先日、アメリカ村でパロディTシャツなどを売っていた店舗の経営者などが一斉に逮捕されたというニュースを紹介しましたが、その後いろいろとご意見を伺ったので、もう少し考えてみたいと思います。
ネット上でも様々な考察がなされていますが、こちらの弁護士ドットコムの記事がよくまとまっているので、参考とさせていただこうと思います。
上記記事でも説明されているとおり、商標の機能は「自他商品識別機能」を基本として、さらに、「出所表示機能」「品質保証機能」「宣伝広告機能」の3つに細分化されると言われています。商標権侵害とは、形式的には指定商品に登録商標を使用すること(いずれも類似のものを含みます)をいいますが、実質的にはそれによって前記いずれかの機能が害されることをいいます。
ただしこの中で、宣伝広告機能については、学説では有力に指摘されているものの、裁判所は一貫してそれを認めていないので、今回は販売者の逮捕にまで至っていることをも考えて、これは考慮しないことにします。
また、ニュース記事からは対象となるパロディ商標がよくわからないので検討がしづらいのですが、そもそもパロディとして成功していない、ただの模倣品と評価されても仕方のないものも含まれているようで、これらは議論から除かないといけません。
今回は、上記弁護士ドットコムの記事で紹介されている、ナイキのロゴと一緒に『NAMAIKI』と書かれているものについて考えてみます。ナイキはロゴ(あのシュッと右上がりの図形)だけでも商標権を持っています(例えば登録2286631号)。そうすると、ロゴ部分のみをみて、形式的に商標権侵害と言ってしまうこともできそうです。
ただこれはかなり乱暴で、例えばそのロゴはそもそも商標的に使用しているのかという議論もできるでしょうし(つまりただのデザインなら商標として使用していない=商標が自他商品識別機能を発揮しない)、また、『NAMAIKI』の文字と一緒に使用しているわけですから、全体として一商標とみたときに、出所の混同は生じない(つまり需要者はナイキのTシャツだとは思わない=出所表示機能を害しない)可能性が高いわけです。
また品質保証機能については、これは通常は商標権者から出た商品の品質が、流通段階で変更されてしまう場合に問題となる機能ですから、パロディ商品とは無関係だと思います。例えば、品質保証機能が問題となるケースで有名なのものに、「並行輸入」があります。これは国内外で商品の品質が変わってしまう可能性があるときは、商標の品質保証機能を害するとして、商標権侵害となるとするものです。もちろん、商品そのものは商標権者から出たことが大前提です。他にも、「ハイミー事件」や「マグアンプ事件」などの有名な事例がありますが、いずれも商標権者から出た商品の流通段階での商標の使用態様が問題とされたものです。
そもそも、出所の混同を生じていない(出所が異なることが明らかな)商品では、何の品質を保証するのか、よくわかりません。『NAMAIKI』のTシャツは当然ナイキのTシャツとは品質が異なりますが、それをもってナイキのTシャツの品質保証機能を害するというのは、無理があるように思います。詳しく調べたわけではありませんが、品質保証機能はまず出所表示機能発揮する商標(商品)の中からさらに問題になるものではないでしょうか。
そう考えると、『NAMAIKI』Tシャツは、ナイキ商標のいずれの機能も害しないように思います。もちろん、『NAMAIKI』Tシャツを見てナイキを想起する人もいるでしょうが、先の記事でも書いたように、それは不正競争防止法の守備範囲です。不正競争防止法2条1項2号では、一定の条件下、狭義の混同(出所の混同)も、広義の混同(関連会社等にあるという混同)すら生じない商標(商品等表示)でも排除できます。『NAMAIKI』を見てナイキを想起してしまうと、ナイキの唯一的地位が弱くなってしまう(希釈化:ダイリューション)ので、これを防止するための規定です。商標法ではここまでは保護していなくて、商標権で排除できるのは、狭義の混同を生じる商標(商品)までです。これは本記事の検討とも整合しています。
と理論的にはこんな感じになって、やっぱり商標権侵害というには少し無理があるように思うんですが、もし立件されたら、裁判所はロゴ部分の商標権侵害をあっさり認めるか、ナイキの著名性を考慮して商標全体も類似するとすらいうかもしれません。実務的にはあまり価値のない議論かもしれませんね。
今回は民事で十分対応できる事例を刑事事件にしたとか、法解釈が曖昧なのに警察が暴走したというようなことが言われていますが、おそらく権利者と警察が協力しながら摘発に結びついたのではないでしょうか。刑事事件の審理で出てきた情報をもとに、今後他店舗も含めて民事訴訟を検討するのかもしれません。刑事であれ民事であれ、訴訟で争われるなら商標法に加えて不競法違反も請求の根拠とされると思います。ただしパロディ商品の商標権侵害性という論点について判断されれば先例的価値があるでしょうから、まずはここを争いたいという思惑があるのかもしれませんね。
個人的な見解では、フランク三浦の件では価格帯や需要者層が異なるという取引の実情を考慮して商標非類似と言ったことを考えると、本件も、商標全体を比較して、非類似に傾いていいように思います。価格帯が異なるので需要者は混同しないと商標登録までしたのですから、商標の使用という場面でも、需要者が狭義の混同をするかどうかを厳格に判断しないと、バランスが悪いのではないでしょうか。
※ もっとも、商標非類似といってしまうと、不正競争防止法で商品等表示が類似するとはかなりいいづらいでしょうから、結局商標類似というしかない気もします。理論上は、狭義の混同を生じないので商標非類似だが、希釈化を生じるので商品等表示類似といってもかまわないのでしょうが、現実には難しいでしょう。このあたりは、狭義の混同という要件を商標の類否に押し込めるしかない商標法と、混同が要求されない不競法の埋めづらいギャップなのかもしれません。
※ また、もしこれを商標権侵害といわないとすると、価格帯が明らかに違う典型的なニセモノ(例えば3,000円のヴィトンのバッグ)は商標権を侵害しないのかということにもなりかねず、やはりもう少し議論が必要なテーマだと思われます。
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