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「PPAP」が他人に勝手に商標出願された件について、少し落ち着いて考えてみる

世間はすっかりこの話題でもちきりのようです。問い合わせが多いので、簡単な解説と、弁理士として思うことを少し書いてみます。

コトの発端・・・というとどこが発端なのかわからないのですが、ベストライセンス株式会社とその代表の上田育弘氏が「PPAP」関連の商標出願をしたということが、ネットのみならずテレビ等のメディアで大きく報じられているようです。例えば、

などなど。

ベストライセンスの行為はかねてから業界で問題になっており、このブログでも何度か取り上げたことがありました。

なのでこれまでの経緯は省略しますが、今回は「PPAP」を出願していたことがわかり、炎上しているわけです。

例えば、J-PlatPatでざっくりと「ピイピイエイピイ」という称呼を検索してみると、

関連しそうな出願が4件ヒットして、うち3件がベストライセンスによる出願です(残る1件はエイベックス)。

あるいは、「ペンパイナッポー」で検索してみると、

5件がヒットして、すべてベストライセンスによる出願です。

このあたりから、「ピコ太郎がPPAPを歌うとベストライセンスに使用料を請求される!」という指摘がなされているようですが、その心配はありません。

そもそもまだベストライセンスによって商標出願されただけの段階で、登録されたわけではありません。しかも、どうせ出願料未納なのでしょうから、結局登録されることはないと思います(仮に出願料を払って登録されると、登録料が発生するので、ベストライセンスはそれも納付しないといけません)。

ということでそもそも気にする必要はないと思われるのですが、このあたりを飛ばしてこれらが登録された場合を想定しても、ピコ太郎さんが「PPAP」とか「ペンパイナッポ〜」などと歌っても、ベストライセンスの商標権は侵害しません。

商標権の侵害となるには、現存する商標登録の、

1. 指定商品/役務について、*
2. 登録商標を、**
3. 商標的に使用する、

ことが必要です。

* ** いずれも類似のものを含みます。

しかしながら、歌を歌っても、どの指定商品/役務についても商標を使用することにはならないので、要件1を満たしません。(まぁCMソングなどでは事情が異なる場合もあるかもしれませんが、ここではとりあえずおいておきます。)

このように、ベストライセンスが出願しても、さらには万一それが登録されても、ピコ太郎さんには実質的な影響はありません。他人が勝手に登録するのはけしからん!という感情はわかりますが、「芸人はネタを公表する前に商標出願しておかないといけないのか」というようなことは、心配する必要はありません。

今後もしそれらの出願が問題になるとしたら、

  1. ピコ太郎さんが「PPAP」を商標出願した場合に、登録できないケースが出てくる
  2. ピコ太郎さんが「PPAP」を商標的に使用しようとした場合に、制限されるケースが出てくる

といった点についてでしょう。

1については、実際にエイベックスがベストライセンスに9日間遅れて出願をしており、登録が妨げられる可能性があります。エイベックスにとっては大迷惑でしょう。

また、2については、例えばベストライセンスによる商願2016-108551が「文房具類(第16類)」を指定していることから、ピコ太郎さんが「PPAP」ブランドのペンを販売しようとしたときなどに、問題になるかもしれません。

ベストライセンスの無断大量出願は、今回のように芸能関係で話題になることが多いのですが、商標実務をする上では、たまたま出願内容が重複(類似)してしまうことの方が問題です。

特許庁は、

という通達を出しており、要は「どうせ出願料未納なので、そのうち取り下げられるから待ちましょう」と言うのですが、個人や中小企業では事業のスピードが速く、出願内容が不安定なまま進めることにはリスクがあるとして、商標の変更をせざるを得ないケースがあります。もし出願の譲渡やライセンスなどの交渉をすれば、彼らはその段階で出願料を納付し出願を有効化して、高額の費用を請求してくるであろうことは想像に難くありませんから、こちらから連絡をすることは通常は考えられません。弁理士としては、こういう点が特に問題だと考えています。

特許庁も手を焼いているのだと思いますが、何らかの解決策を見出してほしいものです。

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『フランク三浦』商標問題、最高裁へ

最近この話題ばかりですが、『フランク三浦』商標の有効性が争われている件で、フランク・ミュラー側が上告したというニュースが流れてきました。

上告が受理されれば、最高裁が両商標の類否を判断することになるでしょう。パロディに関する判例・裁判例が乏しい現状を考えると、是非最高裁の判断を見てみたいですね。

なにより当事者にとっては非常に大きな問題だと思います。もし無効の判断がなされたら、おそらく「フランク三浦」時計は今後販売できません。

誤解がないように解説を加えますが、いま争われているのは、商標登録の有効性です。最初に無効審判にて登録無効の審決がなされて、次に知財高裁で審決の違法性が争われました。今回の上告は、知財高裁の「登録維持」の判決を不服としてこの取り消しを求めるものです。すなわち、実質的に争われているのはあくまでも『フランク三浦』なる商標の登録を維持するかどうかであり、フランク三浦時計を売っていいかはそもそも争いの対象ではありません。

ただし、仮に今回最高裁が両商標が類似すると判断したならば、その後『フランク・ミュラー』の商標権の侵害について争われた場合に、そこで商標非類似の判断はかなりしづらいと思います。

理論上は登録時の類否判断と侵害時の類否判断が異なることはあり得ますが、侵害訴訟において「取り引きの実情」について相当強力な立証がなされないかぎり、最高裁の判断を覆す類否判断はできないと思われます。すなわち、フランク三浦時計は販売を継続するのはかなり難しくなります。

逆に商標非類似の判断がなされたら、今後フランク・ミュラー側はフランク三浦時計の商標権侵害を問うことは難しくなるでしょう。その場合は、盤面デザイン全体、あるいは時計の形態全体を商品表示として、不正競争防止法に基づく差止請求等をすることになると思われます。

このようにいろいろな側面で注目したい事件です。今後も気をつけて見ていきましょう。

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『フランク三浦』商標についての記事が読売新聞&朝日新聞に掲載されました

『フランク三浦』問題について、5月17日に、私の記事が読売新聞オンライン版・深読みチャンネル内に掲載されましたのでご紹介いたします。

また、朝日新聞にも同問題について解説が掲載されました。こちらはコメントを提供したのみですが、同内容が新聞紙(夕刊)にも掲載されました。

基本的には記事に書いてあるとおりなのですが、多少解説を加えておきます。

事の発端は、『フランク三浦』というパロディ商品があり、これを製造・販売する会社(株式会社ディンクス)がこの商標を登録したところ、本家フランク・ミュラーが怒って無効審判を請求したことにあります。特許庁は商標登録を無効とする審決を出しましたが、ディンクス側はこれを不服として出訴(知財高裁に審決取消訴訟を提起)。知財高裁は、特許庁の判断を覆し、商標登録を維持する旨の判決を出しました。

本件の問題意識は、このようなパロディ商標の登録を認めていいのかというところにあります。何件か取材や問い合わせをいただいたのですが、そのほとんどが「パロディ商品を販売できる基準は何か」という内容でした。しかし今回は、そんなことは争われていませんし、判断もされていません。まずはここを明確にすることが重要です。

そこでパロディについて、知財法の観点から検討したわけですが、実は「パロディ」という概念にはあまりに多くのものが詰め込まれていて、まずはここを明確にしないと議論が錯綜します。記事執筆にあたり調べものをしている中で、本当に「パロディ」という側面から知財法上の問題を検討することが正しいのかという疑問すら持ちました。

そもそもパロディとは、著作権の世界で問題となるものです。例えば他人の絵画や写真を利用して、それに風刺的な意味を込めて新たな著作物を創作する行為などが問題になります。つい最近目にした例では、東京オリンピック招致にまつわる不正送金問題を揶揄する以下の画像などがこれに当たるでしょう(オリンピックエンブレムを1万円札で模しています)。

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なお、本画像は実際のタイム誌の表紙ではなく、それを模したコラージュ画像であるようです。そうすると、エンブレムの著作権についてはパロディが許されるとしても、タイム誌の表紙デザインの著作権については、別に議論する必要があるかもしれません。

このような創作行為は、著作権法上の翻案(場合によっては複製)に該当することがあるでしょうし、同一性保持権を侵害する可能性もあります。しかし同時に、表現の自由の観点から、これをできるだけ認めるべきともいえるわけです。

この点については、著作権法では、他人の著作物を利用(※この文脈では必ずしも著作権法上の「利用」や「使用」を指すわけではありません)して新しい著作物を創作した場合は、二次的著作物として別個に保護されることになっています。ただし、元の著作物の著作権を侵害することになるので、原則として権利者の許諾を得なさいというバランスの取り方をしています。

これに加えて、上記のようなパロディには、社会的・政治的な問題に対する思想や主張が表されている場合があります。このようなものには、特に表現の自由を厳格に守るべきとして、その制限により慎重な判断がなされるべきであり、この観点からパロディが問題になるといえます。すなわち、一般的な二次的著作物の中で、社会的・政治的な風刺を含むパロディについては、許諾がなくても、より許されやすい場合があるかもしれないのです。

このような観点からパロディの可否が議論されてきたわけですが、時代の変遷とともにその対象が広がっていき、社会的・政治的な要素を含まないものでもパロディなら許されるべきではないかという議論が、欧米を中心になされてきました(そしてそれを認めるべきという大きな流れがあったように思います)。

日本の著作権法では、パロディについての特別の規定はありませんし、判例・裁判例を見てもパロディだからどうという判断はされづらいようです。つまりパロディだからといって特別扱いせず、通常の著作権侵害事件と同様の基準で判断すればいいとされているように思われます。社会的・政治的な表現はパロディ以外のものでもなされることを考えると、それも妥当かなという気はします。

また日本特有の問題として、二次創作(いわゆる同人誌)という文化もあります。これも広い意味でパロディに含められますが、個人的には、パロディだから許されるとか、そういう議論には馴染まないように思います。主にファン活動の一環としてなされるものでしょうから、ファンの間、及び著作(権)者や出版社を含めた関係者の間の問題として考えればよいように思います。ただしクールジャパンのように国家戦略としてこれを推奨していくというならば、何らかの法的手当は必要かもしれません(この点についてはいずれ別稿で)。

このように、著作権の世界ではパロディは「表現の自由」という重要な人権と関わる問題であり、安易に制限してはならないという考えに説得力があるのですが、商標の世界では必ずしも同じではないように思います。

例えば今回のフランク三浦の腕時計、あれを販売することを「表現の自由」の観点から認める必要があるかというと、そんなことはないと思います。「フランク三浦」は、ギャグ目的だとはいえ、「フランク・ミュラー」という商標の周知・著名性を利用したブランドであることは明らかです。仮に世の中に「フランク・ミュラー」が存在しなかったら、「フランク三浦」の時計は同じような売上げや利益を出すことはできなかったでしょう。

一方でこのような利用のされ方をしてもフランク・ミュラー側にはほとんどメリットはないでしょうから、端的に、フランク三浦はフランク・ミュラーの周知・著名性にただ乗りして利益を得たといえます。これを日本という国で社会的に認めていいのかという議論がまずあるわけです。フランク三浦が単なるフランク・ミュラーの模倣品ではなく、独自の製品を開発・製造・販売しているとしても、それを凌駕する利益を「フランク・ミュラー」の周知・著名性から得ているならば、この点を日本国民としてどう考えますかという問題なわけです。

念の為ですが、日本の知的財産法の世界では、他人の先行投資などに「ただ乗り」すること自体を禁止してはいません。すなわち、ただ乗りしている=違法とはなりません。この点は重要なのですが、意外と勘違いされています。

例えば特許の世界では、出願された技術内容は、一定期間経過後に特許庁により強制的に開示されます。その情報を利用して、他社は新たな技術を開発するわけです(技術の累積的進歩)。これも他人の先行投資へのただ乗りといえますが、特許法ではこれを禁止するどころか、これこそが特許法の真の目的です。ただ乗りだからダメとはいえない好例でしょう。

商標や標章の世界では特許のような累積的な進歩という概念には馴染まないのですが、それでもただ乗りしたら即アウトとはなっていません。商標法では、ただ乗りした上で、本家と出所の混同をきたす程度に類似していたらアウトということになっていますし、一見するとただ乗りそのものを禁止しているように見える不正競争防止法2条1項2号も、結局は他人の商品等表示を希釈化する程度に類似していたらダメだといっています。このように、ただ乗りした上で、各法律(条文)が目的とする違法性を備えるものが禁止されるというのが日本の法律の枠組みなので、ただ乗りかどうかだけを議論しても不十分だということには注意が必要です。

ということで、フランク・ミュラーの周知・著名性に、言い換えればフランク・ミュラーのこれまでの巨額の投資にただ乗りをして、自らは利益を得る一方、フランク・ミュラーのブランド価値を下げてしまうかもしれないフランク三浦時計の存在を、日本国民はどう位置づけますかということを考えなければいけないわけです。(もっともこの点は(すなわちフランク・ミュラー商標の侵害をするかについては)争われていないので、議論しづらいかもしれませんが。)

今回は、このような問題に加えて、『フランク三浦』の商標登録を許すかどうかが争われたわけです。仮にフランク三浦時計の販売を許すとしても、商標登録はやりすぎだという意見もあるでしょう。『フランク三浦』が商標登録されるということは、フランク三浦は自らが他人の商標の模倣でありながら、自らの模倣を排除する権利を持つということを意味します(※もっともフランク三浦は模倣であっても本家とは商標非類似と判断されているので、類似商標の使用を排除することを同列に語ることはできないでしょうが)。個人的に問題だと思うのは、『フランク三浦』が商標登録されることによって、フランク・ミュラー側は『フランク・ミュラー』商標と類似する商標の一部の使用が制限される可能性がある点です。すなわち、両商標の類似範囲の重複部分(禁止権同士がぶつかる範囲)は双方とも使用できないわけですから、フランク・ミュラー側が使用できる商標の範囲がその分狭まったといえます。

例えば、『フランクミウラ』なるカタカナの商標は両方に類似する可能性が高く、これまでフランク・ミュラー側は(積極的にこれを独占使用できはしないけれども)他人を排除することで自らが実質的にこれを独占的に使用できたわけですが、『フランク三浦』商標登録のおかげで今後はこれを使用できません。これは微妙な例ですが、より現実的な問題(例えば『フランクミウラー』の場合はどうか、など)が生じる可能性は否定できません。使いたければ最初から商標登録しておけばいいと言われたらそれまでなのですが、フランク・ミュラー側にそのような負担を強いるだけの合理性が『フランク三浦』の商標登録にあるのかは、検討されてもいいでしょう。

このように、パロディについては、

  • そもそも著作権の世界で問題になった(表現の自由の観点から認めるべきという価値があった)
  • その対象が徐々に広がっていき、表現の自由とは無関係の、商売(商標)の世界にまでパロディの問題が生じるようになった
  • パロディ商品の販売が商標法上許されるかという議論に加え、ついにはパロディ商標を登録して他者の排除を認めていいかが問題となるようになった

という流れで書いたのですが、伝わっているでしょうか。

本来ならば、パロディ商品の販売は許してもいいが、その商標登録までは認められない、という価値観があってもいいように思いますが、おそらく実務上(あるいは現行法制度上)、侵害の場面と登録の場面の商標類否判断の基準の差は、そこまで大きくないと思われます。特に今回フランク三浦判決で示されたような「取引の実情」の参酌がされるのであれば、両者の間の差はほとんどないと言っていいかもしれません。

審査段階における「取引の実情」の参酌については、近年特に広く解釈されているようで、批判的な意見もあるようです。本件のように需要者層が異なるという要素は他の事例でも比較的頻繁に採用されており、ある意味「取引の実情」の定番の要素ともいえるものですが、将来販売される商品によって需要者層の重複が生じた際には、無効理由の根拠となるのか、その部分は権利範囲から外れると侵害訴訟で判断されるのか、あるいは一切影響しないのか、よくわかりません。すなわち、将来需要者層が重複した場合、『フランク三浦』は『フランク・ミュラー』の商標権侵害となるのか、その際に『フランク三浦』商標登録の存在はどうなるのか、不明です。

このようにいろいろ微妙な点を含んだ本件ですが、数少ない「パロディ×商標登録」の事例に重要な1つとして加わることは間違いないでしょう。朝日新聞で引用してもらった「フランク三浦は本気でパロディーをした」という表現はいくらかエキセントリックに聞こえるかもしれませんが、結局は独自の商品として需要者を開拓していったことで独自のブランドとして評価された、という意味です。本件で単なる模倣品とパロディとの差異を見出すとすれば、ここが最も重要なのではないでしょうか。

余談ですが、朝日新聞も読売新聞も、 Parody は「パロディー」なんですよね。私の感覚では「パロディ」なんですが、おそらく前者が正しいのでしょう。

これは表記ゆれと呼ばれる問題で、翻訳などをしてるとかなり頻繁に直面します。私は基本的には伸ばさないようにしていて、「スター」や「タブー」など明らかにおかしくなる場合のみ伸ばすようにしています。結局は好みの問題なのでしょうが、伸ばすかどうかだけで商標の類否判断に影響する事例が少なからずあることを考えると、少なくともブランド名ではこのあたり気を配った方がいいのでしょう。

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中傷レビュー投稿者の情報開示が命じられた事例から考えるアマゾンにおける模倣品対策

またも少し出遅れましたが、アマゾンに投稿された中傷レビューの発信者の情報開示を求めた訴訟において、裁判所が面白い判決を出したようです。

記事によると、アマゾンで中傷レビューを投稿されたNPO法人が、投稿者の情報を開示するよう求めていた件で、裁判所は、アマゾンジャパン株式会社に、投稿者のIPアドレスに加え、氏名、住所、メールアドレスの開示を命じる判決を下したそうです。

この話題のポイントは、2つあります。

ひとつは、IPアドレス以外の情報も、アマゾンに開示義務があると判断した点です。これまでの手続きの流れに従えば、まずアマゾンに対してIPアドレスの開示を請求して、その情報を基に、ISP(プロバイダ)に対して個人情報を開示する請求するという、二段階の手続きをすることになっていました。ところが本判決では、アマゾンに対して、IPアドレスのみならず、投稿者の氏名や住所なども開示するように命じました。これにより、アマゾンに対する一度の手続きのみで投稿者の個人情報を入手できることになり、開示請求をする方は手間・時間・費用を軽減させられることになりました。

もうひとつは、今回開示義務が課されたのがアマゾンジャパン株式会社であるという点です。ご存知の通り、Amazon.co.jpの運営主体は、Amazon.com Int’l Sales, Inc. 及び Amazon Services International, Inc. です(米国2社による共同運営)。日本法人であるアマゾンジャパン株式会社は対応窓口に過ぎないため、Amazon.co.jpで生じたトラブルについての訴訟は米国企業を相手に起こさなければならないとこれまでは言われていました。ところが本判決では、アマゾンジャパン株式会社に対して情報開示を命じました。これにより、米国企業と裁判をしなくてもいいこととなり、開示請求がかなりやりやすくなったといえます。

それぞれのポイントについて簡単にみていきます。

前者については、これまでもできるのではないかと言われていました。司法や行政などからの強制力のある命令があれば、アマゾンは情報を出さざるを得ないだろうというのが専門家の見解でした。実際にIPアドレスはこれまでもアマゾンなどのサイト運営者から開示されていました。

今回は、氏名や住所なども含めてアマゾンに開示義務があると判断された点に意義があるのですが、実はこの氏名や住所は、アマゾンに登録されている情報だという点に注意が必要です。従来のISPが開示する方法では、IPアドレスからユーザごとの接続IDや接続先サーバから住所などを特定します。一方で、アマゾンはそうした情報を割り出すことはできないので、アマゾンにユーザ登録されてある情報を提供することしかできないはずです。アマゾンでは、クレジットカードと電話番号さえあればアカウントが作れてしまいます。これらの情報は一時的なものを入手するのが簡単なので、虚偽の住所や氏名で登録がなされている場合、正確な情報が割り出せないという問題が残る点には注意が必要です(このような事情を知って最初から虚偽情報で登録する人は実際にいます)。そのようなケースでは、結局従来通りの方法でISPに情報開示請求をするしかありません。

あとは、今後は同様の訴訟を提起すればこうした情報を開示させられるのでしょうが、弁護士会照会ではどこまでの情報が出てくるのか(アマゾンには出す義務があるのか)も今後の検討課題でしょう。

さて、今回特に重要なのは、後者です。今回原告は、本件訴訟に先立ち、アマゾン米国法人を訴えていたそうです。その後日本法人も訴えたところ、「Amazon.co.jpの運営主体はアマゾンジャパン株式会社である」と認めたため、米国法人に対する訴えは取下げて、アマゾンジャパンに対する請求一本に絞ったという経緯があるようです。

これまで、アマゾンと書面等でやり取りをすると、サイトの運営主体は米国法人であり、日本法人は対応窓口にすぎないという注意書きが必ず記載されていました。一方で、アマゾンの倉庫(FBA)はアマゾンジャパン・ロジスティクスが運営しているという事情があり、サービス全体としては誰が実質的な運営主体がよくわからない状態となっていました。こういった事情のため、Amazon.co.jpにおける問題について訴訟を起こすならば、米国法人を相手に訴えるしかないというのが一般的な考えでした。それが、アマゾン自ら実質的な運営主体はアマゾンジャパン株式会社あると認めたことにより、アマゾンジャパンを訴えればいいとされた点で、本件には大きな意義があるといえます。

本判決は、アマゾンにおける知的財産権侵害への対応にも影響すると思われます。例えば、Amazon.co.jpで商標権や意匠権などの知的財産権侵害をする商品が販売されているのを発見したら、出品取り下げなどをアマゾンジャパン株式会社に申告することになります。ところが、解釈の差などの理由で、アマゾンがスムーズに手続きをしてくれないことがあります。そうしたときに、これまではアマゾン米国法人を相手に訴訟を起こさなければいけないと考えられていたので、かなりハードルが高く、ネット販売では侵害の規模が小さいことが多いことを考え合わせると、手間やコストの観点から、訴訟提起できないという問題がありました。もしアマゾンジャパン株式会社を相手に訴えればいいということであれば、訴訟のハードルが格段に下がる(例えば書類の翻訳料がなくなるだけでかなりのコスト削減になります)ので、今後はAmazon.co.jpにおける知的財産権侵害の問題は裁判で争う例が増えるかもしれません

また、FBA倉庫(フルフィルメントセンター)に偽物が納品されている可能性が高いことがわかっているときに、出荷差し止めや、その前段階として工場への立入検査を希望することは多くあります。これについても、これまでは米国法人を訴えるのは大変なので諦める事例が多かったのですが、今後はアマゾンジャパン・ロジスティクスを訴えればいいのだろうということが明らかになったように思います。

そういう意味で、本判決は中傷レビューに関するものですが、模倣品対策の観点からも、今後の実務に与える影響は大きいと思われます。

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『フランク三浦』商標問題について考える

数日前になりますが、面白いニュースが出てきました。

超高級腕時計の『フランク・ミュラー』のパロディ商品として人気の高い、『フランク三浦』という腕時計のブランドがあり、これが「時計」等を指定商品として商標登録されていました(商標登録第5517482号)。

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これに対して、本家フランク・ミュラー側が無効審判を請求したところ、特許庁審判部は、これを無効とする審決を出しました(無効2015-890035)。これを不服として、フランク三浦側が知財高裁に審決の取り消しを求めていたものについて、知財高裁は請求認容の(すなわち商標登録は有効という)判断を下したというものです。

現段階ではまだ判決文が入手できないためソースはニュース記事のみになってしまいますが、まぁ知財高裁らしい判断かなという印象です。

今回主に争われたのは、商4条1項11号の該当性だと思われます。主引例として商標登録第4978655号(『フランク ミュラー』の標準文字商標)が挙げられ、これとの類似性が議論されたようです。

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日本では、パロディの商標を認めるかどうかという基準はありません。なので通常の商標として、両商標の類似性を判断することになります。(ただし後述するようにパロディならではの論点も多少あります。)

ざっくりみて、『フランク三浦』は「フランクミウラ」と発音されるので、称呼は『フランク・ミュラー』と類似するでしょう。そもそもパロディ商標なので、似ていて当然です。実際この点は特許庁審査・審判・知財高裁の各段階で共通の判断がされています。逆に、外観は一見して非類似でしょう。判断が難しいのは観念で、無効審判と知財高裁ではここで差が出ているようです。

審査基準によると、11号における商標の類否判断では取り引きの実情が考慮されることになっています。が、特許庁の審査段階では、単純に両商標を比較(離隔観察)して、外観や観念が異なるとして登録になったものと思われます。実際に、審査段階では拒絶理由は一度も通知されていません。

それが、無効審判では、称呼は当然類似するとして、観念についても『フランク三浦』からは『フランク・ミュラー』を想起するとして、類似性を肯定し、商標登録を無効としました。フランク・ミュラーの著名性を考慮しての判断です。

一方で知財高裁では、称呼は類似するものの、外観に加えて観念についても、「三浦」部分が日本人を想起させるとして、類似性を否定したようです。どうやら知財高裁は離隔観察の時点で商標非類似と言っているようです(判決文を読まないと正確なことはわかりません)。

この判決はさらに面白い判断をしています。上記だけでバッサリ「非類似」と切ってしまってもよかったのでしょうが(実際にそうしたのかもしれませんが)、知財高裁では両者の価格帯などに触れ、需要者が両商標を混同するおそれがないことを述べています。この「混同」が狭義の混同を指すのか、広義の混同まで含むのか、現段階ではわかりませんが、もし15号との絡みで出てきた議論なら面白いかもしれません。

11号の類似における混同とは、狭義の混同だとされています。つまり、フランク三浦の時計の出所がフランク・ミュラーだと需要者が混同するかというと、それはしないだろうと。だから両商標は非類似なのだという話ならば、それなりにしっくりきます。

一方で15号における混同とは、広義の混同までを含む概念だといわれています。つまり、フランク三浦の時計がフランク・ミュラーから出されているとは思わないにしても、日本における低価格帯向けの時計を製造販売する子会社や関連会社から出されているのではないかと需要者が思う可能性があるのであれば、15号に該当するとして無効にされるはずです。本件は15号にも該当しないと判断されているものですから、もし15号該当性の議論において知財高裁が「ミュラーは多くが100万円を超えるのに対し、三浦は4000円から6000円と安いことなどから、「(広義の)混同は考えられない」と」(同MBS)判断したのならば、この部分はさらに面白いネタとなるでしょう。このあたりは判決文が入手できるまではただの妄想です。

ところでこの判決は弁理士としてなかなか興味深いです。

実際にこの種の相談をよく受けます。仮に「フランク・ミュラーのパロディとして『フランク三浦』という時計を販売していいか」と相談されたら、どう答えたらいいのでしょう。「問題ない、GO!」とはなかなか答えられません。なにせ特許庁の審査及び審判、知財高裁で判断が分かれているのですから、事前に正解を予測しろというのは無理というものです。しかもこれは登録性における類否の議論です。侵害性における類否の議論ならどうなるか、現段階でもわかりません。

このような場合に、私は、どうしても使いたいなら実際に出願してみるようアドバイスすることがあります。出願してみて登録になれば特許庁のお墨付きを得られたとして登録商標を堂々と使用すればいい* ですし、登録できなければ類似商標ということでしょうから使用しなければいいです。商標出願は費用も安いですし、判断が出るまでの期間も4ヶ月程度ですので、複数の弁理士に何十万円もかけて鑑定書をもらったり、特許庁に判定を請求するくらいなら、出願して審査官に判断してもらう方がコスパがいいでしょう。

* ただし、後に無効となった場合には、仮にそれまで商標登録されていたとしても、使用していた期間の損害賠償責任を負うというのが裁判所の立場ですから、100%リスクを回避できるわけではありません。

このような方法を採った場合、本件のように審査段階で離隔観察により非類似と判断され登録になったとして、その後無効審判やその取消訴訟で取り引きの実情が考慮された結果、無効とされてしまうリスクが実務上どれだけあるかは非常に悩ましいところです。本件では審査段階と知財高裁が同様の結論だったので結果的にこのような問題は生じなかったのでしょうが、逆の結論のケースも当然考えられます。

現実問題として、特許庁の審査段階で取り引きの実情を大きく考慮することは不可能でしょうし、今回のように拒絶理由さえ通知されずに登録されてしまうと、出願人にはそのための資料を提出する機会すら与えられません。そういうことは事後的に無効審判で争えということなのかもしれませんが、コストの観点からは個人や中小企業には優しくない制度です。本件のように判断が分かれる可能性があるものについては、審査段階で一度拒絶理由通知を打っていただきたいものです。本件などは拒絶理由通知が打たれていてもよかったケースなように思います。

さて、この判決のニュースは話題になっており、弊所にも「パロディ商標って大丈夫なんですか」という問い合わせが既にありました。たしかに、これまでの日本での商標の争いをみると、フランク・ミュラーのような明らかに著名な商標の持ち主が負けるケースは珍しいように思います。多くの場合、著名ブランドが正義であり、真似をする方が悪なので、よっぽどのことがない限り著名ブランド側が負けることは少ないでしょう。

だからといって「有名ブランドも少しいじればパクってOK」というわけではありません。前述のとおり、日本ではパロディだからどうかという基準はありません。結局は両商標が類似するかを議論するだけです。その過程で、本件のように「需要者層が異なる」というパロディの特徴が結論に何らかの影響を与え得るという程度です。そのような中で、今回フランク三浦は、本気でパロディをしたからこそこのような結論を得たと考えていいと思います。なぜならば、「需要者層が異なる」ことが類否判断に大きく影響するのであれば、粗悪な模倣品についても類似商標が登録しやすいのかというと、そんなことはないはずだからです。

例えば、『GUCCHI』の偽物の『GOCCHI』というブランドがあったとして、これを付したカバンが3千円台で売られていたらどうでしょうか。それを買う人はまさか本物のグッチだとは思わないでしょうから、需要者層は両者で異なります。ならば『GOCCHI』を商標登録して販売することを認めていいかというと、そんなことはないでしょう。やはりパロディをやるにしても、離隔観察の段階で非類似だと判断される商標を選択しないと危険だということです。(そして非類似な商標でパロディをすることは難しいはずです。)

結局、パロディをするにも真剣にやらないといけないということです。フランク三浦は、本気でパロディをした、だから裁判所も許してやろうという結論を下したのだと思います。彼らは自ら時計を作り、しかもその精巧さや品質に定評があったと聞きます。そのような、そもそも特徴のある時計に、著名なフランク・ミュラーをもじった名称をつけて、しかも「三浦」という日本で一般的な姓を選んだことで、一種のギャグ/ユーモアとして評価できるレベルに達していたのでしょう。著名なフランク・ミュラーのブランド力を利用して偽物を売ろうとした事例とは違うということです。

ただ正直、釈然としない部分もあります。価格帯が異なるから需要者が混同しないと言いますが、ではフランク・ミュラーが大衆向けの1万円くらいの時計を売り出したら結論は変わるのでしょうか。

フランク・ミュラー側は、「信用や顧客吸引力への『ただ乗り』目的だ」(朝日新聞DIGITALと主張しているようで、これはまさにその通りでしょう。もし「フランク・ミュラー」という著名ブランドがない世界だったなら、「フランク三浦」はどれだけ売れたでしょうか。ただ乗りではあるが、商標法で保護される利益を損なっていないという判断でしょうか。いまいち納得できません。

それにこれはあくまでも審決取消訴訟です。侵害訴訟でも同じ結論となるでしょうか。さすがにこの判決がある以上、今後商標権侵害訴訟が提起されても、そこで商標非類似と言うのは難しいかもしれません。そういう意味で、フランク・ミュラー側はいきなり無効審判を請求するのではなく、侵害訴訟から入ってその中で類似性や商標登録の有効性を争った方がよかったかもしれません(いまだから言えるわけですが)。

また、不正競争防止法の訴訟ならば、フランク三浦が差し止められる可能性も決して低くないと思われます。仮に商標部分が非類似だとしても、文字盤のデザイン(※フランク・ミュラーの文字盤デザインはかなり特殊的です)もよく似ています。それを商品等表示として類似性が争われた場合、文字盤の類似性を凌駕するほどの非類似性が商標部分にあるかは微妙だと思います。おそらくフランク・ミュラーの著名性は揺るがないでしょうから、2号の適用があります。2号では、著名ブランドの品位を落としたり(ポリューション)、唯一的な地位を傷つけたり(ダイリューション)する行為も制限されるので、フランク三浦の時計はそれらに該当するかもしれません。

そういう意味で、フランク三浦がこのまま販売を続けられるかわからず、まだまだ微妙な案件だといえると思います。

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スペインでの『UDON』商標問題について考える

元Jリーガーで、現在はスペインでうどん店を経営されている石塚啓次さんが、商標トラブルに巻き込まれたというニュースが話題となっています。

石塚啓次さんのブログでもこの問題に言及されており、スペインの弁護士から警告書を受け取ったこと、そこでは店舗名から「うどん」の文字を削除することなどが要求されたこと、対応費用がかかるので相手の要求に従うことなどが述べられています。

日本人にとっては腹立たしいニュースですが、商標法の観点から、実際のところはどうなのでしょうか。

問題の商標権を調べてみました。正確な情報がないのですが、スペインでは以下の商標登録が存在するようです。

16031201

出典:TMview

指定役務は以下のとおりとなっています。

16031202

出典:OEPM

恥ずかしながらスペイン語はわからないのですが、自動翻訳にかけてみたところ、「レストラン及びホテルの運営」となるようです。

さて上記商標権に基いて、スペイン国内でうどん店の看板等に「UDON」の文字を使用することを差し止められるのでしょうか。普通に考えて、うどん店の店舗名に「UDON」を用いるのは、商標的な使用でないですよね。おそらくスペインでも事情は同じだと思われます。

また、識別力を発揮しない態様での使用でしょうから、商標権の効力の範囲外でもあるはずです。実際スペイン商標法には、以下の規定があります。日本の商標法第26条と同じような規定です。

スペイン商標法第37条(商標権の限定)
商標により付与される権利は,第三者が経済取引において次のものを使用することを禁止することをその所有者に対して許可するものではない。ただし,当該使用が工業上又は商業上の公正な慣行に従っていることを条件とする。
(b) 商品の種類,品質,数量,目的,価格,原産地,生産の時期若しくはサービス提供の時期,又はその他の特徴に関する情報

うどん店が店舗名に「UDON」の語を用いるのは「商品の種類」をそのまま表しているだけですから、商標権者が権利行使をすることはできないはずです。

更には、本件商標権は、無効理由を抱えているとも考えられそうです。

スペイン商標法第51条(絶対的無効理由)
(1) 次の場合は,商標の登録は確定的な決定により無効と宣言され,かつ無効となる。
(a) 第 3 条(1)及び(2)並びに第 5 条の規定に反する場合
スペイン商標法第5条(絶対的禁止事由)
(1) 次の標識は,商標として登録することができない。
(c) 商品又はサービスについて,その種類,品質,数量,目的,価格,原産地,商品の製造又はサービスの提供期間又はその他の特徴を示すために取引上使用される可能性がある標識若しくは表示のみからなるもの

本件商標は、第5条(1)(c)に違反して登録された可能性が高いので、無効審判を請求すれば登録を取り消すことができそうです。

ただ今回少し気になるのが、「うどん」という語は日本語であり、そのローマ字表記の「UDON」が外国で本当にうどんとして認識されるのかという点です。おそらく、「SUSHI」ならば欧州の多くの国で「寿司」として認識されると思われます。一方で「UDON」がどの程度のスペイン人に認識されるか、そもそもうどん自体がスペインでどれほど認知されているか、不明です。このあたりは国ごとに事情が異なるでしょうし、さらには同じ国でも事案ごとに判断基準が異なるので、なかなか一般的な答えはないのかもしれませんが、うどんが日本の代表的なヌードルのひとつであることを考えると、スペインのような国際化の進んだ国ではある程度認知されていると考えてよいのではないかと思います。そうであるならば、やはりスペインでも「UDON」の語は「うどん」の普通名称であると考えられます。
※もっとも、例えば特定の使用者によりその語が認知されるようになった場合など、事情によっては識別力が肯定されることもあります。結局はケースバイケースで判断される事項です。

このようにそもそも権利行使できないので争えば勝てるでしょうし、もし揉めるなら無効審判で商標登録を潰してしまうこともできるであろう案件ですが、いかんせんこうした対応にはコストと時間と手間がかかります。相手はそうしたことを理解した上で、法的に根拠のない言いがかりをつけているものと推測されます。本件商標は2002年に出願され、2003年に登録されています。当初は「UDON」を合法的に使えることの確認のために商標登録したのかもしれませんし、今回と同様の問題を過去にも起こしているのかもしれませんが、いずれにせよ今回石塚さんが遭遇しているトラブルは、一種の商標ゴロによる反社会的な活動を想起させます。

今回石塚さんは費用や時間の観点から相手の要求に従う意向とのことですが、とても悔しい思いをされているでしょうし、我々日本人にとっても非常に腹立たしい思いです。例えばレター(回答書)を1通だけ送るなど、コストをかけずに上記の内容を反論してみるなどもできるかもしれないので、是非諦めずにできることは何でもやっていただきたいと思います。翻訳料等実費を負担いただけるならば弊所で無料で対応するのですが…。

余談ですが、今回と逆の立場で、商品の普通名称を商標登録して他者の参入を阻止したいという相談をたまにいただきます。例えばクロム製のコップが海外で流行し、それを日本に輸入しようとする人が、『Chromium』をコップについて商標登録して、他人がクロム製のコップを輸入するのを阻止したい、というようなものです。

しかしこれは無理なことが多いです。商品の素材や産地などは、その商品について誰もが使いたいので、特定の誰かに商標権を与えて独占させることに馴染みません。そもそも商標とは、同じ種類の商品を複数の人が製造や販売する前提で、それぞれの商品の出所を区別するための標識ですから、商品そのものの独占をさせることは想定していません。その商品を独占的に製造や販売したいのであれば、特許権などの創作法の保護を求めるべきです。

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中国税関のセミナーに参加してきました

JETRO主催の中国税関セミナーに参加してきました。中国では税関のことを海関というので、正確には「中国海関セミナー」という名称でしたが。

さすがはJETRO、中国からそうそうたるメンバーを集めてきました。

中国海関総署・知識財産処の副所長
北京海関、青島海関、石家庄海関・法規処の各所長
瀋陽海関、合肥海関・法規室の各室長

こんな顔ぶれがいっぺんに中国を離れて大丈夫なのでしょうか(笑)

セミナーの内容は、中国税関での模倣品差し止めの基本的なシステムの紹介が主な内容でしたが、みなさんが口を揃えて主張されていたことがありました。

「我々税関は、こんなにたくさんの模倣品を差し止めしているのです。日本企業の役に立っています!」

なんというマッチポンプでしょう。

世界の90%以上の偽物を作っているのは中国です。それらの輸出を差し止めたから日本企業の役に立っていると言われても、素直にありがとうと言う気になど到底なりません。まず偽物を作る方をなんとかしろと言いたくなります。

ただこれも繰り返し説明していましたが、ニセの商標を付した ザ・偽物 については、最近の中国海関の発見精度がだいぶ上がってきているのも確かです。特に欧米や日本に向けては、そのようなザ・偽物を輸出し続けることのデメリットが大きいという国家的判断もあるようで、中国政府としても、パフォーマンスではなく本腰を入れて対策し始めているという実感はあります。また、中国商品の機能や実力が上がってきたので、偽物でない商品の輸出を押していけるだろうという思惑もあるようです。

ただしそれは、「商標さえつけなければ偽物ではない」という考えの裏返しとも取れます。これは中国でしか通じない価値観で、日本ではもちろん知的財産権を侵害する行為です。

そこで、以下の様な質問をしてみました。

  • 日欧米の企業の商品のデッドコピーを作り、商標を取り除いてノーブランド品とするか、他の商標に差し替えてオリジナル商品として日本に輸入する事例が増えている
  • そのような商品に対しては、意匠権で対応できるが、日本企業はあまり意匠権を取らない傾向にある
  • そのような場合には、中国の不正競争防止法を根拠に、税関で模倣品を差し止めてくれるのか?

これに対しては、おおよそ以下のような回答を得ました。

海関に輸出差し止めを申し立てることができる。ただしそうした案件は裁判所の判断を仰ぐことになるだろうから、簡単には解決しない可能性がある。

中国海関の偉い人たちがこれだけたくさん集まってもこういう回答なのです。事実上できないと言っているに等しいでしょう。

結局、従来型のザ・偽物、すなわち典型的な商標権侵害物品については、模倣品対策もだいぶ進んできたけれども、模倣品の方もどんどん進化してきているので、それらにはまた新しい対応が必要だということなのでしょう。

そうした模倣品については、やはりまだ日本側で対応することになりそうです。そのためには、日本企業はもっと意匠権の活用を増やしていくべきでしょう。

ちなみに、中国の不正競争防止法(反不当競争法)では、商品形態の模倣そのものを禁止することはできません(日本法の2条1項3号のような規定はありません)。そのため同法の他の規定を用いてなんとかできないかということが以前から各関係者の間で問題になっているのですが、今回中国税関の方々に直接伺って、それが難しいことが明確になりました。結局のところ、日本企業は中国でももっと意匠権の取得に力を入れなければいけないのでしょう。

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ECにおける他人の商標の使用と商標権侵害

アマゾンや楽天などのECショッピングモールで、他人の商標を使用することが許されるのはどういう場合なのでしょうか。逆にどのような場所や方法で使用すると問題になるのでしょうか。これも昨年問い合わせが多かったテーマのひとつです。

商品ページヘのアクセスを増やすために、キーワードとして他人の商標を用いたいという需要はかなりあるようです。例えばバッグの商品ページの一部に「エルメス」や「バーキン」などのキーワードを入れて、Googleなどでそれらのブランドを検索した人を誘導するわけです。

こうした行為が需要者を本来の目的とは誤ったサイトへ誤認誘導するものであり、問題がありそうだということは常識でわかると思いますが、商標権侵害となるかについては検討の余地がありそうです。

この問題には、以下の裁判例が参考になると思われます。

【事案の概要】
X(原告)が以下の構成からなる商標についての商標権を有していたところ、競業他社が「<meta name=”description”content=”クルマの110番。輸入、排ガス、登録、車検、部品・アクセサリー販売等、クルマに関する何でも弊社にご相談下さい。”>」と、メタタグに『クルマの110番』の商標を使用した行為が、商標権侵害に該当するかが争われました。

16011701

本件商標(商標登録第4239953号)

【結論】
商標権侵害となる。

【理由】
商標及び指定役務の類似性の検討は省略しますが、類似と判断されています(おそらく問題ないでしょう)。その上で、上記のようなメタタグへの記載が商標的な使用であるかについては、MSNサーチの検索結果画面にその内容が表示されたことから、商標的な使用であると判断されました。

【解説】
メタタグとは、そのウェブサイトの属性や概要などを記載するためのHTMLタグで、そのページをWebブラウザで開いても、メタタグ部分は表示されません。ただし一部の検索エンジンではそこに記載された内容を参酌して検索順位を決定したり、上記MSNのように検索結果自体に現れたりします。上記判決では、この「検索結果に現れた」という事実が重視されました。

ウェブサイト(ECの商品ページを含みます)における商標の使用は、一般に、商標法2条1項8号に定める「広告的使用」に該当します。商品名などにもろに用いると、同2号に該当することもあります。

一方で、商標は商品の出所の混同を防止するための表示ですから、目で確認できることが何よりも重視されます(もちろん発音でもいいのですが、結局は見えないモノは発音もされないので、結局は同じことです。※今後音の商標などが登録されるようになると事情が変わるかもしれません)。そのため、メタタグのようにブラウザで表示されないものは商標として機能していないのではないかという疑問が生じて、問題になるのです。

そういう意味で、MSNサーチの検索結果に現れたことを根拠に登録商標を商標的に使用したとして商標権侵害を認定した上記判決は、妥当だと考えられます。

ただメタタグは多くの検索エンジンでは検索結果にも現れないことから、例えば今後MSNサーチの仕様が変わったときには、同様の事案では異なる判断がなされる可能性もあります。また、この種の問題についての裁判例がおそらく上記大阪地裁のものしかないことから、これの先例的価値がどれだけあるかもよくわかりません。ちなみにこの問題については、外国では国により判断が割れています。

さてこのように先例的価値が不明なクルマの110番事件ですが、上述のとおり一定の合理性があるので、これを参考にECサイトでどのように他人の商標を使ったら商標権侵害となるのかを検討してみます。

結局重要なのは「その商標が目視で確認できる」という点なので、商品タイトルや商品説明に用いると商標権侵害となる可能性が高いでしょう。商品のパッケージに商標を印刷して、その画像を掲載しても同様でしょう。アマゾンのブランド欄に記載してもやはりアウトでしょう。

一方で、例えばアマゾンのキーワード欄に他人のブランドを記載することは、少なくとも現在の商標法では違法性を問えないように思います。そのような行為はアマゾン内の検索順位に影響を与える可能性が高いですが、キーワード欄の内容はどこにも表示されず、他人には確認のしようがありません。確認できないのでそもそも裁判などで非常に争いづらいという事情もあるでしょうし、仮に争えても現行の商標法の枠組みでは商標権侵害とはなかなか言えないと思われます。このような行為により明らかに検索結果がおかしいと思われる場合は、法的手段よりもまずはアマゾンに対して個別に対応を迫っていくことになると思います。

なお上記米国アマゾンの裁判では、アマゾンで販売していない商品を検索したときに他社製品が検索結果に現れる仕様について、アマゾンの商標権侵害主体性が認められています。

また、従来からよくある手法ですが、背景色と同色の文字を用いて、説明文に他人のブランドをキーワードとして記載する行為もあります。これも結局はその部分を選択すれば目視可能ですから、商標法上問題になる可能性が高いです。

いずれの場合も、商標が目視できても商標的に使用しているのかという点も問題になるでしょう。また、「◯◯風」などとしてそのブランドそのものではないと明記すれば問題ないのではないかと考える人もいるようです(この点についてはこちらの記事を参考にしてください)。

結局、他人のブランドをキーワードにして自分のウェブサイトや商品ページに誘導しようという発想がそもそも泥坊根性なわけですから、そんなことはせずに自分のブランドを育てていく方に労力を割いていくのがよいでしょう。

アマゾンにおける模倣品販売についての講演会のご報告

年末で案件が立て込んでおり報告が遅れてしまいましたが、先日、一般社団法人電子情報技術産業協会様(JEITA様)にて、アマゾンにおける模倣品販売の現状と対策について講演をして参りました。

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日本のECサイト/モールではおびただしい数の模倣品が販売されており、特に昨今はアマゾン(Amazon.co.jp)における模倣品販売が圧倒的に大きな問題となっています。

かつては、個人でも簡単に出品できることから、ヤフオクが模倣品販売の最大拠点でした。特許庁によるネット上の模倣品対策も、平成17年に「模倣品の個人輸入及びインターネット取引に関する事例集」が公開されたあたりから本格的なものが始まったように思いますが、これは主にヤフオクが想定されていました。

ところが最近は、ヤフオクよりもアマゾンにおける模倣品販売の方がずっと大きな問題になっています。理由はいくつかあるのですが、

  1. アマゾンの出品者(母数)が多い
  2. アマゾンでは模倣品の出品が極めて容易である
  3. ヤフーの模倣品対策が比較的進んでいる

ことなどが挙げられると思います。

これは、逆にいうと、アマゾンでは模倣品対策が非常にやりにくいことを意味しています。なぜアマゾンでは模倣品対策がやりづらいかというと、

  1. アマゾンはもともと本屋であり、そのシステムを他の商品に広げた
  2. FBA(アマゾンの倉庫業)が模倣品の格好の隠し場所になっている
  3. アマゾンは米国企業である

ことなどが原因となっています。

すなわち、アマゾンのシステムはもともとネット上で本を効率的に販売するよう設計されているため、それを本以外の商品に適用すると、かなり無理があるのです。実際、あらゆるECサイト/モールの中で、アマゾンのみが特殊な出品システムを採用しています(商品カタログ方式)。そして、アマゾンの倉庫に偽物を放り込んでおけば、あとは本物とごちゃ混ぜにしてアマゾンが勝手に模倣品を販売・発送してくれるのです。

これによりアマゾンでは本物と見せかけて(紛れさせて)模倣品を販売することが極めて簡単にできてしまうのですが、さらに問題なのは、そうした模倣品に対応しようとしても、アマゾンは米国企業なのでなかなか柔軟な対応をしてくれないことにあります。模倣品へ対応しようとするとき、アマゾンジャパン(日本の会社)の法務部が窓口となってくれるのですが、彼らは米国アマゾンが定めたルールの枠内で形式的な対応をしてくれるに過ぎません(そこまでの権限しか与えられていないのでしょう)。かといって米国側に直談判しようとすると、「日本のことは日本で解決しろ」と突っぱねられてしまいます。結局、米国アマゾンとアマゾンジャパンの狭間で、どのあたりに落とし所を見つけて、アマゾンジャパンに有効的に動いてもらうかということを考えながら対応していく必要があるのです。

弊所ではアマゾンでの模倣品対応事例が複数ありますので、そうした経験に基づいたお話をさせていただきました。

ところで、これまで弊所では、クライアント様からご依頼があった場合のみ、個別にセミナーや説明会を開催してきました。そしてそのようなセミナーにより、クライアント様の事業の加速に大きく貢献できる例が多いことを肌で感じました。

そこで来年からは、こうしたセミナーを一般の企業様にも開放し、広く開催して参りたいと考えています。セミナーは原則としてオンデマンドで行います。すなわち、弊所が開催して受講生を募るのではなく、弊所弁理士(ほとんどの場合私、越場)が貴社にお伺いして、貴社専用に講演するスタイルを採用させていただきます。これにより、貴社のご事業に即した「濃い」内容を直接お話しすることができるようになります。

また、一定の条件のもと、既にスライドが用意されているセミナーについては、無料にてご受講いただけます。詳細はこちらからご確認いただけます。セミナーのみのお申込みももちろん大歓迎ですので、お気軽にお申込み・お問合せください。

ロッテリアの「黒七味」商標権侵害事案を考える

ちょっと忙しくてすっかり出遅れてしまいましたが、ロッテリアが「黒七味」の商標権を侵害したとして商品の販売を停止したというニュースについて考えてみたいと思います。

この事件は知人の弁理士が担当したそうです。最初はかなり際どい事例かと思いましたが、調べてみると両当事者とも妥当な判断をしたのかなという印象です。さすがですね。

事の発端は、ロッテリアが「京都黒七味風味」なる味付けのフライドポテトを販売したことで、これが株式会社原了郭の所有する商標権(おそらく登録第5157375号)を侵害するとして警告書が送付されたようです。

「京都」の地域に「黒七味風味」と書かれている

本件商標権の内容は、以下の画像のとおりの「黒七味」なる商標を、「白胡麻・黒胡麻・一味・山椒・けしの実・麻の実・青のりを主原料とし乾煎りした後さらに手もみで練り合わせて製造した七味唐辛子」について登録したものです。

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出願時には「香辛料」を指定していましたが、審査において「黒」は「黒い」という商品の品質を表し、「七味」は「七味唐辛子」の略称なので、『黒七味』を黒い七味唐辛子について使用するならば商3条1項3号に落ちてくるし、それ以外の香辛料に使うなら4条1項16号に落ちると指摘され、拒絶査定となったものと思われます(審査書類を見たわけではないのでただの想像です)。

そこで商品を「白胡麻・黒胡麻・一味・山椒・けしの実・麻の実・青のりを主原料とし乾煎りした後さらに手もみで練り合わせて製造した七味唐辛子」に減縮する補正を行い、『黒七味』全体で一連の商標でありただちに「黒い七味唐辛子」と結びつくものではないなどと主張して、審判まで争って登録になったものです(主張内容は想像)。

冒頭に「際どい」と書いた理由のひとつはこれで、「黒七味」は一見して識別力が弱く登録しづらい商標なので、警告書をもらった立場で考えたら、自分が何を売っているかに関わらず、

  1. そもそも商標的に使用していないのでは?(商2条1項各号)
  2. 商標権侵害とならない使用態様なのでは?(商26条)
  3. 無効審判で潰せるのでは?(商46条)

などと考えるのが普通です。

本件商標は、拒絶査定不服審判まで経て登録されていることを考えると、いまさら無効審判を請求しても潰せる確率はそれほど高くないと考えられます(もちろん請求することはできますし、無効審判で拒絶査定不服審判と異なる判断をしても制度上問題はありませんが、まぁ厳しいでしょう)。

そうすると結局『黒七味』の使用が商標権侵害をするかどうか検討することになりますが、今回は「黒七味風味」として使用していて、これがまた本件を際どくしている一因です。それが商標的に使用されているのかという疑義が生じるからです。

一般に、「◯◯風味」とは「◯◯という素材の味を想起させる」などの意味合いで用いられることが多いはずです。例えば清涼飲料水について「レモン風味」と使用した場合には、「レモンのようなイメージの味である」という程度の意味なはずで、◯◯の部分は素材を表すのみですから商標的に使用しているとはいえず、ゆえにこれが商標権侵害をすることは通常はありません。

本件では、「黒七味風味」なわけですが、仮に「黒七味」が「黒い七味唐辛子」という一般的な素材だとすると、それがどのような風味なのか、需要者にはよくわからないと思われます(七味唐辛子は一般的な素材なので「七味風味」ならばわかりますが、一般的な素材として黒い七味唐辛子はどのような味かわからないので、「黒七味風味」もどのような味かよくわかりません)。つまりこの「黒七味風味」は、「黒い七味唐辛子風味」ではなく、「原了郭の黒七味風味」と言っている、と解釈することには一定の合理性がありそうです。地域として京都がわざわざ選択されていることもこれを推認させる材料となるでしょう(原了郭は京都の老舗)。

しかしこのことをもってしても、やはりそれが商標的に使用しているといえるかは微妙です。仮にロッテリアのフライドポテトが原了郭の黒七味を使っているとして、「黒七味使用」と記載してあった場合を想定すると、これは出所の混同を生じない表記なので、商標権侵害しないと考えられます。今回ロッテリア商品は原了郭の黒七味を用いておらず、しかも「黒七味風味」という記載ですから、これは「黒七味」を原了郭以外の七味唐辛子について使用していることになるので、黒七味の出所の混同を生じるおそれがあります。このような使用態様は「黒七味」を商標的に使用しているといえそうです。

一応、ロッテリアが販売するフライドポテトは登録第5157375号の指定商品と類似するのかという点も検討してもいいかもしれませんが、これはフライドポテトのスパイスとして使用している七味唐辛子について、上述のように「黒七味」を商標的に使用しているので、指定商品と同一あるいは類似する商品について商標を使用していると考えて問題ないでしょう(別にフライドポテトと七味唐辛子が類似している必要はない)。

というように、真面目に考えてみると際どいことは特になく通常の商標権侵害として処理されて構わない事案だったと思われます。

まぁロッテリアは上述の商標的な使用かを裁判で争うこともできたでしょうし、その中で登録商標の識別力(要は無効性)を主張することもできたのでしょうが、ブランドイメージの毀損などを考慮して早めに手を引いたのかもしれませんし、そもそも争っても勝てる確率は低いと判断したのだと思います。本件について、ロッテリアは謝罪広告まで出しています。

上記謝罪広告では、ロッテリアは「弊社商品「京都黒七味風味」は、株式会社原了郭様の監修等を受けた商品ではなく、弊社内にて「黒七味」を模して創造的に製造した商品でありますので、株式会社原了郭様の販売される「黒七味」の商標を付した商品とは味・品質等一切の類似点はございません。」とまで書かされていて、そういう事情ならば本件を商標権侵害として処理することは商標法の基本的な趣旨にも合致します。

それにしても本件は京都特有の問題だと感じます。原了郭は300年の歴史を持つ老舗で、「黒七味」は長年使用してきたこともあり、今後も継続的に独占的に使用したい意思があったものと思います。また、そのような歴史がある商標だからこそ、「京都」の代名詞として選択されたという事情もあると思われます。実際、他の地域は、北海道=ほたてバター、愛知=ひつまぶし、兵庫=神戸ステーキと、明らかに識別力とは無縁の商品が選択されています。

これほどの歴史がない出願人の方は、『黒七味』のような登録の難しい商標の出願は避けるべきでしょう。出願しても登録できないリスクがありますし、登録できても少なくとも審判までは覚悟しないといけないので、登録までに数十万円のコストが掛かります。更にはこのようなギリギリで登録になった商標は、登録後に無効審判を請求されるリスクもあり、また本件のように「登録商標と知らずに使用」する侵害者への対応にもコストがかかります。実際、今回の対応までに、原了郭はかなりのコストをかけていると思います。そこまでして取得する価値のある商標か、出願前に検討することが重要です。