アマゾンブランド登録に標準文字商標の登録が要求される件について

アマゾンのブランド登録をご存知でしょうか。これは、アマゾン内で、アマゾンが独自にブランドを登録・管理する制度です。

ブランド登録の意義については後述します。ブランド登録をするには、上記ページから申請をします。申請があると、アマゾンはそれを審査して、基準に達すると判断されれば、無事にブランド登録となります。(なお、既存の著名ブランドは、申請をせずともアマゾン自身が登録していると思われます)。

さて、最近ブランド登録の審査基準(登録要件)が変更され、「標準文字の商標登録が完了していること」が必要となりました(おそらく平成29年5月1日以降)。

特に中国から商品を輸入してアマゾンで販売する方々(以下、中国輸入業者)から、この件についての問い合わせが多く、正直なところ通常業務に影響が出ており困っているので、最初にそれについて書きます。

アマゾンブランド登録をすると、出品に際してJANコードが不要であったり、商品カタログの編集権限を独占できたりというメリットがあるようで、中国輸入業者にとってもブランド登録は重要なようです(この点については詳しくないので業界の人に相談してください)。

で、問い合わせが多いのが、過去に商標登録をしたが、標準文字商標の登録が必要だとして、ブランド登録できなかった、どうすればいいか?、あるいは既にブランド登録をしているが、ブランド登録の要件の変更にどう対応すればいいか?というものが大半です。前者は、アマゾンに申請をしたが拒否されたということなのでしょう。中にはその「過去の登録」を弊所で行っていないにもかかわらず、こういう問い合わせをしてくる人がいて、便利屋か何かと勘違いしているんじゃないかと思うんですが、私は弁理士です。非常識な人に無料で対応する趣味はありませんので念のためご留意ください(こんなことを書かないといけないくらい非常識な人が多いんです、ほんと)。

結論から言いますと、過去の出願・登録がない場合、あるいは出願・登録があっても商標が標準文字でない場合は、出願し直してください(新たに標準文字の出願をしてください)。それしか方法はありません。特に過去の出願(審査継続中)や登録(登録済み)がある方は、それを標準文字に変更するとか、その内容を追加するとかできないかとお尋ねになるんですが、できません。商標の内容は、一度出願したらいじれないと思ってください。他の選択肢を検討するだけ時間の無駄ですし、弊所にお問い合せいただいても「出願し直してください」としか答えようがないので、お互い無駄なやり取りは省略しましょう。

過去の商標登録が標準文字かどうかを判断するのは簡単で、公報(公開公報あるいは登録公報(商標公報))に「標準文字」の記載があれば標準文字商標ですし、なければ標準文字商標ではありません。

もちろん、J-PlatPatでも確認できます(「標準文字」の記載を探してみてください。)

念のために、標準文字制度の説明をしておきますと、これは、商標が文字商標(文字のみからなる商標)であって、明朝体やゴシック体などの標準的な書体を権利範囲(専用権の範囲)とするときは、書体や文字デザインを特定せずに、「標準文字」として登録できる制度です(詳細はこちら)。

以下の図は必ずしも正確ではありませんが、文脈上標準文字制度を理解していただくのに十分だと思います。

で、なぜアマゾンがブランド登録に標準文字商標の登録を要求するようになったかですが、おそらく最も主な理由は、ブランド名の重複を避けるためだと思われます。これまでは、ブランド登録には商標登録が要求されていなかったので、ある意味早い者勝ちで登録されていました。そうすると、本来のブランドオーナーでない者が先にそのブランドをアマゾンで登録してしまったり、偶然ブランド名が重複してしまうというトラブルがあったのだと思います。

そこで、商標登録により真のブランドオーナーであることを確認しようという話になったのではないでしょうか。アマゾンが資料提供などを求めて積極的に判断するのではなく、その判断は商標制度を利用して行おうということだと思われます。なんとも合理主義のアマゾンらしいやり方です。

さらに、なぜ標準文字なのか(ロゴや飾り文字ではいけないのか)というと、これもおそらく、ブランドの重複を避けるためです。例えば、あるブランド名について、飾り文字と標準文字(あるいは「図形+文字」の商標と標準文字)が、それぞれ他人に登録されることは、ありえます。そのような場合、やはりアマゾン内でブランドの重複が問題になります。そこでアマゾンでは、その重複の有無の確認も、商標制度を利用して行うことにしたものと思われます。重複する標準文字商標は登録されないはずですから、「標準文字商標が登録されているならアマゾンブランド登録もできる」とすれば、アマゾンは実質的な判断をせずに、ブランドの重複登録を避けることができます。

上記はあくまでも推測ですが、おそらく正しいでしょう。「この件についてアマゾン・ジャパンに問い合わせたが的を射た回答を得られなかった」と言う方がいますが、当たり前です。なぜならば、このルールは、他のそれらと同様に、米アマゾンから輸入されているからです。

法制度の差異により多少日本のものと規定ぶりが異なりますが、ざっくりとは同じことが要求されています。標準文字の商標登録が必須で、あるならば実際に使用しているロゴ等も出せと言っています。

そしてこれは、日本にだけでなく、世界中のアマゾンに輸出されているルールです。標準文字制度がない国もあり(例えば中国)、それぞれ多少異なる表現となっていますが、だいたい同じような内容が要求されています。なので、この件でアマゾン・ジャパンにいくら文句を言っても、あしらわれるだけでしょう。おとなしく標準文字の出願を急ぐのが吉です。

なお、過去にロゴやロゴと文字のセットで商標登録して、現在ブランド登録しているが、規約変更を期に標準文字商標を追加で登録するべきか、という問い合わせも多いのですが、上述のように、した方がいいです。一般論としては、先の登録があれば、同じ文字列で他人が標準文字商標を登録できる可能性は低いので、あまりリスクはないかもしれませんが、絶対にないとは言い切れません。また、他人がその文字部分にのみ類似する商標を登録できる場合もあるでしょうし、それを根拠に貴社が文字部分のみを標準文字で登録できないケースも出てくるかもしれません。こういうリスクを排除するには、自社で標準文字商標を登録しておく必要があります。アマゾンはブランド登録自体をやり直せと言っているので、今後標準文字商標の登録が必須になる可能性が高いです。登録までに半年程度かかることを考えると、やはり早めに出願をしておいたほうが、今後の活動に有利となるでしょう。(そもそもアマゾンを離れて、そのブランドを育てていこうとするのであれば、ロゴに加えて標準文字商標も登録しておくのは、一般的なブランド戦略においても重要です。)

さて、ここからは一般の企業様(主にメーカー)向けの話です。

アマゾンブランド登録の意義は、以下にあります。

  1. 商品カタログ(商品ページ)の編集権限を持てる。
  2. JANコードがなくても出品できる
  3. 同一ブランドの商品の商品ページをリスト表示できる
  4. 商品検索機能が強化される
  5. ブランド保護が強化される

順に見ていくと、1は、要は単に貴社商品を仕入れて販売する業者に、商品ページを編集されることを防ぎ、正規の販社にその管理を任せることができるというメリットがあります。2はメーカーの方には特に関係ないでしょう。3は、商品ページ上でブランド名をクリックすると、そのブランド名で出品されている商品の一覧を表示させることができます。もしここに、貴社商品以外の商品が出てくるようならば、模倣品の可能性があります。4については、いまのところ内容を把握できていません。

5は、アマゾンにおける模倣品排除において重要です。アマゾンに知的財産権(特に商標権)侵害の申し立てをする際に、ブランド登録されている商標ならば、排除がよりスムーズになります。具体的には、ブランド登録されている商標についての申し立ては、原則として真正なものであるとして、アマゾンはほぼ右から左に削除してくれます(ちなみに申し立ては商標権者あるいはその代理人しかできません)。ヤフーや楽天なども、著名なブランドについては、そうでないものと比べてよりスムーズな排除方法を提供していますが、アマゾンのブランド登録はそれらに対応する制度だと考えてよいでしょう。
また、ブランド登録をすると、模倣品発見のツールがアマゾンから提供されるようです。これについては、日本でも提供されているかを含めて詳細が不明なので、情報収集をして、改めてお知らせします。

結論としては、アマゾンにて貴社ブランドが登録されていないならば、早めに登録をしたほうがよいでしょう。標準文字商標の登録がまだならば、まずはこれを急いでください。米国では、ブランド登録を活用して、大規模な模倣品排除に成功している事例があるようです。ブランド登録自体には費用がかかりませんので、積極的に活用されることをお勧めします。
※ ブランドが登録されているかどうかは、アマゾン内でそのブランド名を検索してみれば(商品ページを見てみれば)わかります。

最後に、標準文字で出願する際の注意点について、これはブランド登録する名称と完全に一致している必要があります。大文字小文字の区別も必要ですし、複数の語からなる場合はちゃんとスペースをあけておくことも必要です。「・」は「ー」も正確に記載しましょう。
※ なお、標準文字ではハイフンは登録できないので、マイナスなどで代用することになりますが、さすがにそこまではみないでしょう。また、アルファベットはすべて全角での登録になります。

例)
ブランド登録したい名称
KOSHIBA-IP

商標登録(標準文字)
○ KOSHIBAーIP
× KoshibaーIP
× KOSHIBA IP
× KOSHIBAIP

弊所ではアマゾンブランド登録の代理/代行は行っていませんが、ご不明点があれば、お気軽にお問い合せください。(ただし中国輸入業者の「標準文字で出願した方がいいですか/出願し直す必要がありますか」という問い合わせはもう勘弁してください。答えは「出願しないとブランド登録できません」です。)

最後に余談ですが、アマゾンが標準文字商標の登録を要求する理由は説明しましたが、根底には、よくわからない自称ブランドが乱立している問題があるのだと思います。自称「OEM」、あるいは開き直って「簡易OEM」などと意味不明の呼び方をすることも多いようですが、中国でパクリ商品を見つけて、あるいはそれを少しだけ改造して、自分のロゴを付して「オリジナル商品」「オリジナルブランド」と名乗る図々しい商品が、米アマゾンで(もちろん日本でも)氾濫しています。アマゾンは、そうした商品はノーブランド品として売ってくれと言っているんですが、カタログを独占したいというだけの理由で適当に改造したり商標を付したりして、オリジナル商品のフリをする輩には困っているようです(一方で営業部ではそういう商売を煽っているようで、これがまた混乱を呼ぶ原因になっているようなのですが・・・)。

また別の話ですが、ブランド登録のための商標登録をするときに、指定商品は小売等役務(第35類)でよいのか?という問い合わせもチラホラあります。これは、以前当ブログでもご紹介したとおり、個別の商品を複数指定して区分数が増えると費用がかさんでしまうので、すべてを「○○の小売・・・」として、第35類にまとめて列挙したいという需要があるからです。
この点については、規約変更されたばかりでまだ事例がなく、よくわかりません。商品に商標を付して商品のブランドとして登録するわけですから、常識で考えれば個別の商品を指定すべきで、小売等役務について商標登録をするなど意味がわからないのですが、アマゾンはそこまで判断しないかもしれません。
弊所では、小売等役務を指定して出願しろとのご指示があれば従いますが、ブランド登録のためにそのような出願をすることは、お勧めしません。半年後に商標登録が完了しても、ブランド登録できないリスクがあることをご承知おきいただいた上でご指示ください。また、「35類でもいいんですか?」という問い合わせももうカンベンしていただきたいです。上記のとおりわからないので、アマゾンに直接確認してください。繰り返しますが常識的には個別の商品について登録すべきです。

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