に標準文字商標の登録を要求するようになったかですが、おそらく最も主な理由は、ブランド名の重複を避けるためだと思われます。これまでは、ブランド登録には商標登録が要求されていなかったので、ある意味早い者勝ちで登録されていました。そうすると、本来のブランドオーナーでない者が先にそのブランドをアマゾンで登録してしまったり、偶然ブランド名が重複してしまうというトラブルがあったのだと思います。

そこで、商標登録により真のブランドオーナーであることを確認しようという話になったのではないでしょうか。アマゾンが資料提供などを求めて積極的に判断するのではなく、その判断は商標制度を利用して行おうということだと思われます。なんとも合理主義のアマゾンらしいやり方です。

さらに、なぜ標準文字なのか(ロゴや飾り文字ではいけないのか)というと、これもおそらく、ブランドの重複を避けるためです。例えば、あるブランド名について、飾り文字と標準文字(あるいは「図形+文字」の商標と標準文字)が、それぞれ他人に登録されることは、ありえます。そのような場合、やはりアマゾン内でブランドの重複が問題になります。そこでアマゾンでは、その重複の有無の確認も、商標制度を利用して行うことにしたものと思われます。重複する標準文字商標は登録されないはずですから、「標準文字商標が登録されているならアマゾンブランド登録もできる」とすれば、アマゾンは実質的な判断をせずに、ブランドの重複登録を避けることができます。

上記はあくまでも推測ですが、おそらく正しいでしょう。「この件についてアマゾン・ジャパンに問い合わせたが的を射た回答を得られなかった」と言う方がいますが、当たり前です。なぜならば、このルールは、他のそれらと同様に、米アマゾンから輸入されているからです。

法制度の差異により多少日本のものと規定ぶりが異なりますが、ざっくりとは同じことが要求されています。標準文字の商標登録が必須で、あるならば実際に使用しているロゴ等も出せと言っています。

そしてこれは、日本にだけでなく、世界中のアマゾンに輸出されているルールです。標準文字制度がない国もあり(例えば中国)、それぞれ多少異なる表現となっていますが、だいたい同じような内容が要求されています。なので、この件でアマゾン・ジャパンにいくら文句を言っても、あしらわれるだけでしょう。おとなしく標準文字の出願を急ぐのが吉です。

なお、過去にロゴやロゴと文字のセットで商標登録して、現在ブランド登録しているが、規約変更を期に標準文字商標を追加で登録するべきか、という問い合わせも多いのですが、上述のように、した方がいいです。一般論としては、先の登録があれば、同じ文字列で他人が標準文字商標を登録できる可能性は低いので、あまりリスクはないかもしれませんが、絶対にないとは言い切れません。また、他人がその文字部分にのみ類似する商標を登録できる場合もあるでしょうし、それを根拠に貴社が文字部分のみを標準文字で登録できないケースも出てくるかもしれません。こういうリスクを排除するには、自社で標準文字商標を登録しておく必要があります。アマゾンはブランド登録自体をやり直せと言っているので、今後標準文字商標の登録が必須になる可能性が高いです。登録までに半年程度かかることを考えると、やはり早めに出願をしておいたほうが、今後の活動に有利となるでしょう。(そもそもアマゾンを離れて、そのブランドを育てていこうとするのであれば、ロゴに加えて標準文字商標も登録しておくのは、一般的なブランド戦略においても重要です。)

さて、ここからは一般の企業様(主にメーカー)向けの話です。

アマゾンブランド登録の意義は、以下にあります。

  1. 商品カタログ(商品ページ)の編集権限を持てる。
  2. JANコードがなくても出品できる
  3. 同一ブランドの商品の商品ページをリスト表示できる
  4. 商品検索機能が強化される
  5. ブランド保護が強化される

順に見ていくと、1は、要は単に貴社商品を仕入れて販売する業者に、商品ページを編集されることを防ぎ、正規の販社にその管理を任せることができるというメリットがあります。2はメーカーの方には特に関係ないでしょう。3は、商品ページ上でブランド名をクリックすると、そのブランド名で出品されている商品の一覧を表示させることができます。もしここに、貴社商品以外の商品が出てくるようならば、模倣品の可能性があります。4については、いまのところ内容を把握できていません。

5は、アマゾンにおける模倣品排除において重要です。アマゾンに知的財産権(特に商標権)侵害の申し立てをする際に、ブランド登録されている商標ならば、排除がよりスムーズになります。具体的には、ブランド登録されている商標についての申し立ては、原則として真正なものであるとして、アマゾンはほぼ右から左に削除してくれます(ちなみに申し立ては商標権者あるいはその代理人しかできません)。ヤフーや楽天なども、著名なブランドについては、そうでないものと比べてよりスムーズな排除方法を提供していますが、アマゾンのブランド登録はそれらに対応する制度だと考えてよいでしょう。
また、ブランド登録をすると、模倣品発見のツールがアマゾンから提供されるようです。これについては、日本でも提供されているかを含めて詳細が不明なので、情報収集をして、改めてお知らせします。

結論としては、アマゾンにて貴社ブランドが登録されていないならば、早めに登録をしたほうがよいでしょう。標準文字商標の登録がまだならば、まずはこれを急いでください。米国では、ブランド登録を活用して、大規模な模倣品排除に成功している事例があるようです。ブランド登録自体には費用がかかりませんので、積極的に活用されることをお勧めします。
※ ブランドが登録されているかどうかは、アマゾン内でそのブランド名を検索してみれば(商品ページを見てみれば)わかります。

最後に、標準文字で出願する際の注意点について、これはブランド登録する名称と完全に一致している必要があります。大文字小文字の区別も必要ですし、複数の語からなる場合はちゃんとスペースをあけておくことも必要です。「・」は「ー」も正確に記載しましょう。
※ なお、標準文字ではハイフンは登録できないので、マイナスなどで代用することになりますが、さすがにそこまではみないでしょう。また、アルファベットはすべて全角での登録になります。

例)
ブランド登録したい名称
KOSHIBA-IP

商標登録(標準文字)
○ KOSHIBAーIP
× KoshibaーIP
× KOSHIBA IP
× KOSHIBAIP

弊所ではアマゾンブランド登録の代理/代行は行っていませんが、ご不明点があれば、お気軽にお問い合せください。(ただし中国輸入業者の「標準文字で出願した方がいいですか/出願し直す必要がありますか」という問い合わせはもう勘弁してください。答えは「出願しないとブランド登録できません」です。)

最後に余談ですが、アマゾンが標準文字商標の登録を要求する理由は説明しましたが、根底には、よくわからない自称ブランドが乱立している問題があるのだと思います。自称「OEM」、あるいは開き直って「簡易OEM」などと意味不明の呼び方をすることも多いようですが、中国でパクリ商品を見つけて、あるいはそれを少しだけ改造して、自分のロゴを付して「オリジナル商品」「オリジナルブランド」と名乗る図々しい商品が、米アマゾンで(もちろん日本でも)氾濫しています。アマゾンは、そうした商品はノーブランド品として売ってくれと言っているんですが、カタログを独占したいというだけの理由で適当に改造したり商標を付したりして、オリジナル商品のフリをする輩には困っているようです(一方で営業部ではそういう商売を煽っているようで、これがまた混乱を呼ぶ原因になっているようなのですが・・・)。

また別の話ですが、ブランド登録のための商標登録をするときに、指定商品は小売等役務(第35類)でよいのか?という問い合わせもチラホラあります。これは、以前当ブログでもご紹介したとおり、個別の商品を複数指定して区分数が増えると費用がかさんでしまうので、すべてを「○○の小売・・・」として、第35類にまとめて列挙したいという需要があるからです。
この点については、規約変更されたばかりでまだ事例がなく、よくわかりません。商品に商標を付して商品のブランドとして登録するわけですから、常識で考えれば個別の商品を指定すべきで、小売等役務について商標登録をするなど意味がわからないのですが、アマゾンはそこまで判断しないかもしれません。
弊所では、小売等役務を指定して出願しろとのご指示があれば従いますが、ブランド登録のためにそのような出願をすることは、お勧めしません。半年後に商標登録が完了しても、ブランド登録できないリスクがあることをご承知おきいただいた上でご指示ください。また、「35類でもいいんですか?」という問い合わせももうカンベンしていただきたいです。上記のとおりわからないので、アマゾンに直接確認してください。繰り返しますが常識的には個別の商品について登録すべきです。

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知財業界の職業病 – 弁理士の日記念ブログイベント2017

すっかりごぶさたしてしまってすみません。実は今日(7月1日)は弁理士の日だそうで、ブロガー弁理士で記事を書いて盛り上がろうというイベントに、去年に引き続いて参加させていただくことになりました。今年のテーマは「知財業界の職業病」。ふむー何があるでしょう?

知財業界といってもそれなりに裾野が広いので、いろいろな職業病があると思われますが、たしかに「火曜日はなぜか早起きしてしまう」みたいなものはあるかもしれません。火曜日というのは、多くの事務所で特許庁からの通知を受領する日なんですよね。例えば審査官からの拒絶理由通知書や登録査定書などは毎日発せられるわけですが、ほとんどの特許事務所では、これを週に一度だけ受領する運用としています。その間はオンラインにデータが蓄積されていて、一週間分をまとめてダウンロードするわけです。

事務所によって月曜日だったり火曜日だったりするようですが、弊所では火曜日に受領しています。かつて噂レベルで聞いた話では、月曜日に受領すると、応答期限が土日にかかって月曜日に延長される確率が一番高いんだとか。なので月曜日受領の事務所も多いはずです。ではなぜ火曜日なのかというと、よくわからないのですが、月曜日は週末に届いたメールなどの処理が忙しいからその翌日としているとか、かつて書類が郵送されていた時代は火曜日に発送だったとかの事情があるのかもしれません。

まぁそんなこんなで火曜日は特許事務所にとって一週間で特別な日なのですが、私は早起きすることはなく、拒絶理由通知が届くので朝からどんよりした気分になります(笑)

他にはそうですね、いろいろなネーミングやデザインを目にしたときに、法的な問題を検討してしまう習慣があります。

例えば新しいブランドを見たときに、そのブランド(名)が選択された理由を考えてしまったり、他のブランドの商標権を侵害しないか心配になってしまったり、ちゃんと商標登録されているか(されているならどんな指定商品についてか)つい調べてしまったりします。

同じような話で、「PANASONIC」は「SONY」に憧れて「SONI」が入る名称を選んだ、みたいな都市伝説に妙に食いついてしまったりします。

このブログでも繰り返しお話していますが、知的財産法はすべての模倣を排除しようとしているわけでは決してありません。むしろ模倣は人類の経済的・文化的発展の根幹であることを前提としていて、その中で政策的な観点から特に排除すべき模倣に限って許さないとしています。そうすると、事業活動の中で、ある模倣が許されるかどうかの判断が難しいことは、よくあります。おそらく、具体的な出願のものを除けば、弊所へのご相談で最も多いのがこの内容です。

例えば最近は、ブランド名ではなく、商品デザインが模倣されるのが主流です。ネットで売られているわかりやすい偽物(ヴィトンやシャネルの典型的なニセモノ)のほとんどは、日本語ができる中国人や韓国人によるものです。日本人はそういう行為は危険だとわかっているので、ブランドはパクりません。代わりに商品デザインをパクるのです。売れている商品を探し出し、そのデザインの特徴をパクって、商標を付さずに、あるいは独自のブランドで売る。現在メーカーが直面している模倣品問題は、ノーブランドの形態模倣です。

実際にネットでも、リアル店舗でも、どこかで見たことがあるデザインの商品が別のブランドで売られていることは、もはや日常です。そのような商品を目にしたとき、権利関係が気になって仕方ありません。適当にパクって怒られたらやめればいいと考えているのか、きちんと調査した上でギリギリセーフのラインを狙っているのか、ライセンスなどを受けているのか、そもそも何も考えていないのか。法的な問題を検討したり、権利者や製造者の情報をつい調べてしまうのは、職業病といえるかもしれません。

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JASRAC vs 音楽教室 の件について少し考えてみる

JASRACが音楽教室に著作物利用料請求する方針を発表して、世間は盛り上がっています。いろいろな意見が出ており、簡単には解決しなそうなので、少しだけ論点を整理してみたいと思います。

この問題はまず、音楽教室での演奏が著作権法上の「演奏(実演)」に当たるかどうかが問題なわけです。

もし演奏に当たらないなら、さすがのJASRACも利用料を請求することはできません。

逆にもし演奏に当たるなら、音楽教室は利用料を払わないとは言えないでしょう。

それでは結局演奏に当たるのかどうかについては、ドンピシャの判例・裁判例がないため、よくわからないわけです。

条文を見れば、音楽を「公衆に直接見せ又は聞かせることを目的として」演奏するには著作権者の許諾が必要(著22条)となっており、「公衆」には「特定かつ多数の者を含む」(著2条5項)とされています。この定義をみても、音楽教室の生徒さんが「公衆」に該当するかは微妙で、JASRACの請求に合理性があるかは、よくわかりません。

更には、仮に演奏に該当するとしても、著作権が制限される場合に該当するかの検討も必要です。演奏権については、

  1. 営利を目的とせず
  2. 聴衆又は観衆から料金を受けず
  3. 実演家に対し報酬が支払われない

のすべてを満たす場合には、著作権が及ばないことになっています。(まぁしかし、有料の音楽教室では、これはいずれも満たすことはできないでしょう。)

音楽教室での演奏が著作権法上の「演奏」に該当するかについては、かなり昔から両者の間で意見対立があったようで、「音楽教育を守る会」なる団体がいきなり設立されたのも、十分な準備期間があったからでしょう。以下の記事などでは「守る会側がJASRACを訴える」と煽り気味に書いてありますが、まだ利用料が請求されていない段階なので、請求の妥当性を争うことはできません。あるとしても、音楽教室での演奏が著作権法上の演奏に該当しないこと(JASRACに対する債務が不存在であること)の確認訴訟を提起するくらいでしょう。

これで白黒つけば本件は解決しそうなものですが、そうは簡単にいかなそうです。仮に「演奏に該当する」と判断された場合でも、音楽教室側が反発しそうだからです。

音楽教室側はずっと「音楽教育に悪影響を与える」と言っています。すなわち、仮に著作権侵害でも利用料の請求は免除されるべき、という趣旨の主張をしていると思われます。これを日本という国で認めますかという問題があるわけです。

この点については様々な意見があるでしょうが、例えば学習塾が教材をコピーしまくっても、教育目的だから許されるかというと、それは受け入れられない人が多いでしょう。出版社は教材を買ってくれというはずです。日本では、教育目的であることは、著作物の利用の免罪符とはなりません。適切な利用料を支払えば利用することができるという形でバランスをとっているからです。学習塾での複製と音楽教室での演奏の違いはどこにあるのか?という問いに、音楽教室側は答えていく必要があるでしょう。

今回、JASRACが提案する利用料は、受講料の2.5%だそうです。この数字の妥当性はかなり慎重に検討されるべきですが、仮にこの数字が採用された場合でも、例えば受講料(月謝)が5000円の場合に、著作物利用料は、月間125円(年間1500円)です。これが受講料に上乗せされたとしても、それを理由に音楽教育から離れないといけない人は、ほとんどいないでしょう。

音楽教育を受ける人の中には、将来社会に対して音楽を提供する立場になる人も当然いるはずです。そうした人たちが自分の著作物に対する利用料をちゃんと請求できるようになるために、自分が利用するものについては、利用料をちゃんと支払う経験をさせることが、より音楽教育に資するという考え方もできるかもしれません(もちろん著作権法上の根拠がある場合のみです)。

ただし、そもそも演奏権は、コンサートなどでたくさんの人に演奏を聞かせる場合に著作物利用料を払いなさい、ということを想定しているわけです。観客は、チケット代にその費用が含まれていることに、当然納得しているでしょう。そのような条文を根拠に、音楽教室での演奏にも権利が及ぶと解釈するのは、一般の感覚としてはなかなか受け入れられないかもしれません。仮に条文上該当せざるを得ない場合でも、利用料率には十分な配慮をするとか、そもそも権利者に十分なコンセンサスを得るなどのステップを経てから運用を開始するべきだと思います。

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「PPAP」が他人に勝手に商標出願された件について、少し落ち着いて考えてみる

世間はすっかりこの話題でもちきりのようです。問い合わせが多いので、簡単な解説と、弁理士として思うことを少し書いてみます。

コトの発端・・・というとどこが発端なのかわからないのですが、ベストライセンス株式会社とその代表の上田育弘氏が「PPAP」関連の商標出願をしたということが、ネットのみならずテレビ等のメディアで大きく報じられているようです。例えば、

などなど。

ベストライセンスの行為はかねてから業界で問題になっており、このブログでも何度か取り上げたことがありました。

なのでこれまでの経緯は省略しますが、今回は「PPAP」を出願していたことがわかり、炎上しているわけです。

例えば、J-PlatPatでざっくりと「ピイピイエイピイ」という称呼を検索してみると、

関連しそうな出願が4件ヒットして、うち3件がベストライセンスによる出願です(残る1件はエイベックス)。

あるいは、「ペンパイナッポー」で検索してみると、

5件がヒットして、すべてベストライセンスによる出願です。

このあたりから、「ピコ太郎がPPAPを歌うとベストライセンスに使用料を請求される!」という指摘がなされているようですが、その心配はありません。

そもそもまだベストライセンスによって商標出願されただけの段階で、登録されたわけではありません。しかも、どうせ出願料未納なのでしょうから、結局登録されることはないと思います(仮に出願料を払って登録されると、登録料が発生するので、ベストライセンスはそれも納付しないといけません)。

ということでそもそも気にする必要はないと思われるのですが、このあたりを飛ばしてこれらが登録された場合を想定しても、ピコ太郎さんが「PPAP」とか「ペンパイナッポ〜」などと歌っても、ベストライセンスの商標権は侵害しません。

商標権の侵害となるには、現存する商標登録の、

1. 指定商品/役務について、*
2. 登録商標を、**
3. 商標的に使用する、

ことが必要です。

* ** いずれも類似のものを含みます。

しかしながら、歌を歌っても、どの指定商品/役務についても商標を使用することにはならないので、要件1を満たしません。(まぁCMソングなどでは事情が異なる場合もあるかもしれませんが、ここではとりあえずおいておきます。)

このように、ベストライセンスが出願しても、さらには万一それが登録されても、ピコ太郎さんには実質的な影響はありません。他人が勝手に登録するのはけしからん!という感情はわかりますが、「芸人はネタを公表する前に商標出願しておかないといけないのか」というようなことは、心配する必要はありません。

今後もしそれらの出願が問題になるとしたら、

  1. ピコ太郎さんが「PPAP」を商標出願した場合に、登録できないケースが出てくる
  2. ピコ太郎さんが「PPAP」を商標的に使用しようとした場合に、制限されるケースが出てくる

といった点についてでしょう。

1については、実際にエイベックスがベストライセンスに9日間遅れて出願をしており、登録が妨げられる可能性があります。エイベックスにとっては大迷惑でしょう。

また、2については、例えばベストライセンスによる商願2016-108551が「文房具類(第16類)」を指定していることから、ピコ太郎さんが「PPAP」ブランドのペンを販売しようとしたときなどに、問題になるかもしれません。

ベストライセンスの無断大量出願は、今回のように芸能関係で話題になることが多いのですが、商標実務をする上では、たまたま出願内容が重複(類似)してしまうことの方が問題です。

特許庁は、

という通達を出しており、要は「どうせ出願料未納なので、そのうち取り下げられるから待ちましょう」と言うのですが、個人や中小企業では事業のスピードが速く、出願内容が不安定なまま進めることにはリスクがあるとして、商標の変更をせざるを得ないケースがあります。もし出願の譲渡やライセンスなどの交渉をすれば、彼らはその段階で出願料を納付し出願を有効化して、高額の費用を請求してくるであろうことは想像に難くありませんから、こちらから連絡をすることは通常は考えられません。弁理士としては、こういう点が特に問題だと考えています。

特許庁も手を焼いているのだと思いますが、何らかの解決策を見出してほしいものです。

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2016年・年末のご挨拶と、パテント誌記事掲載のご報告

約20年ぶりに紅白歌合戦を見ながらこれを書いています。

2016年も、様々な方にお世話になりました。謹んでお礼申し上げます。

今年は弊所にとって、挑戦の年でした、中国での事業が一段落ついたので、私は日本に滞在する期間を増やして、既存の事業の強化と、新しい事業への進出に力を入れることができました。詳細は公開できない部分もありますが、模倣品対策の分野で実績を積み上げられたことは大きな成果だと考えられています。来年以降も、この分野に力を入れていく予定です。

模倣品対策ということでは、本年9月号のパテントに記事が掲載されました。

ご一読いただけますと幸いです。

来年も、みなさまのお役に立てるよう、精一杯努力する所存です。何卒よろしくお願いいたします。

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パロディTシャツ一斉摘発の件をもう少し考えてみる

先日、アメリカ村でパロディTシャツなどを売っていた店舗の経営者などが一斉に逮捕されたというニュースを紹介しましたが、その後いろいろとご意見を伺ったので、もう少し考えてみたいと思います。

ネット上でも様々な考察がなされていますが、こちらの弁護士ドットコムの記事がよくまとまっているので、参考とさせていただこうと思います。

上記記事でも説明されているとおり、商標の機能は「自他商品識別機能」を基本として、さらに、「出所表示機能」「品質保証機能」「宣伝広告機能」の3つに細分化されると言われています。商標権侵害とは、形式的には指定商品に登録商標を使用すること(いずれも類似のものを含みます)をいいますが、実質的にはそれによって前記いずれかの機能が害されることをいいます。

ただしこの中で、宣伝広告機能については、学説では有力に指摘されているものの、裁判所は一貫してそれを認めていないので、今回は販売者の逮捕にまで至っていることをも考えて、これは考慮しないことにします。

また、ニュース記事からは対象となるパロディ商標がよくわからないので検討がしづらいのですが、そもそもパロディとして成功していない、ただの模倣品と評価されても仕方のないものも含まれているようで、これらは議論から除かないといけません。

今回は、上記弁護士ドットコムの記事で紹介されている、ナイキのロゴと一緒に『NAMAIKI』と書かれているものについて考えてみます。ナイキはロゴ(あのシュッと右上がりの図形)だけでも商標権を持っています(例えば登録2286631号)。そうすると、ロゴ部分のみをみて、形式的に商標権侵害と言ってしまうこともできそうです。

ただこれはかなり乱暴で、例えばそのロゴはそもそも商標的に使用しているのかという議論もできるでしょうし(つまりただのデザインなら商標として使用していない=商標が自他商品識別機能を発揮しない)、また、『NAMAIKI』の文字と一緒に使用しているわけですから、全体として一商標とみたときに、出所の混同は生じない(つまり需要者はナイキのTシャツだとは思わない=出所表示機能を害しない)可能性が高いわけです。

また品質保証機能については、これは通常は商標権者から出た商品の品質が、流通段階で変更されてしまう場合に問題となる機能ですから、パロディ商品とは無関係だと思います。例えば、品質保証機能が問題となるケースで有名なのものに、「並行輸入」があります。これは国内外で商品の品質が変わってしまう可能性があるときは、商標の品質保証機能を害するとして、商標権侵害となるとするものです。もちろん、商品そのものは商標権者から出たことが大前提です。他にも、「ハイミー事件」や「マグアンプ事件」などの有名な事例がありますが、いずれも商標権者から出た商品の流通段階での商標の使用態様が問題とされたものです。

そもそも、出所の混同を生じていない(出所が異なることが明らかな)商品では、何の品質を保証するのか、よくわかりません。『NAMAIKI』のTシャツは当然ナイキのTシャツとは品質が異なりますが、それをもってナイキのTシャツの品質保証機能を害するというのは、無理があるように思います。詳しく調べたわけではありませんが、品質保証機能はまず出所表示機能発揮する商標(商品)の中からさらに問題になるものではないでしょうか。

そう考えると、『NAMAIKI』Tシャツは、ナイキ商標のいずれの機能も害しないように思います。もちろん、『NAMAIKI』Tシャツを見てナイキを想起する人もいるでしょうが、先の記事でも書いたように、それは不正競争防止法の守備範囲です。不正競争防止法2条1項2号では、一定の条件下、狭義の混同(出所の混同)も、広義の混同(関連会社等にあるという混同)すら生じない商標(商品等表示)でも排除できます。『NAMAIKI』を見てナイキを想起してしまうと、ナイキの唯一的地位が弱くなってしまう(希釈化:ダイリューション)ので、これを防止するための規定です。商標法ではここまでは保護していなくて、商標権で排除できるのは、狭義の混同を生じる商標(商品)までです。これは本記事の検討とも整合しています。

と理論的にはこんな感じになって、やっぱり商標権侵害というには少し無理があるように思うんですが、もし立件されたら、裁判所はロゴ部分の商標権侵害をあっさり認めるか、ナイキの著名性を考慮して商標全体も類似するとすらいうかもしれません。実務的にはあまり価値のない議論かもしれませんね。

今回は民事で十分対応できる事例を刑事事件にしたとか、法解釈が曖昧なのに警察が暴走したというようなことが言われていますが、おそらく権利者と警察が協力しながら摘発に結びついたのではないでしょうか。刑事事件の審理で出てきた情報をもとに、今後他店舗も含めて民事訴訟を検討するのかもしれません。刑事であれ民事であれ、訴訟で争われるなら商標法に加えて不競法違反も請求の根拠とされると思います。ただしパロディ商品の商標権侵害性という論点について判断されれば先例的価値があるでしょうから、まずはここを争いたいという思惑があるのかもしれませんね。

個人的な見解では、フランク三浦の件では価格帯や需要者層が異なるという取引の実情を考慮して商標非類似と言ったことを考えると、本件も、商標全体を比較して、非類似に傾いていいように思います。価格帯が異なるので需要者は混同しないと商標登録までしたのですから、商標の使用という場面でも、需要者が狭義の混同をするかどうかを厳格に判断しないと、バランスが悪いのではないでしょうか。

※ もっとも、商標非類似といってしまうと、不正競争防止法で商品等表示が類似するとはかなりいいづらいでしょうから、結局商標類似というしかない気もします。理論上は、狭義の混同を生じないので商標非類似だが、希釈化を生じるので商品等表示類似といってもかまわないのでしょうが、現実には難しいでしょう。このあたりは、狭義の混同という要件を商標の類否に押し込めるしかない商標法と、混同が要求されない不競法の埋めづらいギャップなのかもしれません。
※ また、もしこれを商標権侵害といわないとすると、価格帯が明らかに違う典型的なニセモノ(例えば3,000円のヴィトンのバッグ)は商標権を侵害しないのかということにもなりかねず、やはりもう少し議論が必要なテーマだと思われます。

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パロディーTシャツなどを売っていた人が一斉に逮捕されたようです

ここのところ忙しくブログをサボり気味でしたが、面白いニュースがあったので紹介します。

パロディについてはこのブログでも過去にフランク三浦の事件を紹介していますが、これはパロディ商標の登録というテーマでした。今回はパロディ商品の販売が問題になったということで、少し別の角度から検討できそうです。

具体的に使用されていたパロディ商標はよくわからないのですが、「NIKE」のパロディの「NICE」だとか、「ADIDAS」のパロディの「AJIDESU」などがあった模様です。情報が少ないのでこれらの具体的な商標権侵害性は検討しません(できません)が、ニュースにあるとおり、パロディ商品を商標権侵害で、しかも刑事事件として処理するのは珍しいので、この点を少し考えてみたいです。

過去の記事の繰り返しになりますが、パロディ商品は、典型的なニセモノとは異なり、本物と間違わせて購入させることを目的とはしていません。ブランドを面白おかしく変形させた、一種のギャグ商品なわけです。

これが商標権侵害の適否にどのような影響を与えるかというと、商標はそもそも商標権者の商品と他者の商品を区別するためのものですから、商標権侵害とは、実質的には、商標権者の商品と取り違える態様で商標を使用することをいうことになります。すなわち、商標権の効力は、

第25条
商標権者は、指定商品又は指定役務について登録商標の使用をする権利を専有する。(後段略、ついでに37条1号も省略)

となっていて、形式的には指定商品に登録商標(いずれも類似のものを含む)を使用すれば商標権侵害となりそうですが、実質的にはやはり商品の出所の誤認混同を生じる態様での使用に限定して商標権侵害というべきですから、出所の混同を生じないパロディ商品を商標権侵害ということには、感覚的に受け入れづらい部分もあります。

ニュースにあるような、「ブランドイメージを損なう」というのは、実は商標法の直接の守備範囲ではありません。商標権で防止できるのはあくまでも狭義の混同(商品の取り違え)であって、広義の混同(関連会社にある等の混同)までは防止できませんし、ましてや広義の混同すら生じない商標の使用(例えばパロディ)は、いくら商標同士が類似していても、商標権侵害というべきではないようにも思います。本来ならば、こうした商品には不正競争防止法で対応することになると思われます。

まぁしかし、アメリカ村にはもう十年以上行っていませんが、相変わらずこういう商品がたくさんあるんでしょうね。東京では原宿の竹下通りや上野のアメ横がこんな感じでしょうか。京都だと新京極はどうなんでしょうか。パロディ商品はあまり見ない気がします。ちなみに中国にはいくらでもあります(笑)

今回はおそらく権利者の代理人(弁護士)が頑張って、マスコミを巻き込んで大規模な摘発に結びついたのだと思います。これらの商品はネット上でも山ほど売られているにも関わらず、実店舗を狙ったのは、見せしめというか話題性の大きさを考慮したのかもしれません。このニュースを受けて、他店舗やネット上のパロディ商品の流通にどのような影響が出るのか、興味がありますね。もちろん本件が起訴されたらその判決にも大いに興味があります。

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『パテント』に記事掲載されました

日本弁理士会が発行する月刊誌、『パテント』の今月号(9月号)の特集が「模倣品対策」でして、私も義烏絡みの記事をひとつ寄稿しました(偉そうに言っていますが、パテントを作る委員会に知り合いの弁理士がいて、中国絡みで書くよう頼まれただけです)。

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そもそも弁理士以外の方は『パテント』をご存知でないと思いますが、ざっくりいうと弁理士会の会報誌のような位置付けの雑誌です(こんな表現をすると怒られるかも)。弁理士には毎月全員に強制的に送られてきますが、それ以外は、官公庁や裁判所、警察、税関などの知財関連の機関の方を除いては、あまり目にする機会がないかもしれません。基本的には弁理士が論文のようなものを投稿して、審査に通ると掲載されるようになっています。

私の記事は論文ではなく(まぁ形式的には論文なのかもしれませんが)、単に義烏と福田市場、さらに、義烏を介して行われる中国輸入というモデルについて、模倣品の観点から紹介するというものです。

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記事内容は、卸売に特化した義烏という街をざっくりと紹介し、そのトレードマークでもある福田市場について説明をした上で、福田市場やタオバオ、アリババなどから小口で模倣品を輸入し日本のネットで販売する「中国輸入」にも軽く触れ、それに対する効率的な対応策を提案するものです。

紙面の制限があり表面的な話しかできませんでしたが、おそらく法律専門家の観点から義烏を紹介する記事は史上初ではないかと思われ、また特に、「中国輸入」というわけのわからない偽物販売ビジネスについて広く世に紹介することができたことは有意義であったと考えています。

これまで規模が小さすぎて対応コストがペイしないため、中国輸入という偽物販売ビジネスは無視されてきたという現実がありましたが、比較的コストをかけずに効果的な対応ができるのであれば、権利者さんたちも動けるかもしれません。

そしてそうした小規模の偽物を大量に発信しているのが義烏だという事実を知っていただければ、より効果的な対応ができるようになる可能性があります。

本当は福田市場にある偽物商品の写真を大量に掲載して、偽物を売っているブースに突撃取材して・・・などをやりたかったのですが、『パテント』に載せる以上そういうわけにはいかず、一般論を紹介するに留めました。

また中国輸入についても、基本的には日本のアマゾンで売られるとか、最近はメルカリがやばいとか書きたかったのですが、具体的な名称を出すわけにはいかず、こちらも一般論として説明するだけになっています。

これらについてより具体的な内容をお知りになりたい方は、無料でセミナーをやっていますので、お気軽にお申し付けください。

なお、この記事は2ヶ月後にPDFで公開されますので、『パテント』を入手できない方は、そちらにお目通しいただければ幸いです。

※ ところでタイトルの 「ニセモノのふるさと」義烏と「中国輸入」 という表現は、カギ括弧の位置がイマイチよくわからないものになっていますが、まぁいろいろあったのです。本当はカギ括弧のないタイトルで提出したのですが、いろいろ問題がありそうということで、いろいろ検討した上でこの形に落ち着きました。お察しください。

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