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ECサービス提供者の知的財産権侵害への対応責任

アマゾンや楽天、Yahoo!などのECショッピングモールで自社製品の模倣品を発見した場合、どう対応したらよいでしょうか。

本筋からいえば、その模倣品を試買し、真贋を判定して、模倣品である(自社の知的財産権を侵害する)と判断したならば、相手方に警告書を送るとか、裁判所に訴状を提出するなどの手続をとるべきです。

しかし、いまの日本のECショッピングモールは偽物だらけです。ひとつを潰しても雨後の竹の子のように次々と湧いてくるので、正面からいちいち相手にすると費用倒れしてしまいます。なのでなんとかまとめて対応するか、個別に対応するにしてもコストをかけない方法がないかと考えるのは当然のことです。

模倣品対策においては、偽物は上流で止めるのが大原則です。ほとんどの偽物は中国から入ってくるので、「製造工場を潰す」「輸出業者を潰す」「中国の税関で止める」「日本の税関で止める」などの対応をしているわけですが、努力むなしくそれらの網をすり抜けて日本に入ってくる偽物が跡を絶ち絶ちません。一度日本に入ってしまうと日本中に拡散してしまい対応がかなり難しくなるわけですが、ECショッピングモールは数者による寡占状態にあるため、そこで対応することができます。すなわち、バラバラに日本に入ってきた偽物がもう一度だけ集結する、最後のチャンスがECショッピングモールなのです。流通フローでは最下流ではありますが、そこで止められるチャンスがあるのですから、これを利用しない手はありません。

では具体的にどうするのでしょうか。基本的な考え方は、ECショッピングモールに働きかけて模倣品の出品を削除してもらうことになります。いかにコストをかけずに出品削除に持ち込むか、更には各ショッピングモールの用意する制度を利用してそうした違法な業者をいかにしてそのモールから排除するかが重要です。

通常、ECショッピングモールでは、知的財産権を侵害する商品の出品情報を報告するシステムを用意しています。

これらのシステムを利用して自社の知的財産権を侵害する出品を報告すれば、プラットフォームが出品削除の手続きを行ってくれます。出品者に対して個別に警告書を送ったり訴訟を提起することに比べれば、大幅に手間やコストを抑えることができます。

一方で、こうした報告を受けたプラットフォームには、どこまで対応責任があるのでしょうか。以下の裁判例が参考になります。

この裁判例についてはいずれ個別に詳しく紹介しますが、サービスプロバイダに商標権侵害責任が問われる可能性が指摘された点で、大きな価値があるといえます。

すなわち、ECショッピングモールにおいて商標権侵害商品が出品されているときに、その商品を出品している者(店舗)が商標権侵害をすることは明らかですが、それに加えて、サービスプロバイダも商標権侵害責任を問われることがあり得ると判断されているのです。

その要件として、知財高裁は以下のように述べています。

ウェブページの運営者は,商標権侵害行為の存在を認識できたときは,出店者との契約により,コンテンツの削除,出店停止等の結果回避措置を執ることができること等の事情があり,これらを併せ考えれば,ウェブページの運営者は,商標権者等から商標法違反の指摘を受けたときは,出店者に対しその意見を聴くなどして,その侵害の有無を速やかに調査すべきであり,これを履行している限りは,商標権侵害を理由として差止めや損害賠償の責任を負うことはないが,これを怠ったときは,出店者と同様,これらの責任を負うものと解される
(下線は筆者)

つまり、アマゾンや楽天などのプラットフォームは、模倣品が販売されていると通報を受けたら、一定期間内に、その事実を調査し、出品削除などの対応をしないと、プラットフォームが商標権侵害をすることになってしまうと裁判所は言っているのです。

このような事情があり、各プラットフォームは上記の報告窓口を用意しているのですが、実際に報告をして対応を依頼した権利者の方からは、「十分な対応をしてもらえていない」という意見も聴かれます。特にアマゾンについては、他のプラットフォームよりも対応が不十分であるという印象を持っている権利者が多いようなのですが、なぜでしょうか。

理由のひとつに、上記チュッパチャップス判決の射程距離が明らかではないということが挙げられると思います。

例えば、そもそもこの判決は、商標権侵害についてしか言及していません。では他の知的財産権侵害の場合はどうなのでしょうか。そんなの同じだと思われるかもしれませんが、実は重要な問題だと思われます。商標権侵害ならば、その侵害の事実が一見してわかる場合がほとんどです。しかし、特許権の場合はそうはいきません。商品を見ただけでそれが特許権侵害をするかどうか判断するのは、多くの場合不可能です。著作権や不正競争防止法など、登録された権利に基づかないものの判断もまた困難です。このように考えると、そもそもチュッパチャップス判決の射程距離は、商標権侵害のみに限定されているとも考えられます。

また、商標権が問題となる場合であっても、本当に商標権侵害をするのか、容易には判断できないケースももちろんあります。例えば模倣品のクオリティが低くロゴのデザインが少し違うとか、商標を似せつつ敢えて多少変更してあるような場合、商標法の観点からその商標が類似するかの判断が難しいケースも少なくないでしょう。あるいは、「並行輸入」や「商標的な使用」のように、法的な解釈が難しいものもあるはずです。おそらくチュッパチャップス事件では、そのような微妙なケースまでプラットフォームに判断の責任を課してはいないと思います。

さらには、そのような微妙なケースにおいて、プラットフォームの判断が誤っていた場合、すなわち、例えば将来裁判所では「非類似」と判断されるものを誤って「類似」と判断してしまい、出品削除の措置をとってしまった場合、プラットフォームは削除された店舗に対して損害賠償する責任があるのでしょうか。プラットフォームにとっては重要な問題なはずです。

このようなことを考えると、プラットフォームとしては模倣品だからと簡単には出品削除できない事情があるのかもしれません。実際、そのような微妙な部分について判断できるのは、裁判所だけです。民間企業であるECプラットフォームが責任を持って判断することはできませんし、そもそもそのような責任はないので、必要以上のコストをかけてシステムや人員を用意する必要もありません。「プラットフォームが十分な対応をしてくれない」と感じる最も大きな理由はこのあたりにあるのかもしれません。

特にアマゾンは、運営会社が米国企業だという特殊な事情があります。日本のサイト(Amazon.co.jp)での侵害について報告を行うと、アマゾンジャパン株式会社という日本の子会社が対応してくれるのですが、あくまでも日本側の対応窓口であり、実際に法的なやり取りをする相手は米国アマゾン社です。つまり米国アマゾン社の代わりにアマゾンジャパン株式会社が対応するというスキームなため、複雑なケースでは柔軟な対応がしづらく、権利者さんは不満を感じることがあるようです。

ただ上述のようにそもそもアマゾンの対応責任範囲はそれほど広くない可能性があり、また、私が実際にアマゾンジャパン株式会社の法務部と交渉等をしている経験からは、権利者側がしっかりと情報提供すればアマゾンも十分な対応をしてくれることが多いと感じています。必要な情報を揃えて正しい要求をすれば、アマゾンでも他のプラットフォームでも、迅速に模倣品の出品を停止してくれるという印象を持っています。

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個人輸入と知的財産権侵害

いわゆる個人輸入という輸入態様があります。個人輸入では、商標権などの知的財産権侵害物品であっても輸入できる(少なくとも特許庁及び税関では知的財産権を侵害しないので輸入できると解釈している)ことになっています。それでは、この法的な根拠は何なのでしょうか。

特許・実用新案・意匠の場合
個人輸入とは

そもそも個人輸入という用語は、法律用語ではありません。法律のどの条文を読んでも、個人輸入という単語は出てきません(たぶん)。なので、法律家は、「いわゆる個人輸入」などという言い方をします。

個人輸入の定義は、おそらく業として行わない輸入ということになると思われます。これは知的財産権の効力の定義から導かれるものです。

例えば特許法第68条には、特許権の効力がこう規定されています。

特許法第68条
特許権者は、業として特許発明の実施をする権利を専有する。(後段省略)

実施には輸入行為も含まれるので、つまり、業として輸入しなければ、特許権侵害とはならないことになります。

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「業として」の輸入

ここで、業としてとは、広く事業としてという意味であり、営利性・反復性は問わないと解されています。民法系(特に消費者契約法など)の勉強をされた方はまったく逆の内容を教わったと思いますが、少なくとも特許の世界ではこうなっています。

そうすると、事業として行わない輸入は特許権を侵害しないことになり、このような輸入態様を個人輸入と呼んでいます(特許権侵害をしない輸入態様が個人輸入なのか、個人輸入が特許権侵害をしないのか、一見するとトートロジーのようですが、両者は同義です)。

そして、これは特許権、実用新案権、意匠権について同じ解釈となっています。つまり、特許権、実用新案権、意匠権の内容を実施する商品でも、事業として輸入しなければ、権利侵害とはならないのです。

上述のように営利性や反復性は必要ではないので、たった1回であっても、あるいは病院や学校などの非営利事業であっても、事業として輸入する限り個人輸入にはならない点に注意が必要です。

商標の場合
商標法における「業として」

しかし、商標法では少し事情が異なります。商標権の効力は、商標法第25条に規定されています。

商標法第25条
商標権者は、指定商品又は指定役務について登録商標の使用をする権利を専有する。

商標法では、特許法とは異なり、業として使用する権利を専有するとはなっていません。これはなぜかというと、そもそも商標の定義に業としての要件が入っているからです。

商標法第2条第1項
この法律で「商標」とは、(標章のうち、)次に掲げるものをいう。
一 業として商品を生産し、証明し、又は譲渡する者がその商品について使用をするもの

このように、商標法では、「業として商品を生産・証明・譲渡する者が使用する標章」を商標と定義しています。そして、商標は長年に渡り使用され続けることで信用が積み重ねられるという性質があるため、商標法にいう「業として」とは、一定目的のために反復継続的に行う行為をいうと解釈されています。ただし商標法でも、特許法等と同様、営利目的は要求されていません。

誰が業として標章を使用するのか?

では、輸入においては、業として(=反復継続的に)標章を使用するのは、商品を「生産する者」「証明する者」「譲渡する者」の誰なのでしょうか?逆にいうと、個人輸入では、誰が業として標章を使用しないので商標法上の商標ではない(故にそれを使用しても商標権侵害とならない)のでしょうか?

これは、「いずれにも該当しない」が正しいのだと思います。

輸入は商標法上の「使用」に該当します。しかし個人輸入の場合は、標章を使用する者(=輸入者)は、商品を生産・証明・譲渡のいずれもしません。よって個人輸入の場合には、標章は商標ではないのです。商標でないのですから、輸入行為が商標権侵害になることはない。そういう構造なのだと思われます。

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何かがおかしい・・・?

しかし上記の解釈はかなり強引で、感覚的に受け入れがたいものとなっています。

なぜならば、この解釈によれば、同じ商品に付された標章でも、それが輸入後に業として譲渡される場合は商標であるが、業として譲渡されない(orそもそも譲渡されない)場合は商標でないことになってしまいます。

例えばカバンにGUCCIの標章が付されている場合に、輸入後に業として譲渡されるならばそのGUCCIは商標であるが、業として譲渡されないならば商標でないというのは、感覚的に理解しづらいでしょう。

また、例えば業として譲渡しない(GUCCIは商標ではない)ものを、その後業として譲渡するようになった場合(GUCCIは商標である)、同じ商品に付されている標章が商標になったりならなかったりすることになり、かなり無理があるように思います(このような場合に過去に遡って輸入行為を商標権侵害とすることには実効性がなく意味がありません)。

そもそも、輸入後に譲渡されることを前提に、譲渡に先だって行われる輸入行為の侵害性が決定されるのは、法律構成としてもどこかおかしいように思われます。

さらには、この解釈では、輸入の場合と輸出の場合で矛盾が生じてしまう点も問題です。例えば海外ECサイトでGUCCIのカバンを購入したとします。海外からEMSで個人輸入しましたが、届いてからそれが偽物であることに気付きました。

この場合、そのカバンは業として譲渡されないので、カバンに付されているGUCCIは商標ではありません。よって当然商標権侵害もないので、税関で止められることもありません。

しかし、偽物を外国の売主に返送しようとすると、税関では偽物の輸出としてそれを止める運用をしています。つまり輸出段階ではGUCCIは商標だと税関は捉えているわけです。輸入と輸出の間にどのような差があるのか、よくわかりません。

※ご参考(税関Webサイト
コピー商品の返送
Q.コピー商品を海外へ返送することは可能でしょうか。
A.権利者が同意のうえ、経済産業大臣の承認を得れば返送することが可能な場合もあります。
法改正への期待

このようにあまり納得できない解釈ですが、少なくとも特許庁と税関では、これを採用していると考えられます。

実は以前この点を税関に問い合わせたことがあるのですが、税関では以下の特許庁の見解を参考にしているとの回答でした。

本事例集の7ページには、以下の説明があります。

商品又は商品の包装に商標が付されたものを輸入する行為は商標の使用(商標法第2条第3項第2号)に該当します。商標とは、業として商品を生産し、証明し、若しくは譲渡する者等によって使用される標章をいい、「業として」とは一般に「反復継続的意思をもってする経済行為として」といった意味と解されているため、反復継続的意思をもってする経済行為として商品の譲渡等を行う者が偽ブランド品を輸入して商標を使用する行為は、商標権侵害となります

「…商品の譲渡等を行う者が…輸入して商標を使用する行為」とあるので、やはり「業として」の主体が輸入者であることを示していると考えられます。

このような無理のある解釈に頼らず、法改正をして、商標法でも商標権の効力の規定に業要件を入ようと考えるのが自然だと思います。産構審でそのような法改正の議論がされていました。

これの11ページ以降に、法改正する場合の条文案があります。

商標法第2条第1項(案)
この法律で「商標」とは、(標章であつて、)商品又は役務を識別する目的で用いられるものをいう。

として商標の定義から業要件を除いた上で、商標権の効力を以下のように規定します。

商標法第25条(案)
商標権者は、業として指定商品又は指定役務について登録商標の使用をする権利を専有する。

私もこの方がすっきりすると思います。そもそもカバンにGUCCIの標章が付されていれば、誰が輸入しようがそれは商標でしょう。その上で、それを業として輸入する場合に限り商標権侵害となるとする方がよっぽどストレートです。諸外国でもこの規定ぶりのようですし、この改正の議論が進むことを期待したいところです。

裁判所の判断は不明

なお、上記はあくまでも特許庁や税関の解釈であって、裁判所がどう判断するかはわかりません。この点に関する裁判例等はないようなので、今後裁判所が独自の判断をする可能性は残されています。

少なくとも文言を素直に解釈する限り、現行の商標法では個人輸入は商標権侵害となると解釈するのが素直な読み方です*。いまは個人輸入を商標権侵害とすべきでないという価値観がまずあって、それを満たすために無理のある法解釈をしていると捉えるのが正しそうです。

* 商2条1項1号の「業として」は「商品を生産する者」に係ると解釈し、海外メーカーが付した標章はすべて商標であると考えます。そうすれば、それを輸入(商2条3項2号)する行為は、業としてかどうかにかかわらず、商標権侵害となります(商25条)
著作権の場合

著作権法では、産業財産権法と異なり、そもそも業として使用・利用という分け方をしていません。個人輸入については、以下の規定があるのみです。

著作権法第113条第1項
次に掲げる行為は、当該(中略)著作権(中略)を侵害する行為とみなす。
一  国内において頒布する目的をもつて、輸入の時において国内で作成したとしたならば(中略)著作権(中略)の侵害となるべき行為によつて作成された物を輸入する行為

このように「国内において頒布する目的」がある場合は、模倣品を輸入すると著作権侵害になります。

まとめ

知的財産法では、「家庭的・個人的実施にまで特許権の効力を及ぼすのは社会の実状から考えて行きすぎである(青本・特許法)」という価値観に立って、商用目的の輸入に限り違法とし、まったくの個人使用目的の輸入については違法性を問わないとしています。商標法の解釈は多少複雑ですが、いずれも条文から導かれるものです。

ところでこうした規定を悪用して、個人輸入であると偽って偽物を輸入し、ネットショップ等で販売する人が増えています。言うまでもなくこうした行為は違法です。商標権侵害として差し止めや損害賠償請求の対象となるのみでなく、通関時に税関からの指摘を受け、個人的使用の確認書などを提出している場合は、故意に知的財産権を侵害したとして、商標法などの知的財産法または関税法に基いていきなり刑事罰が適用される可能性もあります。

また商標については、たとえ1個でも反復継続的に販売する意思がある場合は個人輸入にならないため、輸入・販売すると商標権侵害となるので、注意してください。

税関に行ってきました

先日、東京税関に行ってきました。

輸入差止申立制度を利用するにあたり、税関職員の方と事前相談をするためです。

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特許権や商標権などの知的財産権が侵害されている物品(いわゆる偽物・模倣品)を輸入することは、密輸にあたります。税関では密輸を阻止すべく日々努力していますが、すべての貨物を開封して検査することは到底不可能ですし、仮に全品検査するにしても、毎年何十万件も発生しては消えていく様々な知的財産権の内容をすべて把握して知的財産権を侵害するかどうか判断することも当然不可能です。

そこで予め権利内容と侵害品や侵害者の情報を税関に提供し、効率よく差し止めてもらうことができます。この制度を、輸入差止申立制度といいます。

輸入差止申立制度を利用するには、税関に対して輸入差止申立書を提出します。そして税関では、申立書の作成段階で、申告内容について事前に相談に乗ってくれます。権利内容本物・偽物の識別ポイント具体的な侵害状況想定される輸入ルートなどを、税関の知的財産調査官に直接説明し、差し止めしやすい申告書の作成方法について対面で相談することができます。

今回私が伺った際には本件のご担当調査官及び調査部長を含め、計5人もの調査官が参席してくださいました。いかに税関が知的財産権侵害物品の差し止めに力を入れているかが伺えます。

逆にいうと、どのような内容を税関に提供するかによって、水際差止の効率が大きく変わってきます。実際、空輸であれコンテナ輸送であれ、貨物の開封検査は例外中の例外です。日本の輸入許可は輸入申告書の記載に基いて行われ、貨物の検査を経ることは通常はありません。例外的に検査必要と認められた貨物のみが検査されるのですが、どの貨物を検査するかはすべてコンピュータが決めています。

このコンピュータの内容はほとんどが非公開なのですが、かなり高性能なものだと言われています。様々な情報から複合的に判断し、貨物ごとに「検査なし」「書類審査」「開封検査」のいずれかに振り分けるそうです。例えば輸入者が過去に密輸の前科がある場合や、コンテナですと混載種類が多い場合、そして当然輸入差止申立書に記載されている輸入者は、検査の確率が高くなります。

税関への輸入差止申立をするということは、いかにしてこうした検査に引っかからせるかという作業に他なりません。輸入差止申立書に権利内容のみを記載して提出しても、ほとんど実効性はありません。特に空輸で複数の輸入者がパラパラ入れてくる場合は、どれだけ侵害情報を提供できるかで、輸入差止の実効性に大きく影響します。

そのときに、輸入者の情報を提供するのはもちろん有効ですが、それに加えて輸出者の情報を提供したほうが有効的な場合が多いです。偽物の流通は下流に行くほど枝分かれしてしまい、対応に手間とコストが掛かるようになるので、「偽物は上流で叩く」のが基本です。そうすると、例えば偽物がアマゾンで販売されているときに、各出品者に対して手続きするよりもプラットフォームであるアマゾンに対して手続きする方が効率がいい場合が多いですし、アマゾンに対してよりも輸入される段階で止めたほうが効率がいいです。そして更に輸出者レベルでまとめて止めたほうが効率がいいですし、その上流では輸出者の仕入先である小売店や卸売店、更には工場で型を潰してしまうのが最も効率がいいということになります。

しかし一般には上流に行くほど手間とコストが掛かるので、それぞれの段階をうまく組み合わせて全体として効率よく偽物の輸入・販売を差し止める必要があります。こうした対策は、模倣品対策の全体像を十分に把握している専門家のアドバイスに従ったほうが、トータルで安く済みます。

輸出者の情報提供をする意義
近年増えているインターネットでの偽物販売に関しては、中国内で様々な流通経路・流通段階にある商品を、代行業者が購入し、商品を取りまとめてから各輸入者宛に輸出する態様が一般的です。つまり偽物は一度代行業者に集まるので、代行業者レベルで押さえられれば効率よく偽物対策ができます。
ネット販売における偽物流通経路の模式図(クリックで拡大)

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しかし、日本の特許法や商標法などでは、中国における輸出者の違法性は問えません。日本の法律は日本国内のみで有効なので、中国での違法行為は日本では違法性を問えないのです。
ご存知のように中国での輸出通関はザルですから(※中国では事前に税関に登録した権利でないと偽物であっても輸出段階で止まりません)、輸出業者は堂々と偽物を日本に輸出して商売をしています。
このように中国での輸出代行業者の違法行為は止められないため、税関に輸出者の情報を提供できるということは、こうした輸出業者の貨物を水際で止められ得る数少ない、貴重な機会を得ることを意味します。特に小口輸入者の商品を取りまとめて輸出している代行業者の存在が日本での模倣品蔓延の元凶になっているため、こうした業者の違法行為に対応できる可能性がある点でも、税関での輸入差止は大きな意義があるといえます。
端的にいうと、輸出代行業者は、「偽物は下流に行くほど枝分かれする」という原則の数少ない例外なので、ここを叩くのが手間やコストの観点から効率がいいのです。おそらく最近のインターネット販売における偽物を最も効率よく減らす方法は、こうした輸出代行業者の貨物を税関で止めることだと思われます。もちろん輸入者ごとに止めるのが王道ではありますが、そのひとつ上の段階である輸出代行業者単位で貨物を止めるという視点は、今後の偽物対策の鍵になっていくでしょう。

輸出入差止申立の有効期間が延長されました

偽物(知的財産侵害物品)が輸入されようとするときに、税関にて職権でその貨物の輸入を差し止めてもらうことができます。

ただし、税関は無数の知的財産権のすべての権利内容や存続期間を把握しておくことは不可能ですし、さらには膨大な量の貨物のどの商品がどの知的財産権を侵害するか、すべてを判断することももちろんできません。

そこで税関では、各知的財産権の権利者から、権利内容や、密輸者及び違法物品の情報を提供してもらい、適切に偽物を差し止めることとしています。この情報提供制度を輸入差止申立制度といいます。

この輸入差止申立は、これまで有効期間が2年間だったので、2年ごとに更新する必要がありました。しかし、今年関税法(正確には関税法施行令)が改正され、平成27年4月1日より、有効期間が4年間に延長されました。これにより、申立人(=権利者)の更新の負担が減ることとなり、よりこの制度の活用がしやすくなったといえます。

なお、この有効期間は一律に4年間なのではなく、申請書に記載された期間を限度に有効となります(もちろんほとんどの人は最長の4年間を記載するのですが)。今回の改正はこの申請書に記載できる期間が2年間から4年間に延長されるという内容ですので、過去の申請書で2年間と記載してあるものが当然に4年間に延長されるというものではありません。過去に2年間以下の期間を記載してある方は、次回更新時に4年間へと記載を変更することができます。

最近は偽物のほとんどがEMSなどの空輸で小口で送られてきており、ひとたび国内の流通に乗ってしまうと、個別の商品への対応は非常に困難です。このような小規模の密輸には入口=税関で対応するのが圧倒的に効果的です。偽物への対応には是非輸入差止申立制度を活用していただきたいと思います。

※なお、輸出時に税関で差止める輸出差止申し立てについても、上記と同じ改正がなされています。