先程、食事をしながら池上彰さんの番組を見ていたら、「パクリ」の特集をしていました。
その中で、次の行為はパクリの観点から問題になるか?というコーナーがあり、
葛飾北斎の絵を大胆にアレンジして、商業的なイベントのパンフレットに使用する
という問題の答えが「問題にならない」でした。しかしこれは正しくないでしょう。
問題にならないとする根拠は、「葛飾北斎の死後50年経過しているので、既に著作権が切れているのだから、いまさら何をしようが構わない」というものでした。しかしこれはかなり雑な説明です。
たしかに、絵画(美術)の著作物についての著作権は、著作者の死後50年で保護期間が満了します(著51条2項)。しかしこれはあくまでも著作財産権についての説明であり、著作者人格権については別途考慮する必要があります。
著作者人格権のひとつである同一性保持権では、著作物の改変に一定の制限を課しています。具体的には、著作者の意に反する改変をしてはいけないことになっています(著20条)。
同一性保持権(著作者人格権)は一身専属的であり、譲渡(相続を含む)することはできません(著59条)。すなわち、著作者が死亡した時点で、同一性保持権は満了します。しかし、著作者の死後も、著作者が生きていたら著作者人格権の侵害となる行為は禁止されます(著60条)。従って、葛飾北斎の絵画を勝手に改変すると、著作者人格権を侵害する行為として問題になる可能性があります。
では実際にはどのように問題になるのでしょうか。
差し止めや損害賠償などの民事的な請求は、遺族しかできません(著116条)。遺族とは、死亡した著作者の配偶者、子、父母、孫、祖父母又は兄弟姉妹をいうので、これらの者がすべて(多くの場合、最終的に孫)が死亡してしまったらもはや民事的な請求はできません。
一方で、刑事的な観点からは、事情が異なります。著作者の死後に、著作者が生きていたら著作者人格権の侵害となる行為(著60条)を行うと、500万円以下の罰金が課せられます(著120条)。しかも、これは遺族の告訴がなくても立件できます(非親告罪)(著123条反対解釈)。著60条には期間の定めがないので、結局、葛飾北斎の死後であっても、葛飾北斎が生きていたら意に反するであろう改変は未来永劫禁止され、これを勝手に行うと、検察により刑事訴訟を提起され、500万円以下の罰金が課せられてしまう可能性があります。
番組では、葛飾北斎の絵を「そのまま利用して」パンフレットに使用する、という事例にすべきだったでしょう。
※もっとも、著作権法が存在しなかった江戸時代の絵画までが上記解釈になるかは、知りません。そもそも著作権(財産権・人格権ともに)が発生していないでしょうから、保護されることもないように思います。その場合は番組の解説のロジックもおかしいことになります。
さて、弊所は昨日(28日)で2015年の全業務を終了させていただきました。年明けは4日から業務開始いたします。なお、年末年始もメール・FAX・郵便でのお問い合わせは受け付けております。4日より順次対応いたします。
無事に年末を迎えられるのも、ひとえにクライアント様及び各方面のご関係者の皆様のおかげです。謹んでお礼申し上げます。
2015年を振り返って思うのは、今年は様々な「挑戦」の年でした。特に今年は、いろいろなご縁があり、個人や中小企業の方のご相談を受ける機会がかなり増えました。弊所はこれまで外国の大企業が主なクライアントであったため、初めて商標出願を行うようなお客様の出願を行うことにはあまり慣れておらず、ご迷惑をお掛けしてしまった部分もあったかもしれません。お詫び申し上げます。
おかげさまで、1年間の業務を通じて、そのような案件についても所内システムを構築することができ、いまではご相談〜出願〜登録まで、スムーズに運用できるようになりました。
また、ここ数年力を入れていた、模倣品対策事業も少しずつ形になってきました。特にECにおける模倣品対策では一定の実績を残すことができた点は、素直に自己評価したいと思います。来年はこの経験とノウハウを基に、より多くの権利者様のお手伝いをさせていただきたいと考えています。
来年も、もっと様々なことに挑戦し、皆様の貴重な資産である知的財産を適切に保護するお手伝いをして参る所存です。
より身近な特許事務所・弁理士となれるよう努力と工夫を重ねていくことをお約束して、2015年のご挨拶に代えさせていただきます。