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アマゾンブランド登録に標準文字商標の登録が要求される件について

アマゾンのブランド登録をご存知でしょうか。これは、アマゾン内で、アマゾンが独自にブランドを登録・管理する制度です。

ブランド登録の意義については後述します。ブランド登録をするには、上記ページから申請をします。申請があると、アマゾンはそれを審査して、基準に達すると判断されれば、無事にブランド登録となります。(なお、既存の著名ブランドは、申請をせずともアマゾン自身が登録していると思われます)。

さて、最近ブランド登録の審査基準(登録要件)が変更され、「標準文字の商標登録が完了していること」が必要となりました(おそらく平成29年5月1日以降)。

特に中国から商品を輸入してアマゾンで販売する方々(以下、中国輸入業者)から、この件についての問い合わせが多く、正直なところ通常業務に影響が出ており困っているので、最初にそれについて書きます。

アマゾンブランド登録をすると、出品に際してJANコードが不要であったり、商品カタログの編集権限を独占できたりというメリットがあるようで、中国輸入業者にとってもブランド登録は重要なようです(この点については詳しくないので業界の人に相談してください)。

で、問い合わせが多いのが、過去に商標登録をしたが、標準文字商標の登録が必要だとして、ブランド登録できなかった、どうすればいいか?、あるいは既にブランド登録をしているが、ブランド登録の要件の変更にどう対応すればいいか?というものが大半です。前者は、アマゾンに申請をしたが拒否されたということなのでしょう。中にはその「過去の登録」を弊所で行っていないにもかかわらず、こういう問い合わせをしてくる人がいて、便利屋か何かと勘違いしているんじゃないかと思うんですが、私は弁理士です。非常識な人に無料で対応する趣味はありませんので念のためご留意ください(こんなことを書かないといけないくらい非常識な人が多いんです、ほんと)。

結論から言いますと、過去の出願・登録がない場合、あるいは出願・登録があっても商標が標準文字でない場合は、出願し直してください(新たに標準文字の出願をしてください)。それしか方法はありません。特に過去の出願(審査継続中)や登録(登録済み)がある方は、それを標準文字に変更するとか、その内容を追加するとかできないかとお尋ねになるんですが、できません。商標の内容は、一度出願したらいじれないと思ってください。他の選択肢を検討するだけ時間の無駄ですし、弊所にお問い合せいただいても「出願し直してください」としか答えようがないので、お互い無駄なやり取りは省略しましょう。

過去の商標登録が標準文字かどうかを判断するのは簡単で、公報(公開公報あるいは登録公報(商標公報))に「標準文字」の記載があれば標準文字商標ですし、なければ標準文字商標ではありません。

もちろん、J-PlatPatでも確認できます(「標準文字」の記載を探してみてください。)

念のために、標準文字制度の説明をしておきますと、これは、商標が文字商標(文字のみからなる商標)であって、明朝体やゴシック体などの標準的な書体を権利範囲(専用権の範囲)とするときは、書体や文字デザインを特定せずに、「標準文字」として登録できる制度です(詳細はこちら)。

以下の図は必ずしも正確ではありませんが、文脈上標準文字制度を理解していただくのに十分だと思います。

で、なぜアマゾンがブランド登録に標準文字商標の登録を要求するようになったかですが、おそらく最も主な理由は、ブランド名の重複を避けるためだと思われます。これまでは、ブランド登録には商標登録が要求されていなかったので、ある意味早い者勝ちで登録されていました。そうすると、本来のブランドオーナーでない者が先にそのブランドをアマゾンで登録してしまったり、偶然ブランド名が重複してしまうというトラブルがあったのだと思います。

そこで、商標登録により真のブランドオーナーであることを確認しようという話になったのではないでしょうか。アマゾンが資料提供などを求めて積極的に判断するのではなく、その判断は商標制度を利用して行おうということだと思われます。なんとも合理主義のアマゾンらしいやり方です。

さらに、なぜ標準文字なのか(ロゴや飾り文字ではいけないのか)というと、これもおそらく、ブランドの重複を避けるためです。例えば、あるブランド名について、飾り文字と標準文字(あるいは「図形+文字」の商標と標準文字)が、それぞれ他人に登録されることは、ありえます。そのような場合、やはりアマゾン内でブランドの重複が問題になります。そこでアマゾンでは、その重複の有無の確認も、商標制度を利用して行うことにしたものと思われます。重複する標準文字商標は登録されないはずですから、「標準文字商標が登録されているならアマゾンブランド登録もできる」とすれば、アマゾンは実質的な判断をせずに、ブランドの重複登録を避けることができます。

上記はあくまでも推測ですが、おそらく正しいでしょう。「この件についてアマゾン・ジャパンに問い合わせたが的を射た回答を得られなかった」と言う方がいますが、当たり前です。なぜならば、このルールは、他のそれらと同様に、米アマゾンから輸入されているからです。

法制度の差異により多少日本のものと規定ぶりが異なりますが、ざっくりとは同じことが要求されています。標準文字の商標登録が必須で、あるならば実際に使用しているロゴ等も出せと言っています。

そしてこれは、日本にだけでなく、世界中のアマゾンに輸出されているルールです。標準文字制度がない国もあり(例えば中国)、それぞれ多少異なる表現となっていますが、だいたい同じような内容が要求されています。なので、この件でアマゾン・ジャパンにいくら文句を言っても、あしらわれるだけでしょう。おとなしく標準文字の出願を急ぐのが吉です。

なお、過去にロゴやロゴと文字のセットで商標登録して、現在ブランド登録しているが、規約変更を期に標準文字商標を追加で登録するべきか、という問い合わせも多いのですが、上述のように、した方がいいです。一般論としては、先の登録があれば、同じ文字列で他人が標準文字商標を登録できる可能性は低いので、あまりリスクはないかもしれませんが、絶対にないとは言い切れません。また、他人がその文字部分にのみ類似する商標を登録できる場合もあるでしょうし、それを根拠に貴社が文字部分のみを標準文字で登録できないケースも出てくるかもしれません。こういうリスクを排除するには、自社で標準文字商標を登録しておく必要があります。アマゾンはブランド登録自体をやり直せと言っているので、今後標準文字商標の登録が必須になる可能性が高いです。登録までに半年程度かかることを考えると、やはり早めに出願をしておいたほうが、今後の活動に有利となるでしょう。(そもそもアマゾンを離れて、そのブランドを育てていこうとするのであれば、ロゴに加えて標準文字商標も登録しておくのは、一般的なブランド戦略においても重要です。)

さて、ここからは一般の企業様(主にメーカー)向けの話です。

アマゾンブランド登録の意義は、以下にあります。

  1. 商品カタログ(商品ページ)の編集権限を持てる。
  2. JANコードがなくても出品できる
  3. 同一ブランドの商品の商品ページをリスト表示できる
  4. 商品検索機能が強化される
  5. ブランド保護が強化される

順に見ていくと、1は、要は単に貴社商品を仕入れて販売する業者に、商品ページを編集されることを防ぎ、正規の販社にその管理を任せることができるというメリットがあります。2はメーカーの方には特に関係ないでしょう。3は、商品ページ上でブランド名をクリックすると、そのブランド名で出品されている商品の一覧を表示させることができます。もしここに、貴社商品以外の商品が出てくるようならば、模倣品の可能性があります。4については、いまのところ内容を把握できていません。

5は、アマゾンにおける模倣品排除において重要です。アマゾンに知的財産権(特に商標権)侵害の申し立てをする際に、ブランド登録されている商標ならば、排除がよりスムーズになります。具体的には、ブランド登録されている商標についての申し立ては、原則として真正なものであるとして、アマゾンはほぼ右から左に削除してくれます(ちなみに申し立ては商標権者あるいはその代理人しかできません)。ヤフーや楽天なども、著名なブランドについては、そうでないものと比べてよりスムーズな排除方法を提供していますが、アマゾンのブランド登録はそれらに対応する制度だと考えてよいでしょう。
また、ブランド登録をすると、模倣品発見のツールがアマゾンから提供されるようです。これについては、日本でも提供されているかを含めて詳細が不明なので、情報収集をして、改めてお知らせします。

結論としては、アマゾンにて貴社ブランドが登録されていないならば、早めに登録をしたほうがよいでしょう。標準文字商標の登録がまだならば、まずはこれを急いでください。米国では、ブランド登録を活用して、大規模な模倣品排除に成功している事例があるようです。ブランド登録自体には費用がかかりませんので、積極的に活用されることをお勧めします。
※ ブランドが登録されているかどうかは、アマゾン内でそのブランド名を検索してみれば(商品ページを見てみれば)わかります。

最後に、標準文字で出願する際の注意点について、これはブランド登録する名称と完全に一致している必要があります。大文字小文字の区別も必要ですし、複数の語からなる場合はちゃんとスペースをあけておくことも必要です。「・」は「ー」も正確に記載しましょう。
※ なお、標準文字ではハイフンは登録できないので、マイナスなどで代用することになりますが、さすがにそこまではみないでしょう。また、アルファベットはすべて全角での登録になります。

例)
ブランド登録したい名称
KOSHIBA-IP

商標登録(標準文字)
○ KOSHIBAーIP
× KoshibaーIP
× KOSHIBA IP
× KOSHIBAIP

弊所ではアマゾンブランド登録の代理/代行は行っていませんが、ご不明点があれば、お気軽にお問い合せください。(ただし中国輸入業者の「標準文字で出願した方がいいですか/出願し直す必要がありますか」という問い合わせはもう勘弁してください。答えは「出願しないとブランド登録できません」です。)

最後に余談ですが、アマゾンが標準文字商標の登録を要求する理由は説明しましたが、根底には、よくわからない自称ブランドが乱立している問題があるのだと思います。自称「OEM」、あるいは開き直って「簡易OEM」などと意味不明の呼び方をすることも多いようですが、中国でパクリ商品を見つけて、あるいはそれを少しだけ改造して、自分のロゴを付して「オリジナル商品」「オリジナルブランド」と名乗る図々しい商品が、米アマゾンで(もちろん日本でも)氾濫しています。アマゾンは、そうした商品はノーブランド品として売ってくれと言っているんですが、カタログを独占したいというだけの理由で適当に改造したり商標を付したりして、オリジナル商品のフリをする輩には困っているようです(一方で営業部ではそういう商売を煽っているようで、これがまた混乱を呼ぶ原因になっているようなのですが・・・)。

また別の話ですが、ブランド登録のための商標登録をするときに、指定商品は小売等役務(第35類)でよいのか?という問い合わせもチラホラあります。これは、以前当ブログでもご紹介したとおり、個別の商品を複数指定して区分数が増えると費用がかさんでしまうので、すべてを「○○の小売・・・」として、第35類にまとめて列挙したいという需要があるからです。
この点については、規約変更されたばかりでまだ事例がなく、よくわかりません。商品に商標を付して商品のブランドとして登録するわけですから、常識で考えれば個別の商品を指定すべきで、小売等役務について商標登録をするなど意味がわからないのですが、アマゾンはそこまで判断しないかもしれません。
弊所では、小売等役務を指定して出願しろとのご指示があれば従いますが、ブランド登録のためにそのような出願をすることは、お勧めしません。半年後に商標登録が完了しても、ブランド登録できないリスクがあることをご承知おきいただいた上でご指示ください。また、「35類でもいいんですか?」という問い合わせももうカンベンしていただきたいです。上記のとおりわからないので、アマゾンに直接確認してください。繰り返しますが常識的には個別の商品について登録すべきです。

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パロディーTシャツなどを売っていた人が一斉に逮捕されたようです

ここのところ忙しくブログをサボり気味でしたが、面白いニュースがあったので紹介します。

パロディについてはこのブログでも過去にフランク三浦の事件を紹介していますが、これはパロディ商標の登録というテーマでした。今回はパロディ商品の販売が問題になったということで、少し別の角度から検討できそうです。

具体的に使用されていたパロディ商標はよくわからないのですが、「NIKE」のパロディの「NICE」だとか、「ADIDAS」のパロディの「AJIDESU」などがあった模様です。情報が少ないのでこれらの具体的な商標権侵害性は検討しません(できません)が、ニュースにあるとおり、パロディ商品を商標権侵害で、しかも刑事事件として処理するのは珍しいので、この点を少し考えてみたいです。

過去の記事の繰り返しになりますが、パロディ商品は、典型的なニセモノとは異なり、本物と間違わせて購入させることを目的とはしていません。ブランドを面白おかしく変形させた、一種のギャグ商品なわけです。

これが商標権侵害の適否にどのような影響を与えるかというと、商標はそもそも商標権者の商品と他者の商品を区別するためのものですから、商標権侵害とは、実質的には、商標権者の商品と取り違える態様で商標を使用することをいうことになります。すなわち、商標権の効力は、

第25条
商標権者は、指定商品又は指定役務について登録商標の使用をする権利を専有する。(後段略、ついでに37条1号も省略)

となっていて、形式的には指定商品に登録商標(いずれも類似のものを含む)を使用すれば商標権侵害となりそうですが、実質的にはやはり商品の出所の誤認混同を生じる態様での使用に限定して商標権侵害というべきですから、出所の混同を生じないパロディ商品を商標権侵害ということには、感覚的に受け入れづらい部分もあります。

ニュースにあるような、「ブランドイメージを損なう」というのは、実は商標法の直接の守備範囲ではありません。商標権で防止できるのはあくまでも狭義の混同(商品の取り違え)であって、広義の混同(関連会社にある等の混同)までは防止できませんし、ましてや広義の混同すら生じない商標の使用(例えばパロディ)は、いくら商標同士が類似していても、商標権侵害というべきではないようにも思います。本来ならば、こうした商品には不正競争防止法で対応することになると思われます。

まぁしかし、アメリカ村にはもう十年以上行っていませんが、相変わらずこういう商品がたくさんあるんでしょうね。東京では原宿の竹下通りや上野のアメ横がこんな感じでしょうか。京都だと新京極はどうなんでしょうか。パロディ商品はあまり見ない気がします。ちなみに中国にはいくらでもあります(笑)

今回はおそらく権利者の代理人(弁護士)が頑張って、マスコミを巻き込んで大規模な摘発に結びついたのだと思います。これらの商品はネット上でも山ほど売られているにも関わらず、実店舗を狙ったのは、見せしめというか話題性の大きさを考慮したのかもしれません。このニュースを受けて、他店舗やネット上のパロディ商品の流通にどのような影響が出るのか、興味がありますね。もちろん本件が起訴されたらその判決にも大いに興味があります。

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中傷レビュー投稿者の情報開示が命じられた事例から考えるアマゾンにおける模倣品対策

またも少し出遅れましたが、アマゾンに投稿された中傷レビューの発信者の情報開示を求めた訴訟において、裁判所が面白い判決を出したようです。

記事によると、アマゾンで中傷レビューを投稿されたNPO法人が、投稿者の情報を開示するよう求めていた件で、裁判所は、アマゾンジャパン株式会社に、投稿者のIPアドレスに加え、氏名、住所、メールアドレスの開示を命じる判決を下したそうです。

この話題のポイントは、2つあります。

ひとつは、IPアドレス以外の情報も、アマゾンに開示義務があると判断した点です。これまでの手続きの流れに従えば、まずアマゾンに対してIPアドレスの開示を請求して、その情報を基に、ISP(プロバイダ)に対して個人情報を開示する請求するという、二段階の手続きをすることになっていました。ところが本判決では、アマゾンに対して、IPアドレスのみならず、投稿者の氏名や住所なども開示するように命じました。これにより、アマゾンに対する一度の手続きのみで投稿者の個人情報を入手できることになり、開示請求をする方は手間・時間・費用を軽減させられることになりました。

もうひとつは、今回開示義務が課されたのがアマゾンジャパン株式会社であるという点です。ご存知の通り、Amazon.co.jpの運営主体は、Amazon.com Int’l Sales, Inc. 及び Amazon Services International, Inc. です(米国2社による共同運営)。日本法人であるアマゾンジャパン株式会社は対応窓口に過ぎないため、Amazon.co.jpで生じたトラブルについての訴訟は米国企業を相手に起こさなければならないとこれまでは言われていました。ところが本判決では、アマゾンジャパン株式会社に対して情報開示を命じました。これにより、米国企業と裁判をしなくてもいいこととなり、開示請求がかなりやりやすくなったといえます。

それぞれのポイントについて簡単にみていきます。

前者については、これまでもできるのではないかと言われていました。司法や行政などからの強制力のある命令があれば、アマゾンは情報を出さざるを得ないだろうというのが専門家の見解でした。実際にIPアドレスはこれまでもアマゾンなどのサイト運営者から開示されていました。

今回は、氏名や住所なども含めてアマゾンに開示義務があると判断された点に意義があるのですが、実はこの氏名や住所は、アマゾンに登録されている情報だという点に注意が必要です。従来のISPが開示する方法では、IPアドレスからユーザごとの接続IDや接続先サーバから住所などを特定します。一方で、アマゾンはそうした情報を割り出すことはできないので、アマゾンにユーザ登録されてある情報を提供することしかできないはずです。アマゾンでは、クレジットカードと電話番号さえあればアカウントが作れてしまいます。これらの情報は一時的なものを入手するのが簡単なので、虚偽の住所や氏名で登録がなされている場合、正確な情報が割り出せないという問題が残る点には注意が必要です(このような事情を知って最初から虚偽情報で登録する人は実際にいます)。そのようなケースでは、結局従来通りの方法でISPに情報開示請求をするしかありません。

あとは、今後は同様の訴訟を提起すればこうした情報を開示させられるのでしょうが、弁護士会照会ではどこまでの情報が出てくるのか(アマゾンには出す義務があるのか)も今後の検討課題でしょう。

さて、今回特に重要なのは、後者です。今回原告は、本件訴訟に先立ち、アマゾン米国法人を訴えていたそうです。その後日本法人も訴えたところ、「Amazon.co.jpの運営主体はアマゾンジャパン株式会社である」と認めたため、米国法人に対する訴えは取下げて、アマゾンジャパンに対する請求一本に絞ったという経緯があるようです。

これまで、アマゾンと書面等でやり取りをすると、サイトの運営主体は米国法人であり、日本法人は対応窓口にすぎないという注意書きが必ず記載されていました。一方で、アマゾンの倉庫(FBA)はアマゾンジャパン・ロジスティクスが運営しているという事情があり、サービス全体としては誰が実質的な運営主体がよくわからない状態となっていました。こういった事情のため、Amazon.co.jpにおける問題について訴訟を起こすならば、米国法人を相手に訴えるしかないというのが一般的な考えでした。それが、アマゾン自ら実質的な運営主体はアマゾンジャパン株式会社あると認めたことにより、アマゾンジャパンを訴えればいいとされた点で、本件には大きな意義があるといえます。

本判決は、アマゾンにおける知的財産権侵害への対応にも影響すると思われます。例えば、Amazon.co.jpで商標権や意匠権などの知的財産権侵害をする商品が販売されているのを発見したら、出品取り下げなどをアマゾンジャパン株式会社に申告することになります。ところが、解釈の差などの理由で、アマゾンがスムーズに手続きをしてくれないことがあります。そうしたときに、これまではアマゾン米国法人を相手に訴訟を起こさなければいけないと考えられていたので、かなりハードルが高く、ネット販売では侵害の規模が小さいことが多いことを考え合わせると、手間やコストの観点から、訴訟提起できないという問題がありました。もしアマゾンジャパン株式会社を相手に訴えればいいということであれば、訴訟のハードルが格段に下がる(例えば書類の翻訳料がなくなるだけでかなりのコスト削減になります)ので、今後はAmazon.co.jpにおける知的財産権侵害の問題は裁判で争う例が増えるかもしれません

また、FBA倉庫(フルフィルメントセンター)に偽物が納品されている可能性が高いことがわかっているときに、出荷差し止めや、その前段階として工場への立入検査を希望することは多くあります。これについても、これまでは米国法人を訴えるのは大変なので諦める事例が多かったのですが、今後はアマゾンジャパン・ロジスティクスを訴えればいいのだろうということが明らかになったように思います。

そういう意味で、本判決は中傷レビューに関するものですが、模倣品対策の観点からも、今後の実務に与える影響は大きいと思われます。

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ECサービス提供者の知的財産権侵害への対応責任

アマゾンや楽天、Yahoo!などのECショッピングモールで自社製品の模倣品を発見した場合、どう対応したらよいでしょうか。

本筋からいえば、その模倣品を試買し、真贋を判定して、模倣品である(自社の知的財産権を侵害する)と判断したならば、相手方に警告書を送るとか、裁判所に訴状を提出するなどの手続をとるべきです。

しかし、いまの日本のECショッピングモールは偽物だらけです。ひとつを潰しても雨後の竹の子のように次々と湧いてくるので、正面からいちいち相手にすると費用倒れしてしまいます。なのでなんとかまとめて対応するか、個別に対応するにしてもコストをかけない方法がないかと考えるのは当然のことです。

模倣品対策においては、偽物は上流で止めるのが大原則です。ほとんどの偽物は中国から入ってくるので、「製造工場を潰す」「輸出業者を潰す」「中国の税関で止める」「日本の税関で止める」などの対応をしているわけですが、努力むなしくそれらの網をすり抜けて日本に入ってくる偽物が跡を絶ち絶ちません。一度日本に入ってしまうと日本中に拡散してしまい対応がかなり難しくなるわけですが、ECショッピングモールは数者による寡占状態にあるため、そこで対応することができます。すなわち、バラバラに日本に入ってきた偽物がもう一度だけ集結する、最後のチャンスがECショッピングモールなのです。流通フローでは最下流ではありますが、そこで止められるチャンスがあるのですから、これを利用しない手はありません。

では具体的にどうするのでしょうか。基本的な考え方は、ECショッピングモールに働きかけて模倣品の出品を削除してもらうことになります。いかにコストをかけずに出品削除に持ち込むか、更には各ショッピングモールの用意する制度を利用してそうした違法な業者をいかにしてそのモールから排除するかが重要です。

通常、ECショッピングモールでは、知的財産権を侵害する商品の出品情報を報告するシステムを用意しています。

これらのシステムを利用して自社の知的財産権を侵害する出品を報告すれば、プラットフォームが出品削除の手続きを行ってくれます。出品者に対して個別に警告書を送ったり訴訟を提起することに比べれば、大幅に手間やコストを抑えることができます。

一方で、こうした報告を受けたプラットフォームには、どこまで対応責任があるのでしょうか。以下の裁判例が参考になります。

この裁判例についてはいずれ個別に詳しく紹介しますが、サービスプロバイダに商標権侵害責任が問われる可能性が指摘された点で、大きな価値があるといえます。

すなわち、ECショッピングモールにおいて商標権侵害商品が出品されているときに、その商品を出品している者(店舗)が商標権侵害をすることは明らかですが、それに加えて、サービスプロバイダも商標権侵害責任を問われることがあり得ると判断されているのです。

その要件として、知財高裁は以下のように述べています。

ウェブページの運営者は,商標権侵害行為の存在を認識できたときは,出店者との契約により,コンテンツの削除,出店停止等の結果回避措置を執ることができること等の事情があり,これらを併せ考えれば,ウェブページの運営者は,商標権者等から商標法違反の指摘を受けたときは,出店者に対しその意見を聴くなどして,その侵害の有無を速やかに調査すべきであり,これを履行している限りは,商標権侵害を理由として差止めや損害賠償の責任を負うことはないが,これを怠ったときは,出店者と同様,これらの責任を負うものと解される
(下線は筆者)

つまり、アマゾンや楽天などのプラットフォームは、模倣品が販売されていると通報を受けたら、一定期間内に、その事実を調査し、出品削除などの対応をしないと、プラットフォームが商標権侵害をすることになってしまうと裁判所は言っているのです。

このような事情があり、各プラットフォームは上記の報告窓口を用意しているのですが、実際に報告をして対応を依頼した権利者の方からは、「十分な対応をしてもらえていない」という意見も聴かれます。特にアマゾンについては、他のプラットフォームよりも対応が不十分であるという印象を持っている権利者が多いようなのですが、なぜでしょうか。

理由のひとつに、上記チュッパチャップス判決の射程距離が明らかではないということが挙げられると思います。

例えば、そもそもこの判決は、商標権侵害についてしか言及していません。では他の知的財産権侵害の場合はどうなのでしょうか。そんなの同じだと思われるかもしれませんが、実は重要な問題だと思われます。商標権侵害ならば、その侵害の事実が一見してわかる場合がほとんどです。しかし、特許権の場合はそうはいきません。商品を見ただけでそれが特許権侵害をするかどうか判断するのは、多くの場合不可能です。著作権や不正競争防止法など、登録された権利に基づかないものの判断もまた困難です。このように考えると、そもそもチュッパチャップス判決の射程距離は、商標権侵害のみに限定されているとも考えられます。

また、商標権が問題となる場合であっても、本当に商標権侵害をするのか、容易には判断できないケースももちろんあります。例えば模倣品のクオリティが低くロゴのデザインが少し違うとか、商標を似せつつ敢えて多少変更してあるような場合、商標法の観点からその商標が類似するかの判断が難しいケースも少なくないでしょう。あるいは、「並行輸入」や「商標的な使用」のように、法的な解釈が難しいものもあるはずです。おそらくチュッパチャップス事件では、そのような微妙なケースまでプラットフォームに判断の責任を課してはいないと思います。

さらには、そのような微妙なケースにおいて、プラットフォームの判断が誤っていた場合、すなわち、例えば将来裁判所では「非類似」と判断されるものを誤って「類似」と判断してしまい、出品削除の措置をとってしまった場合、プラットフォームは削除された店舗に対して損害賠償する責任があるのでしょうか。プラットフォームにとっては重要な問題なはずです。

このようなことを考えると、プラットフォームとしては模倣品だからと簡単には出品削除できない事情があるのかもしれません。実際、そのような微妙な部分について判断できるのは、裁判所だけです。民間企業であるECプラットフォームが責任を持って判断することはできませんし、そもそもそのような責任はないので、必要以上のコストをかけてシステムや人員を用意する必要もありません。「プラットフォームが十分な対応をしてくれない」と感じる最も大きな理由はこのあたりにあるのかもしれません。

特にアマゾンは、運営会社が米国企業だという特殊な事情があります。日本のサイト(Amazon.co.jp)での侵害について報告を行うと、アマゾンジャパン株式会社という日本の子会社が対応してくれるのですが、あくまでも日本側の対応窓口であり、実際に法的なやり取りをする相手は米国アマゾン社です。つまり米国アマゾン社の代わりにアマゾンジャパン株式会社が対応するというスキームなため、複雑なケースでは柔軟な対応がしづらく、権利者さんは不満を感じることがあるようです。

ただ上述のようにそもそもアマゾンの対応責任範囲はそれほど広くない可能性があり、また、私が実際にアマゾンジャパン株式会社の法務部と交渉等をしている経験からは、権利者側がしっかりと情報提供すればアマゾンも十分な対応をしてくれることが多いと感じています。必要な情報を揃えて正しい要求をすれば、アマゾンでも他のプラットフォームでも、迅速に模倣品の出品を停止してくれるという印象を持っています。

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