Category: ブログ全般

2016年・年末のご挨拶と、パテント誌記事掲載のご報告

約20年ぶりに紅白歌合戦を見ながらこれを書いています。

2016年も、様々な方にお世話になりました。謹んでお礼申し上げます。

今年は弊所にとって、挑戦の年でした、中国での事業が一段落ついたので、私は日本に滞在する期間を増やして、既存の事業の強化と、新しい事業への進出に力を入れることができました。詳細は公開できない部分もありますが、模倣品対策の分野で実績を積み上げられたことは大きな成果だと考えられています。来年以降も、この分野に力を入れていく予定です。

模倣品対策ということでは、本年9月号のパテントに記事が掲載されました。

ご一読いただけますと幸いです。

来年も、みなさまのお役に立てるよう、精一杯努力する所存です。何卒よろしくお願いいたします。

この記事に対するご意見・ご感想は、弊所facebookページよりお願いいたします。
当ページヘのいいね!もお待ちしております。

商品商標と小売役務商標の関係 – 新年のご挨拶に代えて –

あけましておめでとうございます。
本年も皆様のお役に立てるよう精進して参りますので、どうぞよろしくお願いいたします。

さて、本年一発目のテーマは、商品商標と小売役務商標の関係です。去年最も問い合わせの多かったテーマのひとつです。(なお正確には卸売を含むので小売役務といいますが、あまり重要でないので本稿では小売役務といいます。)

例えば、「セーターの小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供」を指定して商標登録した場合に、当該商標権に基づいて「セーター」についての商標の使用を排除できるのか、という疑問です。

なぜそんなことを考えるのか、素直に「セーター(第25類)」を指定すればいいじゃないかと思われるかもしれませんが、取扱商品の幅が広い場合、区分が複数にまたがるので権利取得や維持にかかるコストがかさんでしまうという問題があるのです。小売役務ならば指定するのはあくまでも「小売」というサービス*なので、いくら商品の範囲が広くても第35類に含まれ、1区分の料金のみで済むというメリットがあります。

* 正確には、現在の日本の商標制度では「小売」という役務は指定できません。小売自体は業種を表すに過ぎず、「小売」というサービスは存在しない(それ自体が独立して取引の対象となるものではない)ので、論理的に「小売」を指定役務とすることができないからです。あくまでも小売という商売に付随する様々なサービスを指定するだけですが、ここでは細かいことはともかく「小売」を役務として表現します。

上記のような相談をたくさん受けるのですが、弁理士的な観点からはかなりずれた発想で、そんなわけわからないことを考えなさるなと言いたくなります。ただし、あくまでも登録のテクニックとしては、一考の余地があるのかもしれません。

そもそもなぜこんなことが問題になるかというと、審査段階で、小売役務と商品の類否をクロスサーチすることから、権利行使段階でも同様に類否が語れるのではないかという疑問が生じるからです。

すなわち、審査段階では、「セーターの小売」という役務は、「セーター」という商品と類似するとされます(その逆も然り)。それならば権利行使段階でも同様ではないのかと考えられるわけです。たしかに、商標法4条1項11号と同37条1号は表裏一体ですから、説得力のある考え方です。

この点について実際はどうなのかを複数の専門家に相談してみたのですが、正直なところ、よくわかりません。なにせ裁判例等がまだないので、権利行使できるかもしれないし、できないかもしれないとしか答えられないのです。ただし、相談した方々の約半数は「できる(可能性がある)」と言っています。

主な理由は、「審査段階で類似ならば、原則として権利行使段階でも類似でないとおかしい」という、至極もっともなものです。ただし小売役務に関しては、審査段階で類似とされる理由に特別な事情があるので、もしかしたら解釈が異なるかもしれません。「できない」と考える残り半分の専門家の方はその点を指摘しています。

そもそも、審査段階で小売役務と商品の類否を見るという運用は、日本の商標制度の中でもかなり特殊です。例えば、「自転車の修理」という役務と「自転車」という商品は類似しません。「かつ丼の提供」という役務と「かつ丼」という商品も類似しません。もちろん商品と役務が類似することは理論上あり得る(商2条6項)のですが、かなり限定的なケースです。なぜ小売役務だけ特別かというと、小売役務制度が導入されるまでは、小売役務を商品商標で保護してきたという経緯があるからです。例えば高島屋のような何でも売っているデパートでは、あらゆる商品を指定して商標登録をしていました。以前は、小売(要は転売)は商売ではないという考え方が世界中に根強く、商標法で直接保護されなかったので、商品商標に含めていました。商標の使用の定義には「譲渡」も含まれるので、このような運用でも矛盾はありません(もっとも指定商品に対して商標を使用しているかという点には議論の余地がありそうです。裁判例では使用していると言っていますが…)。

ところが、平成19年に小売役務が導入され、「小売」については、従来の「商品商標」と、新設された「小売役務商標」の二本立てで保護されることになりました。実はこの二本立てが混乱を招く元になっています。特許庁の解釈を見てみると、商標の使用態様によってどちらか一方に分類されると考えているようです。

例えば、お店の看板やショッピングカート、店員の制服などに商標を付した場合、小売役務商標として保護されます。これこそが小売役務商標導入の目的です。これらは特定の商品と結びついていないため、商品商標では保護しづらいという点が問題となっていました。

一方で、商品そのものに商品を付す場合は、従来どおり商品商標として保護されます。その意味で、小売役務制度が導入されても、これまでに保護されていた部分の範囲は変わりません。特許庁によれば、例えばセーターの織ネームに商標を入れる場合はいうまでもないですが、流通段階にある商品の包装紙や値札に商標を付した場合も商品商標となります。

つまり、前者の場合の指定役務は「セーターの小売」となり、後者の場合の指定商品は「セーター」となるのです。

そうすると、もし「審査段階で類似するならば権利行使段階でも類似する」と考えるならば、小売役務商標を登録すれば、商品に対して商標を使用する者に対しても権利行使できることになりますし、同様に、商品商標を取得すれば、看板等について商標を使用する小売業者に対しても権利行使できることになります。後者は、商品商標の権利範囲が広がったことを意味するわけですが、本当にそうなのか(裁判所がそう判断するのか)は疑問です。

例えば「セーター」について『ABC』という商標登録があるとして、その商品を扱ってすらいないアパレルショップが店名に『ABC』を用いると、この商標権を侵害するのでしょうか。そこに何らかの出所の混同が生じるとは考えられません。小売役務制度が導入されるまでは商標権侵害とはなりませんでした。同制度導入後でもこれを商標権侵害とは言いづらいでしょうから、同様に、前者(つまり小売役務商標を商品に付す行為)も権利侵害とは言うべきではないとも考えられます。少なくとも『ABC』の周知性くらいは要求してもいいと思います。

結局のところ現状ではどうなのか誰にもわからないわけですが、おそらく「小売役務商標を取得しておけば商品に対しても権利行使できる」とはならない可能性が高いと思われます。少なくとも一定の条件・制約が課されるでしょう。

それに、そもそも小売役務と商品の類否をクロスサーチする運用自体が暫定的なものであり、将来変更となる可能性が高いので、その段階で死んだ権利になると指摘する弁理士の先生もいらっしゃいました。また、そのような登録方法だと、登録後3年間経過後には不使用取消審判を請求されてしまうので、そこで費用負担が生じます(もちろん権利行使もできません)。

商標の出願や登録に掛かる費用など大したことがないので、そこをケチって高額の審判費用を負担することになるのはまったくの無駄です(特許事務所としては単価の安い出願でサービスして後々高単価の審判で回収するというモデルが成立するのかもしれませんが、誠実ではありません)。

商標制度を正しく理解して、「商品に商標を付すならば商品商標」を、「小売業に付随するサービスに商標を用いるなら小売役務商標」を選択しておくのが、長い目で権利内容でもコストの観点からもお得です。

2015年を振り返って

先程、食事をしながら池上彰さんの番組を見ていたら、「パクリ」の特集をしていました。

その中で、次の行為はパクリの観点から問題になるか?というコーナーがあり、

葛飾北斎の絵を大胆にアレンジして、商業的なイベントのパンフレットに使用する

という問題の答えが「問題にならない」でした。しかしこれは正しくないでしょう。

問題にならないとする根拠は、「葛飾北斎の死後50年経過しているので、既に著作権が切れているのだから、いまさら何をしようが構わない」というものでした。しかしこれはかなり雑な説明です。

たしかに、絵画(美術)の著作物についての著作権は、著作者の死後50年で保護期間が満了します(著51条2項)。しかしこれはあくまでも著作財産権についての説明であり、著作者人格権については別途考慮する必要があります。

著作者人格権のひとつである同一性保持権では、著作物の改変に一定の制限を課しています。具体的には、著作者の意に反する改変をしてはいけないことになっています(著20条)。

同一性保持権(著作者人格権)は一身専属的であり、譲渡(相続を含む)することはできません(著59条)。すなわち、著作者が死亡した時点で、同一性保持権は満了します。しかし、著作者の死後も、著作者が生きていたら著作者人格権の侵害となる行為は禁止されます(著60条)。従って、葛飾北斎の絵画を勝手に改変すると、著作者人格権を侵害する行為として問題になる可能性があります。

では実際にはどのように問題になるのでしょうか。

差し止めや損害賠償などの民事的な請求は、遺族しかできません(著116条)。遺族とは、死亡した著作者の配偶者父母祖父母又は兄弟姉妹をいうので、これらの者がすべて(多くの場合、最終的に孫)が死亡してしまったらもはや民事的な請求はできません。

一方で、刑事的な観点からは、事情が異なります。著作者の死後に、著作者が生きていたら著作者人格権の侵害となる行為(著60条)を行うと、500万円以下の罰金が課せられます(著120条)。しかも、これは遺族の告訴がなくても立件できます(非親告罪)(著123条反対解釈)。著60条には期間の定めがないので、結局、葛飾北斎の死後であっても、葛飾北斎が生きていたら意に反するであろう改変は未来永劫禁止され、これを勝手に行うと、検察により刑事訴訟を提起され、500万円以下の罰金が課せられてしまう可能性があります

番組では、葛飾北斎の絵を「そのまま利用して」パンフレットに使用する、という事例にすべきだったでしょう。

※もっとも、著作権法が存在しなかった江戸時代の絵画までが上記解釈になるかは、知りません。そもそも著作権(財産権・人格権ともに)が発生していないでしょうから、保護されることもないように思います。その場合は番組の解説のロジックもおかしいことになります。

さて、弊所は昨日(28日)で2015年の全業務を終了させていただきました。年明けは4日から業務開始いたします。なお、年末年始もメール・FAX・郵便でのお問い合わせは受け付けております。4日より順次対応いたします。

無事に年末を迎えられるのも、ひとえにクライアント様及び各方面のご関係者の皆様のおかげです。謹んでお礼申し上げます。

2015年を振り返って思うのは、今年は様々な「挑戦」の年でした。特に今年は、いろいろなご縁があり、個人や中小企業の方のご相談を受ける機会がかなり増えました。弊所はこれまで外国の大企業が主なクライアントであったため、初めて商標出願を行うようなお客様の出願を行うことにはあまり慣れておらず、ご迷惑をお掛けしてしまった部分もあったかもしれません。お詫び申し上げます。

おかげさまで、1年間の業務を通じて、そのような案件についても所内システムを構築することができ、いまではご相談〜出願〜登録まで、スムーズに運用できるようになりました。

また、ここ数年力を入れていた、模倣品対策事業も少しずつ形になってきました。特にECにおける模倣品対策では一定の実績を残すことができた点は、素直に自己評価したいと思います。来年はこの経験とノウハウを基に、より多くの権利者様のお手伝いをさせていただきたいと考えています。

来年も、もっと様々なことに挑戦し、皆様の貴重な資産である知的財産を適切に保護するお手伝いをして参る所存です。
より身近な特許事務所・弁理士となれるよう努力と工夫を重ねていくことをお約束して、2015年のご挨拶に代えさせていただきます。

ブログ始めました

こんにちは、弁理士の越場洋です。
今日からブログを始めました。
主に貿易と知的財産に関する情報をお届けします。

ご質問も大歓迎です。
取り上げてほしい話題があればこちらからお知らせください。

よろしくお願いします!