JASRAC vs 音楽教室 の件について少し考えてみる

JASRACが音楽教室に著作物利用料請求する方針を発表して、世間は盛り上がっています。いろいろな意見が出ており、簡単には解決しなそうなので、少しだけ論点を整理してみたいと思います。

この問題はまず、音楽教室での演奏が著作権法上の「演奏(実演)」に当たるかどうかが問題なわけです。

もし演奏に当たらないなら、さすがのJASRACも利用料を請求することはできません。

逆にもし演奏に当たるなら、音楽教室は利用料を払わないとは言えないでしょう。

それでは結局演奏に当たるのかどうかについては、ドンピシャの判例・裁判例がないため、よくわからないわけです。

条文を見れば、音楽を「公衆に直接見せ又は聞かせることを目的として」演奏するには著作権者の許諾が必要(著22条)となっており、「公衆」には「特定かつ多数の者を含む」(著2条5項)とされています。この定義をみても、音楽教室の生徒さんが「公衆」に該当するかは微妙で、JASRACの請求に合理性があるかは、よくわかりません。

更には、仮に演奏に該当するとしても、著作権が制限される場合に該当するかの検討も必要です。演奏権については、

  1. 営利を目的とせず
  2. 聴衆又は観衆から料金を受けず
  3. 実演家に対し報酬が支払われない

のすべてを満たす場合には、著作権が及ばないことになっています。(まぁしかし、有料の音楽教室では、これはいずれも満たすことはできないでしょう。)

音楽教室での演奏が著作権法上の「演奏」に該当するかについては、かなり昔から両者の間で意見対立があったようで、「音楽教育を守る会」なる団体がいきなり設立されたのも、十分な準備期間があったからでしょう。以下の記事などでは「守る会側がJASRACを訴える」と煽り気味に書いてありますが、まだ利用料が請求されていない段階なので、請求の妥当性を争うことはできません。あるとしても、音楽教室での演奏が著作権法上の演奏に該当しないこと(JASRACに対する債務が不存在であること)の確認訴訟を提起するくらいでしょう。

これで白黒つけば本件は解決しそうなものですが、そうは簡単にいかなそうです。仮に「演奏に該当する」と判断された場合でも、音楽教室側が反発しそうだからです。

音楽教室側はずっと「音楽教育に悪影響を与える」と言っています。すなわち、仮に著作権侵害でも利用料の請求は免除されるべき、という趣旨の主張をしていると思われます。これを日本という国で認めますかという問題があるわけです。

この点については様々な意見があるでしょうが、例えば学習塾が教材をコピーしまくっても、教育目的だから許されるかというと、それは受け入れられない人が多いでしょう。出版社は教材を買ってくれというはずです。日本では、教育目的であることは、著作物の利用の免罪符とはなりません。適切な利用料を支払えば利用することができるという形でバランスをとっているからです。学習塾での複製と音楽教室での演奏の違いはどこにあるのか?という問いに、音楽教室側は答えていく必要があるでしょう。

今回、JASRACが提案する利用料は、受講料の2.5%だそうです。この数字の妥当性はかなり慎重に検討されるべきですが、仮にこの数字が採用された場合でも、例えば受講料(月謝)が5000円の場合に、著作物利用料は、月間125円(年間1500円)です。これが受講料に上乗せされたとしても、それを理由に音楽教育から離れないといけない人は、ほとんどいないでしょう。

音楽教育を受ける人の中には、将来社会に対して音楽を提供する立場になる人も当然いるはずです。そうした人たちが自分の著作物に対する利用料をちゃんと請求できるようになるために、自分が利用するものについては、利用料をちゃんと支払う経験をさせることが、より音楽教育に資するという考え方もできるかもしれません(もちろん著作権法上の根拠がある場合のみです)。

ただし、そもそも演奏権は、コンサートなどでたくさんの人に演奏を聞かせる場合に著作物利用料を払いなさい、ということを想定しているわけです。観客は、チケット代にその費用が含まれていることに、当然納得しているでしょう。そのような条文を根拠に、音楽教室での演奏にも権利が及ぶと解釈するのは、一般の感覚としてはなかなか受け入れられないかもしれません。仮に条文上該当せざるを得ない場合でも、利用料率には十分な配慮をするとか、そもそも権利者に十分なコンセンサスを得るなどのステップを経てから運用を開始するべきだと思います。

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