Tag: 輸入

香港・広州の展示会に行く際の知的財産権の観点からの注意点

4月に入りました。香港&広州の展示会シーズンですね。

中国・広州では、アジア最大の見本市である広州交易会が、1〜3期の3回、通算15日間にわたって開催されます。

また、広州交易会の各期の間を縫うようにして、香港でも大規模な展示会が開催されます(Electronics Fair / Houseware Fair / Gifts & Premium Fair など)。

広州と香港は電車で2時間程度の距離なので、世界中から集ったバイヤーはこの期間は数日おきに両地を移動し、最大3週間も展示会を歩き続けます。これを毎年春と秋の2回繰り返すわけです。

日本からも、商品を発掘するために多くのバイヤーが参加します。毎年この時期になると、「中国の展示会なのでやはり知的財産の問題が気になる、参加するにあたって気をつけるべき点は何か」という問い合わせが増えます。私は展示会が好きで、これまで広州・香港合せて数十回の展示会に参加し、1000以上のブースと話をしたことがあります。大げさではありません。仮に1日20ブースと話をするとして、50日間あれば1000ブースです。50日以上は優に参加していますので、もしかしたら2000ブースくらいの話を聞いたかもしれません。こういう現場を知っている弁理士は少ないと思うので、これらの経験を交えて、上記注意点をまとめてみたいと思います。

中国の展示会で見つけられる商品は知的財産の観点から大丈夫か、という危機感は非常に的を射ています。展示会・見本市というと、各企業が新製品を発表する場というイメージが強いですが、広州交易会はそういう趣旨の展示会ではありません。広州交易会は、ほとんどの場合工場が、というより中国では大企業以外「メーカー=工場」という認識でいいので、「メーカーが」と言い換えてもいいのですが、誰でも作れる商品をより速く高品質で作れることをアピールするための場です。

中国のメーカーは、基本的にどこも同じような商品を作ります。自社で商品を開発するメーカーは、大企業以外ほとんどありません。中国メーカーの基本的なビジネスモデルは、日本や欧米の企業が開発し、販売して売れた商品を真似して、少しだけ手を加えてオリジナル商品として売り出す手法です。そして次は中国内でそれを真似するメーカーが現れて・・・と模倣が連鎖的に広がっていきます。商標さえ独自のものに変えれば模倣品ではなくなり、オリジナル商品になるというのが中国メーカーの根本的な価値観です。

そのため、広州交易会でも、香港の展示会でも、同じような商品がひたすら並んでいます。どのブースでも「これはうちの新製品」「自社のデザイナーが作った」「特許を取っている」などと言いますが、信じてはいけません。「新製品」というのは、新しく作り始めたという意味で、新しく開発したという意味ではありません。「自社デザイン」というのは、既存の商品のデザインを少し改変したという意味で、ゼロからデザインしたという意味ではありません。「特許がある」というのは、多くの場合「商品のデザインが著作権で保護されている」という適当なものか、せいぜい実用新案を取っているという意味に過ぎず、特許が取れるような新技術を開発したという意味ではありません(中国で実用新案権を取るのは簡単ですし、著作権に関してはそもそも工業デザインを保護しません)。

こうした知識を事前に持っておかないと、怪しい商品を掴まされてしまいます。売れずに儲からないくらいならまだいいですが、他人の知的財産権を侵害しているとして在庫破棄などの手続きになったり、損害賠償の責任を負ったりすると、莫大な損害が発生します。前述のように、広州交易会も、香港の展示会も、並んでいるのはほとんどが日本や欧米企業の模倣品です。多少デザイン変更をしているだけでオリジナルを謳っている商品ばかりです。

こうした商品は、中国内では知的財産の観点から問題がない場合もあります。中国では権利が発生していないとか、法制度の差異により中国ではそもそも保護対象でない場合などがあるからです。しかし、そうした商品が日本に入ってくるときに、日本で知的財産権が問題になることは当然あります。展示会に出展している中国メーカーは、日本で知的財産権を侵害するかどうかについて、一切責任はありません。展示会はあくまでも中国における展示行為なので、中国の知的財産法のみが問題になります。日本での法的な問題については、輸入者が100%責任を負うことになります。

例えば中国では、意匠登録がない場合、他人の商品の形態を模倣しても法的な問題は生じないので、堂々と売られたり展示されたりしています。しかし日本では、そのような商品は不正競争防止法の規定により輸入や販売が禁止される場合があります。日本で人気の商品を高品質で模倣している商品に飛びつく人が多いですが、日本には輸入できないことが多いので、注意が必要です。他にももちろん、日本では特許権や意匠権が発生しているが、中国では権利を取得していないものなどもあります。そのような商品は、展示会で見かけても、日本には輸入できません。

どうにも、そうした商品でもロゴを差し替えれば模倣品ではなくなるという甘い考えで輸入をする人が跡を絶ちませんが、そんなことをしても商標権侵害をしなくなるだけで、模倣品であることに変わりはありません。日本でモノを売るということは、売ってよいものかどうかを事前に確認することと常にセットです。中国メーカーの話を鵜呑みにしても責任は常に輸入者が負うことになります。怪しいコンサルタントに乗せられて「OEM」などと称して模倣品をわざわざ作って日本に輸入する人が少しでも減ってほしいと願ってやみません。

この記事に対するご意見・ご感想は、弊所facebookページよりお願いいたします。
当ページヘのいいね!もお待ちしております。

他人のブランドを商標登録できるのか?

例えば外国で展開されているブランドが、まだ日本で商標登録されていないときに、そのブランドの持ち主(メーカー)あるいはその代理店以外の人が、勝手にその商標を登録することはできるのでしょうか。

あるいは、そうして他人に登録されてしまった商標権を、ブランドの持ち主は奪還することができるのでしょうか。

弊所には最近、上記両方のご相談を多くいただきます。以下、登録になる場合とならない場合を見ていきましょう。

基本的な考え方

商標法では、他人が勝手に他者のブランドを登録しようとすることを、当然想定しています。

日本の商標制度は、先願主義を採用しています。つまり、同じ内容ならば、早い方の出願が優先的に登録になります。要は早い者勝ちなのです。

また、商標は選択物であり、商標自体には価値がありません(無価値物)。これは、特許や実用新案、意匠などの対象には価値があり、それらを発明などしたことが偉いから権利を与えるとする創作法の立場とは根本的に異なります。

つまり商標の世界では、その商標を出願人自ら生み出したかどうかには興味がなく、他人と区別できる表示(「標章」といいます)を、他人よりも先に出願した人に商標権を与えることになっています。なので、他人のブランドであっても、先に出願しさえすれば登録する。これが商標法の基本的な姿勢です。

一方で、それを貫徹すると様々な不具合が出てくることは容易に想像できます。例えば、『シャネル』という商標が、財布について日本で商標登録されていなかったとします。それに気付いた人が勝手にそれを日本で登録して、シャネルに対し「日本で販売したければ私にライセンス料を払え」と言ってきたら困りますよね。このような権利行使は商標法の趣旨から外れるため、最初から登録できないことにしています。このように先願主義の例外として、他人のブランドを登録できないケースがいくつかあります。

拒絶理由
商4条1項10号(未登録周知商標)

商標登録されていなくても、既に周知(有名)となっている商標は、無関係の人が登録してしまうと、既にそのブランドを知っている人が商品の出所を混同(要は商品の取り違え)してしまうので、登録できないことになっています。

また、そのブランドを周知にするまでに積み重ねられた信用を横取りするのを防ぐことも理由となっています。

輸入商品であっても、実店舗で販売する場合は、その所在地と隣接都道府県程度でそのブランドが周知になっていれば本号の対象となり、他人の出願を排除できるとされています(インターネット販売の場合は全国周知が必要とする解説もありますが、実際の審査実務では地域的な基準よりも販売数量や広告規模が重視されるようです)。ただし本号は需要者の混同防止が目的なため、日本国内での周知が必要です(外国のみで周知であってもダメ)。また、出願時と査定時両方で周知であることが必要です(商4条3項)。

商4条1項15号(商品又は役務の出所の混同)

本号も、既に周知になっている商標が無関係の人に登録されると需要者が商品を取り違えてしまうおそれがあるため、登録できないとする規定です。

また、本号では広義の混同(商品の取り違えだけでなく、関連会社などの関係にあると誤認されること)の防止までもが目的となっているため、非類似の商品までが範囲に含まれます。

例えば、シャネルの財布は有名だが、シャネルが靴を作っていない場合に、「靴」を指定商品とした商標『シャネル』の出願は、本号を根拠に拒絶されます。おそらく、他人のブランドを無断で登録しようとした場合に最も多く根拠とされるのが本号です

なお、本号でも日本国内での周知が必要で、かつ、出願時と査定時両方で周知であることが必要です。

商4条1項19号(不正使用目的の周知商標)

外国のみで周知なブランドが無断で登録されようとする場合には、上記10号や15号では拒絶できません。そのような出願は、本号を根拠に拒絶されます。

外国で成功したブランドがこれから日本に進出しようとするときに、先に商標登録をしていた他人が、商標権を根拠にそれを阻もうとしたり、高いライセンス料を要求したり、商標権を高額で売りつけようとしたりすることは、社会正義に反します。本号はそうした社会正義に反する商標登録を防止するための規定です。

本号は外国のみで周知な場合もその対象とする一方、前述のように商標権を高額で売りつけようとするなどの不正の目的がある場合に限定して適用されす。しかしながら、外国で周知な商標を他人が日本で登録しようとすることは、それ自体が不正の目的があると審査段階で推認される*ので、結局のところ外国で周知な商標を勝手に登録しようとすると本号に該当する可能性が高いといえます。

* 別途商標の顕著性が考慮されます

なお、本号でも、出願時と査定時両方で周知であることが必要です。

商4条1項7号(公序良俗違反)

本号は公序良俗に反する登録を排除するための包括的な規定です。かつては第三者による剽窃的な商標登録は本号を根拠に拒絶されていましたが、いまは上述の規定(10号、15号、19号)が適用されることになっています。

上述の規定はいずれも、少なくとも日本か海外いずれかで周知であることが前提なので、出願時に周知性を獲得できていなかった商標について第三者による登録を排除するには本号を用いるしかないのですが、審査基準が変わったため、最近の審査実務では本号を用いて剽窃的な出願を拒絶することは難しくなりました。出願の経緯で特に不誠実な事実があった場合にかぎり、本号により拒絶されることになります。このような包括的な規定の適用は抑制的であるべきなので、その方針は正しいといえるでしょう。

商4条1項8号(他人の氏名または著名な略称)

登録しようとする商標(ブランド)がそのメーカーの会社名と同じ場合は、本号の対象となります。他社名と同じ名称のブランドを勝手に登録しようとすると、本号で拒絶されるのです。

ただし、略称の場合は他社名が著名な場合に限り本号の適用となります。多くの場合、商品ブランドは社名の略称となるため、本号の対称となるのはその社名が著名な場合に限られます。

例えば「エクスカリバー株式会社」の商品ブランドが「エクスカリバー」である場合に、この『エクスカリバー』を登録しようとすると、これは商品ブランドであると同時に、会社名の略称でもあります。略称の場合は、その社名が著名な場合のみ本号の対象となるので(※外国のみでの著名で足ります)、「エクスカリバー株式会社」が著名な場合に限り、本号により登録が拒絶されることになります。

この著名性の判断は比較的緩く解釈されていて、外国である程度以上(従業員数が数百人以上いるなど)であれば、著名と判断されることが多いです。

無効理由・異議申立理由

上記の拒絶理由はすべてそのまま無効理由に挙がっています。従って、仮に審査段階で上記拒絶理由が見逃され登録になってしまった場合は、無効審判を請求することができます。異議申立についても同じです。

取消理由

一方で、拒絶理由等ではないが、取消理由に挙がっているものもあります。

商53条の2(代理人による不正登録)

出願前1年以内に外国メーカーの代理人であった人が、その商標を日本で勝手に登録してしまった場合は、本条に基いて、その商標登録を取り消すことができます。

代理人とは、メーカーに対して何らかの代理権を有する者を指し、一般には代理店がこれに該当します。単に仕入れをしているだけの卸先はこれに含まれないことに注意が必要です。

また、本取消審判を請求できるのは、ブランドの持ち主である海外メーカーだけである点にも注意が必要です。代理店などは、利害関係人にはなるでしょうが、本審判を請求することはできません。この場合は、その海外メーカーから弁理士宛の委任状を用意してもらい、事実上代理店が動くという方法をとることになります。

他人のブランドを登録してもよいのか

結局のところ、他人のブランドを勝手に登録してもよいのでしょうか。

少なくとも法律上は、上記の不登録事由や取消理由がありますので、これらに該当する場合には、そうした出願はリスクが大きく、出願すべきでないといえるでしょう。

一方で、上記のいずれの理由にも該当しない場合は、そのような出願をしてはいけないという法律上の根拠はありません。冒頭で述べたように、商標法はそうした出願を当然に予定しています。厳しいかもしれませんが、先願主義のもと、前もって出願しておかなかった点にメーカーの責任があるともいえます。

また、ほとんどの拒絶理由(無効理由)は、そのブランドが周知であることを前提にしています。一般に、商標は登録されて初めて保護されますが、未登録の商標は、周知性を獲得した場合にかぎり、他人に勝手に登録されないなど一定の保護を受けることができます。逆にいうと、周知性を獲得していない未登録商標は、商標法上保護される根拠がないのです。つまり、周知性を獲得するまでは商標法上保護する価値がないというのが、いまの日本という国の価値観なのです。

だとすると、周知でない商標については、他人のブランドであっても勝手に登録することを妨げる法律上の理由は、ないといえます。ただし法律上許されることと、社会通念上許容されることの間には差があるかもしれません。ご商売を続けていく中で、他人のブランドを無断で登録するという判断が貴社にとってどういう意味を持つのか、あるいはどのようなメリット・デメリットがあるのか、事前によく検討してください。

他人にブランドを登録されたらどうしたらよいのか

最近、このようなお問い合せを多くいただきます。

まずは上記の異議・無効・取消理由がないか、検討してみる必要があります。何かの理由がありそうならば、無効審判などを請求して、その商標権を潰すことを考えます。

ただしこれらの理由を探すことは難しいことが多いです。ほとんどの理由には出願時の周知性が要求されますが、出願は半年以上前になされていることが多く、有名ブランドでないかぎり、出願時の周知性を証明することは容易ではありません。

万一無効理由等が見つからない・証明できない場合でも、メーカー側に商標権者よりも資金力があるならば、無効審判や取消審判を請求し、さらには訴訟などを提起することを検討します。

こうすることで、場合によっては商4条1項7号などが認められるかもしれませんし(7号の適用は個別の事情により適用になったりならなかったりします)、相手を牽制しつつ証拠収集の時間を稼げます。特に相手の規模が小さい場合は、審判や訴訟の対応費用で大幅な赤字になるので、争うよりも商標権を譲渡すると判断するケースが少なくありません。

弊所の対応

弊所には、商標を取りたい方・潰したい方の両方からご相談いただきます。

取りたい方には、上記のように数多くの拒絶理由があり登録できない可能性がある点、そのような商標登録は業界内で評価されずご商売に悪い影響が出る可能性がある点、また仮に無事に登録になっても相手方の審判請求などで手間やコストがかかる点などをご説明申し上げて、それでも出願をご希望される場合は、受任しています。繰り返しになりますが、商標法はこのような出願を許容しているからです。この場合は、登録後の審判対応なども包括的にサポートさせていただきます。

一方でそのような商標登録をされて困っている方には、審判請求をはじめ訴訟などあらゆる手段を用いて権利を潰すか、相手方と権利譲渡やライセンス許諾の交渉するなどの選択肢を検討します。弊所ではこれらのお手伝いもしています。英語でのメーカーとの交渉も代わりに行います。

いずれにせよ商標は先願主義で早い者勝ちという大原則があるので、どのような立場であれブランドを日本で展開する可能性がある場合は、一刻も早く商標出願すべきです。他人の権利を潰すコストの方がよっぽど高いので、たとえテスト販売であっても日本への進出が決まったならば同時に商標出願もしておくのが結局最も安上がりだからです。一般には、代理店側からメーカーを説得することで商標出願にこぎつけることが多いようです。

おまけ

以前、「松阪牛」や「津軽りんご」が中国で勝手に登録され、本物が輸出できないことが日本で問題になりました。

最近は逆に、日本人が中国メーカーのブランドを勝手に登録する事例が相次いでおり、問題となっています。これには中国メーカーの技術力が上がってきたことや、日本人が中国商品を簡単に仕入れられるようになったことが背景にあります。取引量が増え、競業者が増えるとどうしてもこのようなトラブルも増えてしまいます。

日頃の業務に取り組みながら、日本も変わってきたなぁと実感しています。