Category: 侵害

アマゾンブランド登録と商標登録の話題 Part2

アマゾンブランド登録が刷新されて、商標登録が要求されるようになったことは以前お話しました

その後多少ルール変更があったので、特にお問い合わせが多い点も含めて、まとめ直します。

新ブランド登録とは何か

ブランド登録プログラム自体は、これまでもアマゾンにありました。ブランド登録をすることで、商品ページの編集権限が強くなったり、模倣品の排除に協力してもらいやすかったりというメリットがありました。それらをさらに強化して、新たな機能まで加えたのが、新ブランド登録プログラムです。米国では、旧バージョンを「アマゾンブランド登録1.0」、新バージョンを「アマゾンブランド登録2.0」と呼ぶことがあるようです。

ブランド登録2.0では、1.0の特徴を引き継ぐか、それらを改良した上で、さらに機能が加わりました。

特に知的財産権の保護という観点からは、ブランド登録2.0を利用することで、模倣品を排除しやすくなりました。具体的には、ブランドオーナー用の管理画面にて、商品ページや出品者を管理することができるようになりました。また、知的財産権侵害の申し立ても、管理画面からできるようになりました(従前の申告ページを利用しなくてもよくなりました)。これによって、これまで商標権・意匠権侵害に限ってオンラインで申し立てができたものが、著作権などにも対象が拡大されました。さらに、申し立てが優先的に処理され、違法出品の削除が迅速になされるようになりました。

他には、ブランド登録2.0では、そのブランドの一覧カタログのようなページが作成できる機能が実装されました。米国ではその一覧ページのデザインをある程度自由に変更でき、いくつかテンプレートも用意されています。※その一覧の各商品ページには誰でも出品できる点に留意してください。出品自体を独占できるわけではありません。

その他、新商品に優先的にレビューが投稿されるような機能(レビュアーにアマゾンから報酬が支払われる)や、特別な広告(ヘッドライン検索広告)が購入できたりという利点もあります。これらの機能は順次日本にも導入されると思われます。

ブランドオーナーの方は、ぜひともブランド登録2.0を利用すべきでしょう。費用はかかりません。

なお、ブランド登録1.0の登録は、自動的に2.0にはアップグレードされません。2.0は新規に登録し直す必要があります。当面は両者が併存するものと思われます。

ルール変更点

当初、「標準文字商標」での商標登録が要求されていましたが、これが「文字商標」に緩和されました。

標準文字のみ
 ↓
標準文字あるいは文字商標
 ↓
文字商標

という変遷をたどり、いまでは「文字商標」であればよいことになっています。といっても、標準文字商標は文字商標に含まれることから、二番目と三番目は実質的に同じ内容だといえます。

国によっては標準文字制度がない(例:中国)こともあり、そのような国ではもともと文字商標での登録で足りていたことから、日本の基準をそこまで広げた(緩和した)ということでしょう。

ここで、アマゾンがいう「文字商標」に、どこまで含まれるのかが問題になります。例えば少しでも文字に装飾がなされていたらダメなのか、あるいは特殊な書体で表された文字の商標はどうなのかという部分は、まだよくわかりません。特に、文字商標だけれどもその一部にのみ装飾が付されている場合などは、より微妙です。

要は商標制度を利用してブランドのオリジナル性を確認するのが目的でしょうから、重複して登録され得る商標ならば、登録されていてもブランド登録の根拠とはならないでしょう。そういう意味では、装飾された文字や、特殊な書体の文字の登録では、ブランド登録が認められない可能性があります。

実際の運用としては、アマゾンがある程度踏み込んで判断するのかもしれませんし、図形が含まれないならばすべてブランド登録して、重複が生じた際に個別に対応するのかもしれません。このあたりはしばらく様子をみる必要があります。

文字商標の登録が要求される理由

ブランド登録1.0では言及がなかった商標登録が、2.0で要求されるようになったのはなぜでしょうか。

まず端的に、ブランドオーナーであることの確認をするために商標登録を利用していると考えられます。
ブランド名を商標登録しているのは正規のブランドオーナーでしょうから、商標登録のデータを利用してブランドオーナーであることを確認しているものと思われます。
逆にいうと、例えば他人がブランドを勝手に商標登録してしまったような場合でも、誰がブランドオーナーであるかは、アマゾンに対してではなく商標登録の有無で(特許庁や裁判所で)争えと言うのだと思います。アマゾンとしては商標登録名義人をブランドオーナーとして認識するという意思表示なのでしょう。

そして、文字商標に限定しているのは、アマゾン内でブランドの重複を避けるためだと思われます。書体やデザインに特徴のない文字列ならば、同じ商標が異なる人に重複して登録されることはありません。重複がしないことの審査を、商標制度を利用して行っていると推測されます。

指定商品をどうするか

ブランド登録を目的としてこれから商標出願する場合、指定商品をどうするかが問題になります。

普通であれば、実際に販売する(or販売予定がある)商品をすべて指定すべきでしょう。しかしブランド登録のみを目的とする場合は、もう少し節約できる可能性があります。というのは、ブランド登録はアマゾンの定めるカテゴリ単位でなされ、これは経済産業省の定める指定商品の範囲とギャップがあることがあるからです。

例えば、アマゾンでは、「服・シューズ・バッグ・腕時計」というカテゴリがあります。これを商標の区分に対応させると、

第14類:腕時計
第18類:バッグ
第25類:服・シューズ

となります。

アマゾンではそのカテゴリに含まれる商品をひとつでも販売&商標登録しておけば、そのカテゴリ全体についてブランド登録できることから、例えばあるセーター(服)のみを販売&商標登録すれば、「服・シューズ・バッグ・腕時計」というカテゴリ全体についてブランド登録をすることができると思われます。

そうすると、例えば「アパレル・バッグ・ウォッチ」という商品群を扱う場合でも、3区分すべてを指定せずとも、どれか1区分のみを指定すればよいことになり、出願費用を節約することができます(例:第25類「被服」のみを指定)。

同様の例は他のカテゴリでもあり、例えば「スポーツ&アウトドア」「ベビー・おもちゃ・ホビー」「パソコン・オフィス用品」「ホーム&キッチン・ペット・DIY」「家電・カメラ・AV機器(※照明器具が含まれるカテゴリです)」なども、複数の区分にまたがります。

なお、このように商標登録よりも広い範囲でブランド登録をしてしまうと、アマゾン内でブランドの重複が生じ得ますが、それをアマゾンがどう処理するかは不明です。これも個別の対応となるのかもしれません。
※ この観点からは、やはり取り扱いのある商品すべてを指定しておくのが安全です。例えば第25類「被服」のみを指定して商標登録をして、「服・シューズ・バッグ・腕時計」というカテゴリでブランド登録を受けたとしても、他人が第14類「腕時計」について同じ商標を登録した場合に、自分のブランド登録の範囲が事後的に狭められる可能性があります。

外国での商標登録もOK

商標登録は必ずしも日本でされている必要はなく、現在は、米国、カナダ、メキシコ、インド、日本、フランス、ドイツ、イタリア、スペイン、イギリス、欧州連合のいずれかで登録されていればOKとされています。つまり、例えば米国のみで商標登録されている場合、日本で登録をし直さなくても、米国の商標登録を根拠に、日本のアマゾンでブランド登録できます。

これは、外国ブランドの商品が日本に輸入される場合を想定しているからだと思います。例えばアメリカのブランドが日本に輸入されるときに、アメリカでのみ商標登録されているケースは少なからずあります。その際に日本での商標登録までは要求しないということでしょう。

ここでもブランドの重複が問題になりえます(例えば日本と米国で同じ商標が異なる権利者に登録されている場合がある)が、これも個別対応なのかもしれません。

ブランド登録のリスク

ブランド登録プログラムの利用規約を見ると、以下のような規定があります。
※ この規約はブランド登録プログラムが提供される国すべてで共通です。参考日本語訳はこちら

4. Content and Materials
You grant Amazon and its affiliates a royalty-free, non-exclusive, worldwide, perpetual, irrevocable, and sub-licensable right and license to reproduce, perform, display, distribute, adapt, translate, modify, re-format, create derivative works of, and otherwise use on and in connection with Amazon websites and related products and services, any content or other materials you make available through Brand Registry; provided that Amazon will not alter your trademarks from the form provided by you (except to re-size them to the extent necessary for presentation, so long as the relative proportions remain the same) and will comply with your removal requests as to specific uses of your trademarks (provided you are unable to do so using standard functionality made available to you by Amazon); provided further that nothing in these terms will limit Amazon’s and its affiliates’ ability to use any content or other materials without your consent to the extent allowable without a license from you under applicable law or valid license from a third party. All other content and other materials included in or made available through Brand Registry are the exclusive and confidential property of Amazon (“Confidential Information”), which you may only use to the extent necessary for your participation in Brand Registry. You may not disclose any Confidential Information of Amazon or its affiliates, or disparage Amazon, its affiliates, or any of their respective products or services.

要は、そのブランドの商標などを、アマゾンはアマゾン内で自由に使えますよという内容です。サイト内で商標を表示する場面も出てくるでしょうから、このような規定があること自体は当然なのですが、ブランド登録プログラムを通じて提供した商標などを、アマゾンが

on and in connection with Amazon websites and related products and services
アマゾンサイトや関連商品・サービスについて
reproduce, perform, display, distribute, adapt, translate, modify, re-format, create derivative works of, and otherwise use
複製、実演、表示、頒布、翻案、翻訳、改変、再フォーマット、派生物の作成、その他の使用

できる権原を与える、とかなり広めな用途が想定されていて、権利者が予期しない使用方法まで許諾してしまう可能性があります。

もっとも、後段にあるとおり、使用方法にはそれなりの制限が付されているので、現実に問題が生じる可能性は高くないかもしれませんが、担当者にとっては、社内のコンプライアンスをクリアできるかが重要になりそうです。

おまけ1:小売等役務(第35類)を指定できる?

これはくだらない話なのであまり触れたくありませんが、相変わらず問い合わせが多いので少し検討します。

先程の例でいうと、「服・シューズ・バッグ・腕時計」を、「被服,履物類(第25類)」「かばん類(第18類)」「腕時計(第14類)」と3区分を指定すると費用がかさむので、それぞれを対象とする小売等役務(第35類)を指定して、1区分の費用で済ませられないかと考える人がいます。その場合にブランド登録できるのかが問題になりますが、結論としては、できるようです(登録できた例があります)。

たしかに、日本では小売等役務とその小売等の対象商品の重複をクロスサーチするので、小売等役務について商標登録されていれば、他人に個別の商品について商標登録されることはありません。従って、小売等役務(第35類) を指定した商標登録に基いてブランド登録をしても、問題はないのかもしれません。ただし、これがクロスサーチをしない国ではどうなのかは、いまはまだわかりません。

おまけ2:相乗り排除との関係

これも中国輸入向けのくだらない話ですが、相乗り排除のために商標登録をするケースがあります。その上でブランド登録もしたいという相談があるのですが、そもそも目的がまったく異なるので、商標登録の内容も当然異なります。

相乗り排除をするには、実際に商品に付す商標を登録するのが最も有効です。その商品の販売に対して商標権侵害を主張するわけですから、当然です。商品には通常ロゴや飾り文字を入れるでしょうから、それを図形として登録すべきです。

一方で、上述のとおり、ブランド登録には文字商標の登録が要求されます。「文字商標」の定義が曖昧な以上、可能なかぎり標準文字商標を登録すべきといえます。

結局、それぞれの目的に合わせて登録する商標の内容を選択する必要があります。

と書くと、要は二件出願させて手数料稼ぎたいんだろうなどと言われるので中国輸入は面倒くさいのですが(笑)、もし予算の関係でどちらか1件しか出せないならば、「相乗り排除なんかやめなさい」と言いたいです。アマゾンにとっては紛れもなく迷惑行為ですし、まともな人がやることではありません。

もしそれでも両方やりつつ商標出願は1件で済ませたいというのであれば、標準文字で出すしかないでしょう。ロゴや飾り文字で出してしまうと、明らかにブランド登録の要件を満たしません。一方で相乗り排除(違法出品の削除)については、アマゾンは申告があれば右から左に全部削除してくれるので、標準文字でも別に構いません。ただしそうした排除は法的に根拠がないケースも出てくるでしょうから、商標の類否判断ができない人が費用だけ見て適当に標準文字を登録して他人を排除すると、訴訟等になった際に不利になるリスクがあることは知っておくべきでしょう。

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知財業界の職業病 – 弁理士の日記念ブログイベント2017

すっかりごぶさたしてしまってすみません。実は今日(7月1日)は弁理士の日だそうで、ブロガー弁理士で記事を書いて盛り上がろうというイベントに、去年に引き続いて参加させていただくことになりました。今年のテーマは「知財業界の職業病」。ふむー何があるでしょう?

知財業界といってもそれなりに裾野が広いので、いろいろな職業病があると思われますが、たしかに「火曜日はなぜか早起きしてしまう」みたいなものはあるかもしれません。火曜日というのは、多くの事務所で特許庁からの通知を受領する日なんですよね。例えば審査官からの拒絶理由通知書や登録査定書などは毎日発せられるわけですが、ほとんどの特許事務所では、これを週に一度だけ受領する運用としています。その間はオンラインにデータが蓄積されていて、一週間分をまとめてダウンロードするわけです。

事務所によって月曜日だったり火曜日だったりするようですが、弊所では火曜日に受領しています。かつて噂レベルで聞いた話では、月曜日に受領すると、応答期限が土日にかかって月曜日に延長される確率が一番高いんだとか。なので月曜日受領の事務所も多いはずです。ではなぜ火曜日なのかというと、よくわからないのですが、月曜日は週末に届いたメールなどの処理が忙しいからその翌日としているとか、かつて書類が郵送されていた時代は火曜日に発送だったとかの事情があるのかもしれません。

まぁそんなこんなで火曜日は特許事務所にとって一週間で特別な日なのですが、私は早起きすることはなく、拒絶理由通知が届くので朝からどんよりした気分になります(笑)

他にはそうですね、いろいろなネーミングやデザインを目にしたときに、法的な問題を検討してしまう習慣があります。

例えば新しいブランドを見たときに、そのブランド(名)が選択された理由を考えてしまったり、他のブランドの商標権を侵害しないか心配になってしまったり、ちゃんと商標登録されているか(されているならどんな指定商品についてか)つい調べてしまったりします。

同じような話で、「PANASONIC」は「SONY」に憧れて「SONI」が入る名称を選んだ、みたいな都市伝説に妙に食いついてしまったりします。

このブログでも繰り返しお話していますが、知的財産法はすべての模倣を排除しようとしているわけでは決してありません。むしろ模倣は人類の経済的・文化的発展の根幹であることを前提としていて、その中で政策的な観点から特に排除すべき模倣に限って許さないとしています。そうすると、事業活動の中で、ある模倣が許されるかどうかの判断が難しいことは、よくあります。おそらく、具体的な出願のものを除けば、弊所へのご相談で最も多いのがこの内容です。

例えば最近は、ブランド名ではなく、商品デザインが模倣されるのが主流です。ネットで売られているわかりやすい偽物(ヴィトンやシャネルの典型的なニセモノ)のほとんどは、日本語ができる中国人や韓国人によるものです。日本人はそういう行為は危険だとわかっているので、ブランドはパクりません。代わりに商品デザインをパクるのです。売れている商品を探し出し、そのデザインの特徴をパクって、商標を付さずに、あるいは独自のブランドで売る。現在メーカーが直面している模倣品問題は、ノーブランドの形態模倣です。

実際にネットでも、リアル店舗でも、どこかで見たことがあるデザインの商品が別のブランドで売られていることは、もはや日常です。そのような商品を目にしたとき、権利関係が気になって仕方ありません。適当にパクって怒られたらやめればいいと考えているのか、きちんと調査した上でギリギリセーフのラインを狙っているのか、ライセンスなどを受けているのか、そもそも何も考えていないのか。法的な問題を検討したり、権利者や製造者の情報をつい調べてしまうのは、職業病といえるかもしれません。

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「PPAP」が他人に勝手に商標出願された件について、少し落ち着いて考えてみる

世間はすっかりこの話題でもちきりのようです。問い合わせが多いので、簡単な解説と、弁理士として思うことを少し書いてみます。

コトの発端・・・というとどこが発端なのかわからないのですが、ベストライセンス株式会社とその代表の上田育弘氏が「PPAP」関連の商標出願をしたということが、ネットのみならずテレビ等のメディアで大きく報じられているようです。例えば、

などなど。

ベストライセンスの行為はかねてから業界で問題になっており、このブログでも何度か取り上げたことがありました。

なのでこれまでの経緯は省略しますが、今回は「PPAP」を出願していたことがわかり、炎上しているわけです。

例えば、J-PlatPatでざっくりと「ピイピイエイピイ」という称呼を検索してみると、

関連しそうな出願が4件ヒットして、うち3件がベストライセンスによる出願です(残る1件はエイベックス)。

あるいは、「ペンパイナッポー」で検索してみると、

5件がヒットして、すべてベストライセンスによる出願です。

このあたりから、「ピコ太郎がPPAPを歌うとベストライセンスに使用料を請求される!」という指摘がなされているようですが、その心配はありません。

そもそもまだベストライセンスによって商標出願されただけの段階で、登録されたわけではありません。しかも、どうせ出願料未納なのでしょうから、結局登録されることはないと思います(仮に出願料を払って登録されると、登録料が発生するので、ベストライセンスはそれも納付しないといけません)。

ということでそもそも気にする必要はないと思われるのですが、このあたりを飛ばしてこれらが登録された場合を想定しても、ピコ太郎さんが「PPAP」とか「ペンパイナッポ〜」などと歌っても、ベストライセンスの商標権は侵害しません。

商標権の侵害となるには、現存する商標登録の、

1. 指定商品/役務について、*
2. 登録商標を、**
3. 商標的に使用する、

ことが必要です。

* ** いずれも類似のものを含みます。

しかしながら、歌を歌っても、どの指定商品/役務についても商標を使用することにはならないので、要件1を満たしません。(まぁCMソングなどでは事情が異なる場合もあるかもしれませんが、ここではとりあえずおいておきます。)

このように、ベストライセンスが出願しても、さらには万一それが登録されても、ピコ太郎さんには実質的な影響はありません。他人が勝手に登録するのはけしからん!という感情はわかりますが、「芸人はネタを公表する前に商標出願しておかないといけないのか」というようなことは、心配する必要はありません。

今後もしそれらの出願が問題になるとしたら、

  1. ピコ太郎さんが「PPAP」を商標出願した場合に、登録できないケースが出てくる
  2. ピコ太郎さんが「PPAP」を商標的に使用しようとした場合に、制限されるケースが出てくる

といった点についてでしょう。

1については、実際にエイベックスがベストライセンスに9日間遅れて出願をしており、登録が妨げられる可能性があります。エイベックスにとっては大迷惑でしょう。

また、2については、例えばベストライセンスによる商願2016-108551が「文房具類(第16類)」を指定していることから、ピコ太郎さんが「PPAP」ブランドのペンを販売しようとしたときなどに、問題になるかもしれません。

ベストライセンスの無断大量出願は、今回のように芸能関係で話題になることが多いのですが、商標実務をする上では、たまたま出願内容が重複(類似)してしまうことの方が問題です。

特許庁は、

という通達を出しており、要は「どうせ出願料未納なので、そのうち取り下げられるから待ちましょう」と言うのですが、個人や中小企業では事業のスピードが速く、出願内容が不安定なまま進めることにはリスクがあるとして、商標の変更をせざるを得ないケースがあります。もし出願の譲渡やライセンスなどの交渉をすれば、彼らはその段階で出願料を納付し出願を有効化して、高額の費用を請求してくるであろうことは想像に難くありませんから、こちらから連絡をすることは通常は考えられません。弁理士としては、こういう点が特に問題だと考えています。

特許庁も手を焼いているのだと思いますが、何らかの解決策を見出してほしいものです。

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パロディTシャツ一斉摘発の件をもう少し考えてみる

先日、アメリカ村でパロディTシャツなどを売っていた店舗の経営者などが一斉に逮捕されたというニュースを紹介しましたが、その後いろいろとご意見を伺ったので、もう少し考えてみたいと思います。

ネット上でも様々な考察がなされていますが、こちらの弁護士ドットコムの記事がよくまとまっているので、参考とさせていただこうと思います。

上記記事でも説明されているとおり、商標の機能は「自他商品識別機能」を基本として、さらに、「出所表示機能」「品質保証機能」「宣伝広告機能」の3つに細分化されると言われています。商標権侵害とは、形式的には指定商品に登録商標を使用すること(いずれも類似のものを含みます)をいいますが、実質的にはそれによって前記いずれかの機能が害されることをいいます。

ただしこの中で、宣伝広告機能については、学説では有力に指摘されているものの、裁判所は一貫してそれを認めていないので、今回は販売者の逮捕にまで至っていることをも考えて、これは考慮しないことにします。

また、ニュース記事からは対象となるパロディ商標がよくわからないので検討がしづらいのですが、そもそもパロディとして成功していない、ただの模倣品と評価されても仕方のないものも含まれているようで、これらは議論から除かないといけません。

今回は、上記弁護士ドットコムの記事で紹介されている、ナイキのロゴと一緒に『NAMAIKI』と書かれているものについて考えてみます。ナイキはロゴ(あのシュッと右上がりの図形)だけでも商標権を持っています(例えば登録2286631号)。そうすると、ロゴ部分のみをみて、形式的に商標権侵害と言ってしまうこともできそうです。

ただこれはかなり乱暴で、例えばそのロゴはそもそも商標的に使用しているのかという議論もできるでしょうし(つまりただのデザインなら商標として使用していない=商標が自他商品識別機能を発揮しない)、また、『NAMAIKI』の文字と一緒に使用しているわけですから、全体として一商標とみたときに、出所の混同は生じない(つまり需要者はナイキのTシャツだとは思わない=出所表示機能を害しない)可能性が高いわけです。

また品質保証機能については、これは通常は商標権者から出た商品の品質が、流通段階で変更されてしまう場合に問題となる機能ですから、パロディ商品とは無関係だと思います。例えば、品質保証機能が問題となるケースで有名なのものに、「並行輸入」があります。これは国内外で商品の品質が変わってしまう可能性があるときは、商標の品質保証機能を害するとして、商標権侵害となるとするものです。もちろん、商品そのものは商標権者から出たことが大前提です。他にも、「ハイミー事件」や「マグアンプ事件」などの有名な事例がありますが、いずれも商標権者から出た商品の流通段階での商標の使用態様が問題とされたものです。

そもそも、出所の混同を生じていない(出所が異なることが明らかな)商品では、何の品質を保証するのか、よくわかりません。『NAMAIKI』のTシャツは当然ナイキのTシャツとは品質が異なりますが、それをもってナイキのTシャツの品質保証機能を害するというのは、無理があるように思います。詳しく調べたわけではありませんが、品質保証機能はまず出所表示機能発揮する商標(商品)の中からさらに問題になるものではないでしょうか。

そう考えると、『NAMAIKI』Tシャツは、ナイキ商標のいずれの機能も害しないように思います。もちろん、『NAMAIKI』Tシャツを見てナイキを想起する人もいるでしょうが、先の記事でも書いたように、それは不正競争防止法の守備範囲です。不正競争防止法2条1項2号では、一定の条件下、狭義の混同(出所の混同)も、広義の混同(関連会社等にあるという混同)すら生じない商標(商品等表示)でも排除できます。『NAMAIKI』を見てナイキを想起してしまうと、ナイキの唯一的地位が弱くなってしまう(希釈化:ダイリューション)ので、これを防止するための規定です。商標法ではここまでは保護していなくて、商標権で排除できるのは、狭義の混同を生じる商標(商品)までです。これは本記事の検討とも整合しています。

と理論的にはこんな感じになって、やっぱり商標権侵害というには少し無理があるように思うんですが、もし立件されたら、裁判所はロゴ部分の商標権侵害をあっさり認めるか、ナイキの著名性を考慮して商標全体も類似するとすらいうかもしれません。実務的にはあまり価値のない議論かもしれませんね。

今回は民事で十分対応できる事例を刑事事件にしたとか、法解釈が曖昧なのに警察が暴走したというようなことが言われていますが、おそらく権利者と警察が協力しながら摘発に結びついたのではないでしょうか。刑事事件の審理で出てきた情報をもとに、今後他店舗も含めて民事訴訟を検討するのかもしれません。刑事であれ民事であれ、訴訟で争われるなら商標法に加えて不競法違反も請求の根拠とされると思います。ただしパロディ商品の商標権侵害性という論点について判断されれば先例的価値があるでしょうから、まずはここを争いたいという思惑があるのかもしれませんね。

個人的な見解では、フランク三浦の件では価格帯や需要者層が異なるという取引の実情を考慮して商標非類似と言ったことを考えると、本件も、商標全体を比較して、非類似に傾いていいように思います。価格帯が異なるので需要者は混同しないと商標登録までしたのですから、商標の使用という場面でも、需要者が狭義の混同をするかどうかを厳格に判断しないと、バランスが悪いのではないでしょうか。

※ もっとも、商標非類似といってしまうと、不正競争防止法で商品等表示が類似するとはかなりいいづらいでしょうから、結局商標類似というしかない気もします。理論上は、狭義の混同を生じないので商標非類似だが、希釈化を生じるので商品等表示類似といってもかまわないのでしょうが、現実には難しいでしょう。このあたりは、狭義の混同という要件を商標の類否に押し込めるしかない商標法と、混同が要求されない不競法の埋めづらいギャップなのかもしれません。
※ また、もしこれを商標権侵害といわないとすると、価格帯が明らかに違う典型的なニセモノ(例えば3,000円のヴィトンのバッグ)は商標権を侵害しないのかということにもなりかねず、やはりもう少し議論が必要なテーマだと思われます。

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パロディーTシャツなどを売っていた人が一斉に逮捕されたようです

ここのところ忙しくブログをサボり気味でしたが、面白いニュースがあったので紹介します。

パロディについてはこのブログでも過去にフランク三浦の事件を紹介していますが、これはパロディ商標の登録というテーマでした。今回はパロディ商品の販売が問題になったということで、少し別の角度から検討できそうです。

具体的に使用されていたパロディ商標はよくわからないのですが、「NIKE」のパロディの「NICE」だとか、「ADIDAS」のパロディの「AJIDESU」などがあった模様です。情報が少ないのでこれらの具体的な商標権侵害性は検討しません(できません)が、ニュースにあるとおり、パロディ商品を商標権侵害で、しかも刑事事件として処理するのは珍しいので、この点を少し考えてみたいです。

過去の記事の繰り返しになりますが、パロディ商品は、典型的なニセモノとは異なり、本物と間違わせて購入させることを目的とはしていません。ブランドを面白おかしく変形させた、一種のギャグ商品なわけです。

これが商標権侵害の適否にどのような影響を与えるかというと、商標はそもそも商標権者の商品と他者の商品を区別するためのものですから、商標権侵害とは、実質的には、商標権者の商品と取り違える態様で商標を使用することをいうことになります。すなわち、商標権の効力は、

第25条
商標権者は、指定商品又は指定役務について登録商標の使用をする権利を専有する。(後段略、ついでに37条1号も省略)

となっていて、形式的には指定商品に登録商標(いずれも類似のものを含む)を使用すれば商標権侵害となりそうですが、実質的にはやはり商品の出所の誤認混同を生じる態様での使用に限定して商標権侵害というべきですから、出所の混同を生じないパロディ商品を商標権侵害ということには、感覚的に受け入れづらい部分もあります。

ニュースにあるような、「ブランドイメージを損なう」というのは、実は商標法の直接の守備範囲ではありません。商標権で防止できるのはあくまでも狭義の混同(商品の取り違え)であって、広義の混同(関連会社にある等の混同)までは防止できませんし、ましてや広義の混同すら生じない商標の使用(例えばパロディ)は、いくら商標同士が類似していても、商標権侵害というべきではないようにも思います。本来ならば、こうした商品には不正競争防止法で対応することになると思われます。

まぁしかし、アメリカ村にはもう十年以上行っていませんが、相変わらずこういう商品がたくさんあるんでしょうね。東京では原宿の竹下通りや上野のアメ横がこんな感じでしょうか。京都だと新京極はどうなんでしょうか。パロディ商品はあまり見ない気がします。ちなみに中国にはいくらでもあります(笑)

今回はおそらく権利者の代理人(弁護士)が頑張って、マスコミを巻き込んで大規模な摘発に結びついたのだと思います。これらの商品はネット上でも山ほど売られているにも関わらず、実店舗を狙ったのは、見せしめというか話題性の大きさを考慮したのかもしれません。このニュースを受けて、他店舗やネット上のパロディ商品の流通にどのような影響が出るのか、興味がありますね。もちろん本件が起訴されたらその判決にも大いに興味があります。

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『パテント』に記事掲載されました

日本弁理士会が発行する月刊誌、『パテント』の今月号(9月号)の特集が「模倣品対策」でして、私も義烏絡みの記事をひとつ寄稿しました(偉そうに言っていますが、パテントを作る委員会に知り合いの弁理士がいて、中国絡みで書くよう頼まれただけです)。

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そもそも弁理士以外の方は『パテント』をご存知でないと思いますが、ざっくりいうと弁理士会の会報誌のような位置付けの雑誌です(こんな表現をすると怒られるかも)。弁理士には毎月全員に強制的に送られてきますが、それ以外は、官公庁や裁判所、警察、税関などの知財関連の機関の方を除いては、あまり目にする機会がないかもしれません。基本的には弁理士が論文のようなものを投稿して、審査に通ると掲載されるようになっています。

私の記事は論文ではなく(まぁ形式的には論文なのかもしれませんが)、単に義烏と福田市場、さらに、義烏を介して行われる中国輸入というモデルについて、模倣品の観点から紹介するというものです。

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記事内容は、卸売に特化した義烏という街をざっくりと紹介し、そのトレードマークでもある福田市場について説明をした上で、福田市場やタオバオ、アリババなどから小口で模倣品を輸入し日本のネットで販売する「中国輸入」にも軽く触れ、それに対する効率的な対応策を提案するものです。

紙面の制限があり表面的な話しかできませんでしたが、おそらく法律専門家の観点から義烏を紹介する記事は史上初ではないかと思われ、また特に、「中国輸入」というわけのわからない偽物販売ビジネスについて広く世に紹介することができたことは有意義であったと考えています。

これまで規模が小さすぎて対応コストがペイしないため、中国輸入という偽物販売ビジネスは無視されてきたという現実がありましたが、比較的コストをかけずに効果的な対応ができるのであれば、権利者さんたちも動けるかもしれません。

そしてそうした小規模の偽物を大量に発信しているのが義烏だという事実を知っていただければ、より効果的な対応ができるようになる可能性があります。

本当は福田市場にある偽物商品の写真を大量に掲載して、偽物を売っているブースに突撃取材して・・・などをやりたかったのですが、『パテント』に載せる以上そういうわけにはいかず、一般論を紹介するに留めました。

また中国輸入についても、基本的には日本のアマゾンで売られるとか、最近はメルカリがやばいとか書きたかったのですが、具体的な名称を出すわけにはいかず、こちらも一般論として説明するだけになっています。

これらについてより具体的な内容をお知りになりたい方は、無料でセミナーをやっていますので、お気軽にお申し付けください。

なお、この記事は2ヶ月後にPDFで公開されますので、『パテント』を入手できない方は、そちらにお目通しいただければ幸いです。

※ ところでタイトルの 「ニセモノのふるさと」義烏と「中国輸入」 という表現は、カギ括弧の位置がイマイチよくわからないものになっていますが、まぁいろいろあったのです。本当はカギ括弧のないタイトルで提出したのですが、いろいろ問題がありそうということで、いろいろ検討した上でこの形に落ち着きました。お察しください。

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義烏にきています160904

昨日から中国・義烏にきています。

義烏の福田市場は世界最大の卸売市場で、弁理士の目で見ると、とにかくニセモノだらけでどうしようもないところです。

今日午後に時間ができたので、小一時間市場を覗いてきました。市場で見つけた商品を紹介します。

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ポケモン、ゲットだぜ!中国人は本当に仕事が速いです。これ、市場で大流行中。あちこちの店舗で置いてました。ちなみにモバイルバッテリです。

さきほど夜市でこれを見かけたので値段をきいたら、10,000mAhのもので、150元(約2500円)だそうです。買わないので値切らなかったんですが(※たいていふっかけられるので、値切って適正価格まで落とす手間が必要です)、おそらく本来は100元(約1700円)程度で売っているのではないでしょうか。

まさかと思い探してみたら・・・日本でもネットで売られていました。

日本人も負けじと仕事が速いですね。

※ この商品が任天堂さんあるいは他社さんの何らかの権利を侵害するとか、違法性を有しているかなどは、わかりません(調べてもいません)。

ほかにも・・・
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どこかで見たことがあるキャラクターばかりですが、すべてモバイルバッテリです。ライセンス商品である確率は限りなくゼロに近いと考えてOKです。

まだまだ、

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iRingと書いてありますが、おそらくニセモノでしょう。それにしてもポケモンは大人気ですね。

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相変わらずスマホケースはニセモノの宝庫です。

ほかには例えば、

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ゲーム機には詳しくないのですが、おそらく勝手に商標を使用しているニセモノです(商標権の存在については未確認ですが、仮に存在しなくても、日本に輸入されたら不正競争防止法で処理できると思われます)。

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このように、 “FOR PS II (PS2用)” という書き方なら、商標的な使用からは外れてくる可能性が出てくると思われますが。

次はかばんコーナー。

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いつの時代もディズニーは大人気。

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普遍の高級ブランド。ニセモノとの戦いは永遠に終わらない。

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これらは市場内の看板。そうです、福田市場には正規代理店も入っているんです。

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これらはすべて正規代理店による、正規商品です。

ただし、彼らの代理権の範囲は、ほぼ確実に、中国内での流通のみです。すなわち彼らは、ディズニー商品を、中国内で流通させる業者にしか売ることができません。もし中国外で販売する業者に卸すと、ライセンス違反となります。

実はここに問題があります。これら正規代理店から商品を仕入れ、日本に輸入する輩が後を絶たないのです。中国人を遣わせて中国内で販売すると嘘をついて商品を仕入れ、日本への輸入時には並行輸入をうたうわけです。こうした輸入への対応は、技術的・法的・金銭的に難しいという問題があります。福田市場の正規代理店は日本人に騙された立場にありますが、ライセンス違反の責任を負う場合があり、一部の日本人の行為が中国人に迷惑をかけています。

ほんの小一時間市場を歩いただけで、これだけのニセモノが見つかりました。いや、本当はもっともっとあったのですが、撮影できたのは店先に並んでいたものだけです。最近はこうしたわかりやすいニセモノは店先には置かず、奥の方だが目立つ位置に陳列するケースが増えているようです。見えづらい場所にあるものも含めたら、市場全体でどれだけのニセモノがあるのか、もはや見当もつきません。

しかしながら最近は、こうしたわかりやすいニセモノはあまり日本に入ってこず、他の外国(東南アジアや中等など)に輸出されることが多いようです。権利者は対応コストに苦慮していることでしょう。

一方で日本人は、ブランド商品など人気の高いものをサンプルとして福田市場に持ち込み、それのコピーを作らせます。わざわざニセモノを作りに中国まで来るのですから、呆れてしまいます。特に最近は、そうして作ったコピー商品の商標を自社のブランドに変更して、「オリジナル商品」を名乗って販売する事例が増えています。日本における模倣品は、ブランド模倣からデザイン模倣にシフトしています。設計図も仕様書も書かず(描かず)に「オリジナル商品」をうたう図々しさには呆れるばかりですが、そもそもそうした商品はニセモノ、模倣品でしかないという根本的な部分を理解してほしいものです。

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iPhone6が北京で販売差止となったそうです

なんと中国・北京で、iPhone6と6Plusが、中国企業の有する意匠権を侵害するとして、差し止められたというニュースが流れてきました。

ネットでも話題になり、中国に対する否定的なコメントが目立ちましたが、個人的には、意匠登録があったのならばたまたまそれに似てしまった可能性はあるだろうし、意外とまともなニュースかもしれないという気がしていました。

ところが、いつまで経っても、結局どの意匠権を侵害するかのニュースは流れてきません。Gizmodoによる最新の記事でも、

となぜか実際に販売されている商品とiPhoneの外観を比較されており、何が言いたいのかよくわかりません。意匠権侵害は登録意匠との類否を見なければならないので、実際に販売されている商品の外観は関係ないからです。なお、中国では外観模倣(日本でいう不競法2条1項3号の類型)が不正競争防止法で禁止されないので、この観点からも、販売されている商品の外観との比較は無意味です。

仕方ないので中国のサイトを漁ってみると、どうやら以下の意匠権らしいことが判明しました。

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本件意匠出願は2014年1月13日になされており、これはiPhone6の発売日よりも前なので、仮に中国裁判所*のいうとおり両意匠が類似するとしても、少なくともiPhone6の存在が本件意匠登録を脅かすことはないでしょう。

* 本件はそもそも裁判(司法ルート)での差し止めなのか、行政ルートでのものなのか、わからないのですが・・・。

では両意匠は類似するのでしょうか。正面図だけだとよくわからないので、六面図すべてを並べてみます。

正面図

背面図

左側面図

右側面図

平面図(上面図)

底面図

一方で、iPhoneの外観はどうでしょうか。

正面図

背面図

どうでしょうか。全体的なフォルムは似ていると言えなくもありません。特に角が丸みを帯びている点や、背面が平面(平板)でエッジ付近で急なカーブを描いている点などは、よく似ています。

これらの点について、両デザインを並べて比較してみました。

角のカーブの比較
こうして並べてみると、iPhoneの方がよりカーブが大きいことがわかります。

側面のカーブの比較
よい素材が見つからなかったのと、画像編集技術が拙いせいで、側面のカーブはうまく比較できません。もしかしたら同じような角度なのかもしれません。

一方で、より細部を見ると、様々な点で異なることがわかります。正面図においては、iPhoneにはホームボタンがありますし、インカメラの配置も異なります。背面図においては両者の差異はより顕著です。

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並べるとよくわかりますが、

  • iPhoneには上下端付近にそれぞれ横線が入っており、背面全体を3つのパートに分けているような印象をあたえる点
  • カメラの位置はほぼ同じであるが、そのサイズや色が微妙に異なる点
  • LEDライトの位置が異なる点
  • iPhoneにはアップルのロゴが入っている点
  • ブランドロゴが異なり、その付記的記載の有無も異なる点
  • スピーカー部分の有無が異なる点
  • iPhoneの方は側面のボタンがややはみ出して見える点

など、一見して判別できる差異が複数あります。側面のボタンやSIMトレイの配置が異なることも考慮すると、全体として両意匠の外観が観者に与える印象は大きく異なるように思われます。

両者はともに「スマホ」という同一の商品ですから、基本的な形状が類似するのは仕方ないです。そのような類似点は、意匠の類否判断においては考慮されません。スマホのデザイン(特に登録意匠)はたくさんあり、どれも似たり寄ったりなので、それらに共通する部分は類否判断から除かれます。このように似たようなデザインがたくさんある分野では、意匠の類似範囲は狭くなり、ちょっとした差異でも、そこが特徴部であれば、意匠非類似となることが少なくありません。

そう考えると、結局両意匠で類似するのは全体のフォルムくらいです。iPhoneにはその他の特徴的なデザインが複数加えられていることを考えると、これらを類似とするのはちょっと無理があるように思います。もしこれを類似というなら、まず小米(シャオミ)をなんとかしろと言いたくなります。

Gizmodoの記事を読んでもどこの裁判所でどのような判断がされたのかまったくわからないのですが、とにかくiPhoneの販売差し止め(何に基づくものか不明ですが…)の適否については北京知財法院で争われるようなので、結論がひっくり返ることを祈るばかりです。

※ iPhoneの画像はすべて、アップル公式サイト及び公式ショップから引用しました。
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ジャック・マーの発言に思う

ジャック・マー(馬雲)氏は、みなさんご存知の通り、アリババの創業者です。アリババのニューヨーク証券取引所への上場により、現在中国本土で一番金持ちだそうです。

以下の記事によると、アリババの投資家向けのカンファレンスで、彼は「問題は、今日の偽造品が本物の品物、本物のブランドよりも、より良い品質で作られ、より安価で売られていることにある」という趣旨の発言をしたそうです。

さらに、「偽造品はまったく同じ製造環境、まったく同じマテリアルで製造されているが、ノーブランドなだけ」とも述べたそうで、これは模倣される側の日本企業にとっては聞き捨てならないでしょう。

そもそも、中国で製造・販売される模倣品が、正規品よりも高品質である事例はごく例外的です。ほとんどの商品は、正規品の劣化コピーでしかありません。正規品がこだわっている(コストをかけている)部分を無視して「このくらいでいいだろう」というレベルで量産することが、正規品よりも安く販売できる理由のひとつです。

もっとも、正規品を製造する工場が、その技術とノウハウを用いて、正規品と同等の(時には正規品に改良を加えて正規品以上の)模倣品を製造するケースも、たしかに増えています。このようなケースでは、知的財産権侵害に加えて、工場はメーカーとの契約(製造契約や秘密保持契約など)にも違反しており、よりたちが悪いといえます。

「これまで、中国の工場は、世界のブランドのために製品を低価格で大量生産してきた。しかし、アリババなどの電子商取引サイトの昨今の台頭と共に、生産商品をオンラインで消費者と直接取引する工場も徐々に増えてきている。(記事より)」という指摘は、そのとおりです。タオバオやアリババの登場により、工場が商品を販売する機会が劇的に増えました。これまでは模倣品を作っても、それがコンシューマに行き渡るには複数の専門業者(卸売業者や小売店)を経なければならず、偽物を売るのも結構大変でした(もっとも中国では偽物を平然と流通させる業者がたくさんいるので日本人が思うほどの苦労はなかったはずですが)。ところがネットが発達して、工場が直接エンドユーザに商品を販売できるようになりました。工場がタオバオに直接出店して、自分で作った偽物をバンバン売っているのです。模倣品はその本来の価値よりも高く売れるわけですから、工場からすれば、模倣品を製造するということは、紙幣を刷っているようなものです。模倣品というニセモノが、タオバオなどのECサイトを通すだけで本物のお金に変わるのです。模倣品が蔓延するのは当然ともいえます。

模倣品が正規品よりも安く売れるもうひとつの(そして最大の)理由は、開発や広告にコストをかける必要がない点にあります。メーカーがひとつの商品を作り出し、売れるようにするまでにどれだけの手間と時間と費用がかかっているか、考えたことがあるでしょうか。製造業は、巨額の投資をして、それを長期的に回収するモデルです。模倣品はこうした投資を一切する必要がありません。本来メーカーが回収すべき利益を盗んでそれを自己の利益としているだけですから、それを「ビジネスの手法が変わった(マー氏の発言、記事より)」などと正当化するような発言はまったく支持できません。トップがこのような意識だからあのようなマーケットなのだと評価せざるを得ません。

さらなる問題は、こうした中国の問題に便乗して、中国市場で模倣品を仕入れ、日本で販売する日本人が山ほどいるという事実です。「リサーチ」などと称し、日本で売れている商品をリストアップし、それの模倣品を中国市場で探し出し、あるいは中国の工場に製造させ、「オリジナル化」などと称して独自のロゴを印刷した模倣品を日本に輸入してネット上で販売する、いわゆる「中国輸入」と呼ばれるビジネスモデルがあります。端的に、模倣品を輸入販売するだけの商売なのですが、インターネットの発達により、こうした雑な商売が日本で横行するようになってしまいました。

日本のECモールでは、こうして輸入された、おびただしい数の模倣品が販売されています。日本のECは、すっかり中国の模倣品に汚染されてしまっています。これは欧米先進国を含む、世界中で同じ状況にあります。中国の模倣品問題は、もはや中国内にとどまらず、全世界が直面している問題なのです。

言うまでもなく、こうした模倣品は、国にとって、メーカーにとって、害悪でしかありません。中国から模倣品を入手するのがより容易になった現在、どのような対策をしていく必要があるのか、日本を含め、全世界が考える必要あります。

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