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香港・広州の展示会に行く際の知的財産権の観点からの注意点

4月に入りました。香港&広州の展示会シーズンですね。

中国・広州では、アジア最大の見本市である広州交易会が、1〜3期の3回、通算15日間にわたって開催されます。

また、広州交易会の各期の間を縫うようにして、香港でも大規模な展示会が開催されます(Electronics Fair / Houseware Fair / Gifts & Premium Fair など)。

広州と香港は電車で2時間程度の距離なので、世界中から集ったバイヤーはこの期間は数日おきに両地を移動し、最大3週間も展示会を歩き続けます。これを毎年春と秋の2回繰り返すわけです。

日本からも、商品を発掘するために多くのバイヤーが参加します。毎年この時期になると、「中国の展示会なのでやはり知的財産の問題が気になる、参加するにあたって気をつけるべき点は何か」という問い合わせが増えます。私は展示会が好きで、これまで広州・香港合せて数十回の展示会に参加し、1000以上のブースと話をしたことがあります。大げさではありません。仮に1日20ブースと話をするとして、50日間あれば1000ブースです。50日以上は優に参加していますので、もしかしたら2000ブースくらいの話を聞いたかもしれません。こういう現場を知っている弁理士は少ないと思うので、これらの経験を交えて、上記注意点をまとめてみたいと思います。

中国の展示会で見つけられる商品は知的財産の観点から大丈夫か、という危機感は非常に的を射ています。展示会・見本市というと、各企業が新製品を発表する場というイメージが強いですが、広州交易会はそういう趣旨の展示会ではありません。広州交易会は、ほとんどの場合工場が、というより中国では大企業以外「メーカー=工場」という認識でいいので、「メーカーが」と言い換えてもいいのですが、誰でも作れる商品をより速く高品質で作れることをアピールするための場です。

中国のメーカーは、基本的にどこも同じような商品を作ります。自社で商品を開発するメーカーは、大企業以外ほとんどありません。中国メーカーの基本的なビジネスモデルは、日本や欧米の企業が開発し、販売して売れた商品を真似して、少しだけ手を加えてオリジナル商品として売り出す手法です。そして次は中国内でそれを真似するメーカーが現れて・・・と模倣が連鎖的に広がっていきます。商標さえ独自のものに変えれば模倣品ではなくなり、オリジナル商品になるというのが中国メーカーの根本的な価値観です。

そのため、広州交易会でも、香港の展示会でも、同じような商品がひたすら並んでいます。どのブースでも「これはうちの新製品」「自社のデザイナーが作った」「特許を取っている」などと言いますが、信じてはいけません。「新製品」というのは、新しく作り始めたという意味で、新しく開発したという意味ではありません。「自社デザイン」というのは、既存の商品のデザインを少し改変したという意味で、ゼロからデザインしたという意味ではありません。「特許がある」というのは、多くの場合「商品のデザインが著作権で保護されている」という適当なものか、せいぜい実用新案を取っているという意味に過ぎず、特許が取れるような新技術を開発したという意味ではありません(中国で実用新案権を取るのは簡単ですし、著作権に関してはそもそも工業デザインを保護しません)。

こうした知識を事前に持っておかないと、怪しい商品を掴まされてしまいます。売れずに儲からないくらいならまだいいですが、他人の知的財産権を侵害しているとして在庫破棄などの手続きになったり、損害賠償の責任を負ったりすると、莫大な損害が発生します。前述のように、広州交易会も、香港の展示会も、並んでいるのはほとんどが日本や欧米企業の模倣品です。多少デザイン変更をしているだけでオリジナルを謳っている商品ばかりです。

こうした商品は、中国内では知的財産の観点から問題がない場合もあります。中国では権利が発生していないとか、法制度の差異により中国ではそもそも保護対象でない場合などがあるからです。しかし、そうした商品が日本に入ってくるときに、日本で知的財産権が問題になることは当然あります。展示会に出展している中国メーカーは、日本で知的財産権を侵害するかどうかについて、一切責任はありません。展示会はあくまでも中国における展示行為なので、中国の知的財産法のみが問題になります。日本での法的な問題については、輸入者が100%責任を負うことになります。

例えば中国では、意匠登録がない場合、他人の商品の形態を模倣しても法的な問題は生じないので、堂々と売られたり展示されたりしています。しかし日本では、そのような商品は不正競争防止法の規定により輸入や販売が禁止される場合があります。日本で人気の商品を高品質で模倣している商品に飛びつく人が多いですが、日本には輸入できないことが多いので、注意が必要です。他にももちろん、日本では特許権や意匠権が発生しているが、中国では権利を取得していないものなどもあります。そのような商品は、展示会で見かけても、日本には輸入できません。

どうにも、そうした商品でもロゴを差し替えれば模倣品ではなくなるという甘い考えで輸入をする人が跡を絶ちませんが、そんなことをしても商標権侵害をしなくなるだけで、模倣品であることに変わりはありません。日本でモノを売るということは、売ってよいものかどうかを事前に確認することと常にセットです。中国メーカーの話を鵜呑みにしても責任は常に輸入者が負うことになります。怪しいコンサルタントに乗せられて「OEM」などと称して模倣品をわざわざ作って日本に輸入する人が少しでも減ってほしいと願ってやみません。

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OEM・ODMと知的財産

最近は中国の工場に小ロットで製造を依頼できるようになったため、個人レベルの方でも工場と直接取引きをしてオリジナル商品を製造する例がかなり増えました。

それは良いことなのですが、そのような商品を製造し、日本に輸入して、いざ販売するという段階で「この商品を販売しても法的な問題がないか教えてください(しかも無料で)」という問い合わせが結構あります。このようなお問い合せをfacebookなどの個人メッセージでいただいても対応できないので閉口しているのですが、それ以前に商売の進め方として問題があります。

多くの方は「これはOEM生産なので大丈夫だと思いますが、念の為専門家の意見を聴かせてください」などと仰るのですが、OEMであることと他人の知的財産権侵害をするかどうかは、基本的には関係ありません。

まずは用語の定義を明らかにすべきですが、OEM(Original Equipment Manufacturing)とは、自社で開発した商品を製造するときに、製造能力がないとか足りないなどの事情により、製造部分だけを他社に委託する製造方法をいいます。

他社工場で製造するものの、商品開発自体は独自に行うため、製造するのは当然オリジナル商品となりますし、商品には自社のブランド(ロゴなど)を入れることになります。製造にあたっては設計図や技術情報を製造業者に提供しますし、技術指導をしたり人員を供与することもあります。

また、ODM(Original Design Manufacturing)という製造方法もあります。これは製造を受託する工場側が商品のデザインまでを開発するケースで、そのデザインに自社のブランド(ロゴなど)を入れた商品を工場に製造させます。

私に問い合わせのあるケースの多くは、アリババで工場を探してそこに製造委託し、商品に自社の商標を印刷等しています。アリババでは通常、工場側が製造できる商品を写真付きで公開しているので、発注者は数量を指定してその商品の製造を委託します。その商品に自社のロゴなどを入れるか、せいぜい多少のデザイン変更をする程度の改変をするのみで、基本的には工場側が提示した商品をそのまま製造します。このような製造方法がOEMなのかODMなのかは難しいところですが、発注者側が商品開発にほとんど寄与していないことを考えると、ODMに分類するのがよいと思われます。

さて、こうして中国の工場を利用して自社ブランドの商品を簡単にODMできる時代になったわけですが、そのような方法で製造した商品も、単に中国商品を転売する場合と比べて、知的財産権侵害をするリスクはほとんど変わりません。これは上記の説明でおわかりいただけると思うのですが、独自に発注し製造させているとはいえ、その骨格は中国の工場が開発した商品にほとんど手を加えずそれを製造、輸入し、日本で販売するからです。中国で仕入れられる商品のほとんどが偽物であるという話を以前しましたが、アリババに出ている商品も中国工場がどこかの商品を模倣したものですから、それを自社のブランドの商品として製造させる方法も、同様にほとんどが偽物を製造していることになります。

このような偽物の製造方法が蔓延している原因には、「オリジナルを少し改変すれば偽物ではなくなる」という誤った認識があるものと思われます。知的財産の世界では、他人の権利内容を少し改変すれば権利侵害とはならない、とはなっていません。例えば意匠権や商標権は、登録された意匠や商標と類似する意匠や商標まで権利が及ぶので、多少の改変をしても権利範囲に入ったままのケースが多くあります。また、権利範囲から外れるよう大きな改変をした場合は、別の権利の権利範囲に入ってしまう可能性があります。法的な構成はともかく、特許権や実用新案権、著作権、あるいは不正競争防止法でも事情はほぼ同じです。結局、少し改変したしたかどうかではなく、自分が製造・輸入・販売する商品が他人の知的財産権を侵害するかどうかを確認することが重要なのです。

実際に、従来のOEMまたはODMでは、製造に入る前にこのような調査をすることが常識です。例えばアップルはほぼ100パーセントの商品をOEMしていることで有名ですが、開発段階で世界中の知的財産権の調査をしているはずです。また、多くの日本企業も中国の工場と提携してOEM生産をしていますが、やはり開発段階、少なくとも製造前にはこうした調査をすることが常識です。弊社にご依頼いただく調査も、当然ほぼすべてがこのような段階で行うものです。そのような前提のもとに日本で流通する中国商品の品質や合法性が保たれているのであって、単にアリババで発見した商品をOEM/ODMした商品について同列に語ろうとすることはできません。

その意味で、販売前に違法性の調査を依頼してくる人は一見正しいのですが、いかんせん「オリジナルを少し改変すれば偽物ではなくなる」という考えのもとに既に商品を製造し、日本に輸入までしてしまっているので、もはや権利侵害を議論すべき段階をかなり過ぎてしまっていることになります。本来ならば製造に入る前、商品の開発段階でそのような検討すべきでしたが、自社で開発をしていないので検討することができなかったのでしょう。そもそも販売直前の段階で調査を依頼し、販売NGの調査結果が出た場合はどうするつもりなのでしょうか。「多少改変しているのだから法律上問題ない」という前提がそもそも誤っているので、せめて発注する前にご相談いただきたいものです(それでも無料でアドバイスできる範囲は限られてしまいますが)。

なお、アリババなどのネットを用いず、中国の工場に直接サンプル(他社商品)を持ち込み、それの類似商品を製造するよう交渉するやり方は昔からありますが、これが単に偽物を製造しているということはいうまでもありません。特に最近はそうして製造した偽物を日本のネットで誰でも簡単に販売できるため、日本人による偽物のOEM/ODM生産はますます増加しています。ネット上で自社商品の偽物が販売されていることを発見したら、すぐに専門家に相談されることをお勧めいたします。

東京五輪エンブレム問題について考える

すっかり乗り遅れてしまいましたが、先日発表された東京オリンピックのエンブレムが盗作だと騒がれている件について考えてみたいと思います。

いくつかの先行デザインとの類似性が問題とされているようですが、最も問題になっているのは、ベルギー人デザイナーのオリビエ・ドビさんによる劇場のロゴのようです。

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これとの関係について、法的な問題があるかをみていきます。

商標権
どの商標権?

商標権を侵害するかどうかの判断は、具体的に商標登録されている商標と比較する必要があります。当然指定商品(役務)との関係も考えないといけません。

今回は、ドビさん側が商標登録をしていると主張していると一部報道があるようですが、具体的にどの国でどの商標がどの指定商品(役務)について登録されているかの情報は見当たりません。弁理士の立場からは、このような状況で商標権侵害の議論を進めることは滑稽でしかありません。比較する対象がないのですから、侵害性など議論できるわけがありません。

各種報道ではドビさんのロゴと本件五輪ロゴを比較していますが、ナンセンスです。特許事務所にも、このように相手商品を持ってきて「これの意匠権を侵害しませんか?」といった相談が意外に多くあるのですが、意匠権や商標権は登録されている内容が権利範囲なので、権利者が販売している商品やロゴなどは(権利範囲の解釈に影響を与えることはあっても)侵害性の判断とは無関係です。まぁもしそのロゴがそのまま登録されていたらという前提で比較しているのだとは思いますが、その場合でも指定商品(役務)がわからないのですから、やはり侵害性の議論はできません。

茶飲み話ですが、ドビさんのロゴがそのまま商標登録されていて、指定商品(役務)も重複する場合、2つのロゴは類似するのでしょうか。

たしかにパッと見た印象は似ている気もします。中央に縦長の長方形が位置し、左上と右下に直角二等辺三角形様(ただし長編が弧状)の図形が配置されている点、そしてその構造により長方形を囲むように円が存在するかのような印象を与える点などが共通します。しかし、ドビさんの商標の外周は円形であり、そのため上記構造と合わせて二つの同心円を有する印象を与えるのに対して、東京五輪ロゴは外周が長方形(ほぼ正方形)である点で異なります。また、東京五輪ロゴには、上記長方形の右肩に円が配置されている点に大きな特徴があります。さらには、ドビさんの商標が白黒二色で構成されるのに対し、東京五輪ロゴは背景色を含めて五色が用いられているため、両商標が需要者に与える印象は大きく異なるといえます。総合的にみて、東京五輪ロゴはドビさんのロゴには類似しないと判断するのがよさそうです。

商標権侵害となるかどうかは、その商標を手がかりにふたつの商品やサービスを区別する場合に、両者を取り違えてしまうかどうかで判断されます。例えばドビさんのロゴが、オリンピックでない他の国際的なスポーツ大会のロゴとして用いられている場合に、東京五輪のロゴを見た人がその国際大会が開かれるのだと勘違いしてしまうかどうかがひとつの基準だと考えるとわかりやすいでしょう。

ただこれも結局は日本での判断基準に過ぎません。商標権の効力範囲の規定や解釈は国ごとに異なるわけですから、結局はどの国のどの商標権かを特定しないことにはまともに侵害の議論などできません。

商標調査をしたらしいですが・・・

IOCは事前に商標の調査をしたと言っているようですが、200カ国近い参加国すべてで調査をしたというならたいしたものです。莫大な調査費用がかかったことでしょう。

さらに、もし本当に調査をしていたとしても、今後他人の商標登録が発生したらその後は使用できなくなるわけですから、本来ならば自ら商標登録をしておくべきです。それも参加国のほぼすべてで登録しておく必要があるでしょう。

しかし過去の例では、ロゴ(エンブレム)はほとんど商標登録されていないようです(国際商標登録を軽く調べました)。一度発表してしまえば一瞬で世界中で周知になるので他人に登録されるリスクは少ないという判断かもしれません。

著作権

どうもここにきて、ドビさんは商標権よりも著作権を主張し始めたようです。

著作権の観点からはどうなのでしょうか?

知らなければ問題ない

東京五輪ロゴのデザイナーである佐野研二郎さんは、問題となるドビさんのロゴを知らなかったと言っています。

著作権侵害となるには、佐野さんがドビさんのロゴを知った上でそれを模倣することが必要です。もし佐野さんがドビさんのロゴを本当に知らなかったのであれば、ロゴの創作性や類似性を検討するまでもなく、著作権を侵害しないことになります。

ベルヌ条約によって、ある加盟国で著作権が発生したものは、同時にベルヌ条約の全加盟国で発生することになります(ただし創作性などは各国の基準で判断されます)。いまやベルヌ条約には160カ国程度が参加しています。日本もベルギーもベルヌ条約加盟国なので、ドビさんのロゴはオリンピック参加国のほぼすべての国で著作権が発生していることになります(著作物性の議論は省略します)。

東京五輪ロゴはいまのところ日本で発表されただけですから、仮にドビさんが問題にするならば、日本で著作権侵害を根拠に民事訴訟を提起するしかありません。しかし佐野さんが知っていたかどうか(依拠性)の証明はドビさん側がしないといけないのですが、これはかなり難しいと思われます。現実にドビさんが何か法的な利益を受ける可能性は少ないといえるでしょう。

そもそも翻案に該当しない?

また仮に本件の著作権(翻案権)侵害性を検討したとしても、両ロゴともに基本的な図形のみで構成されることと、両ロゴの色構成が大きく異なることを考えると、それらの構成要素の一部が共通するにすぎず、佐野さんのロゴからドビさんのロゴの表現上の本質的特徴を直接感得できるとまではいえないように思います(江差追分事件の基準)。

論点がグチャグチャ

連日の報道を見ていると、問題の所在はどこなのか、わけのわからないことになっています。権利を特定しないまま商標権侵害の議論をしたり、著作権侵害の議論をしているのに商標調査の主張をしたり、上記記事では「発表前に著作権登録をすべてチェックした。ベルギーの劇場のロゴは保護されていない」などと意味不明のことが書いてあります(ベルヌ条約未加盟で著作権が登録制の国(あるのか知りません)についての言及でしょうか?)。一度論点を整理しないと無駄な批判が延々と繰り返されるだけになると思います。

まとめ

「ロゴが似ている印象を与える」ことと、そのロゴ(の使用等)が知的財産権を侵害することは別問題です。上述のように、おそらく佐野さんのロゴは知的財産の観点からは問題ないと思われます。

仮に議論を続けるのであれば、少なくとも商標については権利が特定されるまでは無視で構わないでしょう。

著作権については、依拠性を含めて、翻案権の侵害にあたるかを専門的な観点から議論することは可能だと思います。そうした生産的な議論が進むことを期待したいところです。

追記
商標登録との関係

その後こんなニュースを見つけました。

この中で森元首相が「東京五輪ロゴは商標登録しているので問題ない」旨の発言をしていますが、これは間違いです。

そもそも東京五輪ロゴをどの国で商標登録(少なくとも出願)しているかわかりませんが、仮に日本で商標登録されていたとしても、その事実はドビさんの著作権を侵害するかどうかとは無関係です。日本の商標法では、他人の著作権を侵害する商標でも登録できます。その後著作権と抵触する部分の権利範囲を制限するというバランスの取り方をしています。

なので、仮に日本で商標登録されているとしても、ドビさんの著作権を侵害する可能性は残ります。

依拠性について

また読み返して、依拠性についてざっくりと書きすぎた印象があります。佐野さんが「知らない」と言って、ドビさんが知っていたことの証明をできないと著作権侵害とならないというのは、簡単に説明しすぎたかもしれません。訴訟実務では、著作物が類似する場合は、その事実をもって依拠性ありと判断されるケースもあります。その上で、創作時にどのような範囲の調査をしたか(どのような資料を参照したか)の立証責任が被告に転嫁されることが多いようです。となると結局、依拠していないことの立証は佐野さんがしなければならず、これに失敗したら著作権侵害が成立する可能性も出てきます(あくまでもロゴが類似する前提です)。

今回はどうやら、図形が似ているかどうかの議論だけでなく、用いられているフォントが同じだという事実もあるようです。もしかしたら、この図形とフォントの組み合わせはデザインの専門家なら普通に思いつくものであるかもしれませんし、そうでないかもしれません。このあたりはデザインの素人の私には判断できない部分ですが、だからこそ、訴訟では依拠性の判断がキーになる可能性もあります。

不正競争防止法

不競法はどうなんですか?というお問い合わせがあったので追記します。

上記のニュースで、ベルギー人と思われる方がドビさんのロゴを「誰も知らない」と言っています。これだけでは判断できませんが、少なくとも日本ではドビさんのロゴは周知でも著名でもないと思われるので、不正競争防止法が問題になることはないでしょう。

そもそもドビさんのロゴが劇場における何らかの役務を表示するか(役務表示に該当するか)、怪しいです。単に劇場のシンボルであったり、広告用のイメージロゴにすぎない場合は、役務表示にはならない可能性が高いです。また、仮に役務表示であるとしても、劇場とオリンピックの役務が類似することがあるのかの検討は依然必要でしょう。

ちなみにベルギーの不正競争防止法については、それがあるかどうかすらわかりません・・・。

知財調査の重要性 – 商品開発と知的財産 –

任天堂の岩田聡社長が他界されました。謹んでご冥福をお祈りします。

今日は同じ任天堂の横井軍平さんのインタビュー記事をご紹介します。

任天堂といえば、言わずと知れた日本を代表するゲーム機器及びゲームソフトのメーカーです。ファミコン、ゲームボーイ、Wiiなど大ヒットとなったゲーム機は数知れません。

上記記事中、横井さんはおもしろいことを話されています。

開発をするときに、他社のもっている知的財産権を侵さずにつくるって、ほんとうはものすごくむずかしいわけです。日本の電機メーカーなんかはお互いにそれがわかっているから、クロスライセンス契約なんかを結ぶ。

それ以前というのは、けっこうイケイケで、他者の特許や実用新案などを考えずにものをつくっていたような時代もあったわけです。企業の法務部にいた人がいってましたけど、昔の法務部というのは、開発部がむちゃくちゃをやるので、それの尻拭いをする、そのために外と戦うのが法務部みたいな部分があったと。

それがあるときから、知的財産権がうるさくなって、それを侵さないように監視する社内警察のような部署になってしまったと。180度やっていることの方向性が違ってしまったといっていました。

新しい商品を開発した、さあ販売するぞという段階で、実は他社の知的財産権(特許権や実用新案権、意匠権など)を侵害していると気付くケースは少なくありません。そうなるとそのまま商品は販売できませんから、仕様変更するか、ライセンスをもらうか、無効審判などで対象となる権利を潰すか・・・など面倒な手続きを強いられます。当然商品の販売時期が遅れ、機械損失が生じます。

販売前に気付けたらまだましで、販売後に権利者から指摘されて気付いた場合などは、訴訟対応など高額な費用が発生する可能性があります。

上記横井さんのお話は、天下の任天堂での経験談です。常に時代の最先端をいく商品を開発し続ける任天堂でさえ、新しい商品を作ると他人の知的財産権を侵害していることが多いと言っているのです。

これが他人の商品の模倣品だった場合はどうでしょうか。例えば、中国で製造され、流通する商品。

私はこれまでに、中国や香港で開催される展示会に数十回参加しました。もちろん住んでいる浙江省・義烏では、福田市場に数えきれないほど行きました。無数の中国商品を目にしてきましたが、中国メーカーが独自で開発した商品は、ほとんど見たことがありません。ゼロと言ってもいいかもしれません

中国で出会う商品は、ほぼ100%、模倣品です。日本や欧米など先進国のメーカーが開発した商品を真似た商品です。それをまるまるコピーするか、多少手を加えて変形させた商品。それしかないと思っていただいてOKです。

少し話が逸れますが、なぜこれほどまで模倣品が多いのかというと、そこには中国の商売の特徴があります。日本では「働く」というと、どこかの企業に就職することを想定するのが普通です。多くの場合は大企業に雇用されることを第一に考えますし、それ以降でもどこかの中小企業に雇用されるケースがほとんどです。

一方で中国では、人口に対して大企業がそれほど多くないこともあり、企業に就職することはいくつかある選択肢のひとつに過ぎません。企業に就職せずに、自分で事業を起こすことが日本よりもよっぽど盛んです。こうした中国の特徴は、13億総個人事業主(13億総老板)などと表現されることもあります。

つまり多くの商品が、家族経営のミニ工場で作られるか、そうした工場で作られた部品を中規模の工場で組み立てているだけなので、そもそも商品開発などしません。せいぜい売れている商品を買ってきて分解して似た商品を作ろうとするだけなのです。

さて、こういうわけで模倣品しかない中国市場ですが、もちろんすべての模倣品が他人の知的財産権を侵害するわけではありません。例えば既に権利が切れている技術・デザインや、そもそも権利が発生していないものもあります。あるいは、日本では特許権などを取得しているが、中国では権利がないため、中国の工場で製造・販売することは問題がないこともあります。

日本である商品を製造する人、あるいは外国で製造された商品を日本に輸入する人は、その商品が日本で、他人の知的財産権を侵害するかしないか、十分に調べる義務があります。特許法、実用新案法、意匠法、商標法、すべてにそう書いてあります。他人の権利を知らずに侵害した場合に、「そんな権利が存在するなんて知らなかった」という言い訳は通用しません。日本で商売する以上、それを事前に調べる義務があるのです。それがいまの日本という国の価値観です。

このような義務が課せられているにもかかわらず、中国製品を輸入する方の多くは、そうした調査を一切していません。つまり権利侵害をするかどうか、要は違法かどうかがわからない商品を輸入し、日本で販売しているのです。最先端の商品を開発する企業でさえ多くの商品が権利侵害をするのに、模倣品しかない中国商品を輸入する人が権利侵害を一切調査していないのです。これは非常に恐ろしいことです。

インターネットが発達し、仕入れも販売も、誰もが自宅にいながら手軽にできる時代になりました。しかし、いくらそうした部分が簡略化されたとしても、知的財産についての調査義務までが免除されたわけではありません。自分が輸入し、販売する商品が違法でないことを確認してから販売することで、日本で商売をする人として最低限の土俵に乗ることができるのです。

横井さんのお話にあるように、大企業ならばそうした調査は社内の法務部や知財部で行うことが多いです。もちろん重要な案件や複雑なケースでは、弁理士に調査委を依頼します。その調査費用は、ひとつの法律(さらにはその中で一つの主題)について、数十万円かかるのが普通です。商品によっては複数の法律や主題についての調査が必要な場合もあり、調査費用が数百万円になることもあります。こうしたコストを掛けるかどうかはともかく、いま日本で商品を販売するためには、そのような内容の調査をしなければならないのです。

知的財産権の侵害性の調査は、弊所でも行っています。ある商品を輸入・販売することが、他人の知的財産権を侵害しないか調査し、調査報告書を作成いたします。卸先の会社や店舗から、このような調査報告書の提出を求められることがあると思いますが、弁理士による知的財産権調査報告書は信頼感があり、大変ご好評をいただいています。

現在、お試しで、産業財産権四法(特許法・実用新案法・意匠法・商標法)の調査を、初回限定20万円で承っています(※平成27年9月末まで)。四法セットで20万円の価格は、業界標準の80-70%オフの大特価です。

万一販売後に侵害が発覚すると、訴訟対応で100万円単位のコストがかかります。できるだけ早い段階で調査しておくと、結果として安く済みます。重要な商品、大量生産する商品、大切な取引先に卸す商品は、是非知財調査を行うようにしてください。

特許異議申立制度が復活しました

平成15年までは、日本の特許法には、商標法と同じように異議申立制度がありました。特許権の成立は公益に影響するため、審査官の判断の是非を広く世に問う目的でした。

ところが、異議申立をして失敗した場合に別途無効審判を請求する事例が多くあったため、権利者に大きな負担を強いることとなっており、かつ権利の安定性を過度に損なうという側面がありました。また、申立人には異議申立後に意見を述べる機会が設けられておらず、無効審判に比べて使い勝手が悪いという指摘もありました。そこで、平成15年の特許法改正で特許異議申立制度は廃止され、無効審判に一本化されました。

しかし、いざ無効審判に一本化されると、今度は逆に無効審判のデメリットが目立つようになりました。例えば、無効審判は原則口頭審理なため、当事者にとって負担がかなり大きいです(口頭審理は本当に大変です。機会があればどれだけ準備が大変で当日神経をすり減らすかご紹介します。)。また、無効審判は登録後であればいつでも、権利消滅後にさえ未来永劫請求でき、特許権者にとっては手間やコストの観点から負担が大きいという点も問題視されていました。そこで、昨年米国で特許異議申立制度が導入されたことに後押しされる形で、日本でも本制度を復活させることとしました。

今回復活した特許異議申立制度も、基本的にはかつてのものと同じです。ですが一部異なる部分もあります。これらを少し詳しく見ていきます。

■ 旧制度と共通の内容

1.申立人適格

何人も申立可能です。つまり自然人又は法人であれば、誰でも異議申立できます。公益的な観点から審査官の判断の是非を広く世に問う趣旨だからです。なお、権利能力なき社団も、代表者の定めがあれば、異議申立できます。

2.請求期間

特許公報の発行日から6月以内に限り、異議申立可能です。あまりに長い期間認めると権利が不安定になってしまうからです。

3.申立理由

公益的理由に限られています(新規性、進歩性、新規事項の追加、記載要件違反など)。冒認出願や共同出願違反などの権利の帰属に関するものは異議申立理由に挙がっていないので、無効審判で争う必要があります。

4.申立の単位

請求項ごとに申立可能です。なお、取り下げも請求項単位で可能です。

5.職権審理の可否

審判官は、申立しない理由についても審理可能ですが、申立されていない請求項について審理することはできません。

6.特許権者の対応

取消理由通知に対して、意見書及び/又は訂正請求書を提出することができます。意見書(訂正請求書)提出可能期間は、取消理由通知の発送から60日(在外者は90日)です。
複数回の訂正請求があった場合は、最新のものが採用され、先の訂正請求は取下げられたものとみなされます。この場合に、訂正の基礎となる明細書等は、設定登録時のものです。

■ 旧制度から変更となった内容

1.審理方式

書面審理のみ。旧制度では希望すれば口頭審理が認められることもありましたが、新制度ではすべて書面審理となります。ただし、希望すれば審判官との面接は認められるようです。

2.申立書の要旨変更補正

取消理由通知があった後は、要旨変更となる補正はできません。旧制度では、異議申立期間内であれば、要旨変更補正が認められていました。(要は要旨変更補正ができる期間が短くなりました。)

3.訂正請求があった場合の申立人の反論

特許権者が訂正の請求により特許請求の範囲を減縮した場合には、減縮された特許請求の範囲に対して意見を述べる機会が与えられます(取消理由通知の送付から30日(在外者は50日))。
旧制度ではこのような機会はなく、特許庁と特許権者のやりとりのみで審理が完結してしまっていました。

4.申立に要する費用

特許庁印紙代: 16,500円 + 2,400円×請求項数
弊所手数料:  250,000円 (+6,500円/追加請求項) + 150,000円 (+6,500円/追加請求項)(as成功報酬)
旧制度では、特許庁印紙代は 8,700円 + 1,000円×請求項数 だったので、約2倍に値上がりしたことになります(なお、弊所手数料は初期手数料を2万円、成功報酬額を12万円値引き致しました)。

異議申立制度が復活したことにより、競合他社の特許を潰す重要な機会がひとつ増えたことになります。

今後は、

  1. 審査段階での情報提供
  2. 権利付与後の情報提供
  3. 異議申立
  4. 無効審判

という選択肢の組み合わせで、特許を特許を潰す/維持する攻防が繰り広げられることになります。

異議申立は、基本的に特許庁と特許権者の間で手続きが進むため、他社の権利を潰したい場合には手間やコストの面で無効審判よりもかなり有利です。請求人適格に制限がない点も大きなメリットでしょう。このため、資金や人員を十分に割けない中小企業や個人にとって、自己の業務の安定のための強力なツールとなると思われます。

一方で、異議申立期間が限られているため、気が付いた頃には既に申立できないという事態もあり得るでしょう。競合他社の特許が成立したことを誰かが通知してくれるわけではないので、知らない間に重要な特許が成立していて、慌てて異議申立しようとしてももう申立期間が過ぎているということは十分考えられます。あるいは、異議申立しても登録維持の結論が出されることも当然あるでしょう。このような場合は無効審判で争うことになりますが、そのぶんコストが掛かりますし(ダブルで掛かる上に無効審判の方が高い)、無効審判は利害関係人しか請求できなくなったため、単に「競合他社の特許を潰したい」というケースでは請求できないことが多くなると予測されます。つまり、これまでは無効審判で争っていたケースも、今後は限られた期間で、異議申立一本で争わざるを得ないものがたくさん出てくるのです。

このような事態に備えて、出願段階から競合他社の特許出願情報をチェックし、出願状況をウォッチしておくことが重要になってきます。弊所ではそのような他人の特許出願を探しすお手伝い、そして、審査状況を定期的にモニターしてご報告するサービスを提供しておりますので、是非お気軽にお問い合せください。