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ジャック・マーの発言に思う

ジャック・マー(馬雲)氏は、みなさんご存知の通り、アリババの創業者です。アリババのニューヨーク証券取引所への上場により、現在中国本土で一番金持ちだそうです。

以下の記事によると、アリババの投資家向けのカンファレンスで、彼は「問題は、今日の偽造品が本物の品物、本物のブランドよりも、より良い品質で作られ、より安価で売られていることにある」という趣旨の発言をしたそうです。

さらに、「偽造品はまったく同じ製造環境、まったく同じマテリアルで製造されているが、ノーブランドなだけ」とも述べたそうで、これは模倣される側の日本企業にとっては聞き捨てならないでしょう。

そもそも、中国で製造・販売される模倣品が、正規品よりも高品質である事例はごく例外的です。ほとんどの商品は、正規品の劣化コピーでしかありません。正規品がこだわっている(コストをかけている)部分を無視して「このくらいでいいだろう」というレベルで量産することが、正規品よりも安く販売できる理由のひとつです。

もっとも、正規品を製造する工場が、その技術とノウハウを用いて、正規品と同等の(時には正規品に改良を加えて正規品以上の)模倣品を製造するケースも、たしかに増えています。このようなケースでは、知的財産権侵害に加えて、工場はメーカーとの契約(製造契約や秘密保持契約など)にも違反しており、よりたちが悪いといえます。

「これまで、中国の工場は、世界のブランドのために製品を低価格で大量生産してきた。しかし、アリババなどの電子商取引サイトの昨今の台頭と共に、生産商品をオンラインで消費者と直接取引する工場も徐々に増えてきている。(記事より)」という指摘は、そのとおりです。タオバオやアリババの登場により、工場が商品を販売する機会が劇的に増えました。これまでは模倣品を作っても、それがコンシューマに行き渡るには複数の専門業者(卸売業者や小売店)を経なければならず、偽物を売るのも結構大変でした(もっとも中国では偽物を平然と流通させる業者がたくさんいるので日本人が思うほどの苦労はなかったはずですが)。ところがネットが発達して、工場が直接エンドユーザに商品を販売できるようになりました。工場がタオバオに直接出店して、自分で作った偽物をバンバン売っているのです。模倣品はその本来の価値よりも高く売れるわけですから、工場からすれば、模倣品を製造するということは、紙幣を刷っているようなものです。模倣品というニセモノが、タオバオなどのECサイトを通すだけで本物のお金に変わるのです。模倣品が蔓延するのは当然ともいえます。

模倣品が正規品よりも安く売れるもうひとつの(そして最大の)理由は、開発や広告にコストをかける必要がない点にあります。メーカーがひとつの商品を作り出し、売れるようにするまでにどれだけの手間と時間と費用がかかっているか、考えたことがあるでしょうか。製造業は、巨額の投資をして、それを長期的に回収するモデルです。模倣品はこうした投資を一切する必要がありません。本来メーカーが回収すべき利益を盗んでそれを自己の利益としているだけですから、それを「ビジネスの手法が変わった(マー氏の発言、記事より)」などと正当化するような発言はまったく支持できません。トップがこのような意識だからあのようなマーケットなのだと評価せざるを得ません。

さらなる問題は、こうした中国の問題に便乗して、中国市場で模倣品を仕入れ、日本で販売する日本人が山ほどいるという事実です。「リサーチ」などと称し、日本で売れている商品をリストアップし、それの模倣品を中国市場で探し出し、あるいは中国の工場に製造させ、「オリジナル化」などと称して独自のロゴを印刷した模倣品を日本に輸入してネット上で販売する、いわゆる「中国輸入」と呼ばれるビジネスモデルがあります。端的に、模倣品を輸入販売するだけの商売なのですが、インターネットの発達により、こうした雑な商売が日本で横行するようになってしまいました。

日本のECモールでは、こうして輸入された、おびただしい数の模倣品が販売されています。日本のECは、すっかり中国の模倣品に汚染されてしまっています。これは欧米先進国を含む、世界中で同じ状況にあります。中国の模倣品問題は、もはや中国内にとどまらず、全世界が直面している問題なのです。

言うまでもなく、こうした模倣品は、国にとって、メーカーにとって、害悪でしかありません。中国から模倣品を入手するのがより容易になった現在、どのような対策をしていく必要があるのか、日本を含め、全世界が考える必要あります。

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