Tag: 輸入差止申立制度

中国税関のセミナーに参加してきました

JETRO主催の中国税関セミナーに参加してきました。中国では税関のことを海関というので、正確には「中国海関セミナー」という名称でしたが。

さすがはJETRO、中国からそうそうたるメンバーを集めてきました。

中国海関総署・知識財産処の副所長
北京海関、青島海関、石家庄海関・法規処の各所長
瀋陽海関、合肥海関・法規室の各室長

こんな顔ぶれがいっぺんに中国を離れて大丈夫なのでしょうか(笑)

セミナーの内容は、中国税関での模倣品差し止めの基本的なシステムの紹介が主な内容でしたが、みなさんが口を揃えて主張されていたことがありました。

「我々税関は、こんなにたくさんの模倣品を差し止めしているのです。日本企業の役に立っています!」

なんというマッチポンプでしょう。

世界の90%以上の偽物を作っているのは中国です。それらの輸出を差し止めたから日本企業の役に立っていると言われても、素直にありがとうと言う気になど到底なりません。まず偽物を作る方をなんとかしろと言いたくなります。

ただこれも繰り返し説明していましたが、ニセの商標を付した ザ・偽物 については、最近の中国海関の発見精度がだいぶ上がってきているのも確かです。特に欧米や日本に向けては、そのようなザ・偽物を輸出し続けることのデメリットが大きいという国家的判断もあるようで、中国政府としても、パフォーマンスではなく本腰を入れて対策し始めているという実感はあります。また、中国商品の機能や実力が上がってきたので、偽物でない商品の輸出を押していけるだろうという思惑もあるようです。

ただしそれは、「商標さえつけなければ偽物ではない」という考えの裏返しとも取れます。これは中国でしか通じない価値観で、日本ではもちろん知的財産権を侵害する行為です。

そこで、以下の様な質問をしてみました。

  • 日欧米の企業の商品のデッドコピーを作り、商標を取り除いてノーブランド品とするか、他の商標に差し替えてオリジナル商品として日本に輸入する事例が増えている
  • そのような商品に対しては、意匠権で対応できるが、日本企業はあまり意匠権を取らない傾向にある
  • そのような場合には、中国の不正競争防止法を根拠に、税関で模倣品を差し止めてくれるのか?

これに対しては、おおよそ以下のような回答を得ました。

海関に輸出差し止めを申し立てることができる。ただしそうした案件は裁判所の判断を仰ぐことになるだろうから、簡単には解決しない可能性がある。

中国海関の偉い人たちがこれだけたくさん集まってもこういう回答なのです。事実上できないと言っているに等しいでしょう。

結局、従来型のザ・偽物、すなわち典型的な商標権侵害物品については、模倣品対策もだいぶ進んできたけれども、模倣品の方もどんどん進化してきているので、それらにはまた新しい対応が必要だということなのでしょう。

そうした模倣品については、やはりまだ日本側で対応することになりそうです。そのためには、日本企業はもっと意匠権の活用を増やしていくべきでしょう。

ちなみに、中国の不正競争防止法(反不当競争法)では、商品形態の模倣そのものを禁止することはできません(日本法の2条1項3号のような規定はありません)。そのため同法の他の規定を用いてなんとかできないかということが以前から各関係者の間で問題になっているのですが、今回中国税関の方々に直接伺って、それが難しいことが明確になりました。結局のところ、日本企業は中国でももっと意匠権の取得に力を入れなければいけないのでしょう。

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税関に行ってきました

先日、東京税関に行ってきました。

輸入差止申立制度を利用するにあたり、税関職員の方と事前相談をするためです。

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特許権や商標権などの知的財産権が侵害されている物品(いわゆる偽物・模倣品)を輸入することは、密輸にあたります。税関では密輸を阻止すべく日々努力していますが、すべての貨物を開封して検査することは到底不可能ですし、仮に全品検査するにしても、毎年何十万件も発生しては消えていく様々な知的財産権の内容をすべて把握して知的財産権を侵害するかどうか判断することも当然不可能です。

そこで予め権利内容と侵害品や侵害者の情報を税関に提供し、効率よく差し止めてもらうことができます。この制度を、輸入差止申立制度といいます。

輸入差止申立制度を利用するには、税関に対して輸入差止申立書を提出します。そして税関では、申立書の作成段階で、申告内容について事前に相談に乗ってくれます。権利内容本物・偽物の識別ポイント具体的な侵害状況想定される輸入ルートなどを、税関の知的財産調査官に直接説明し、差し止めしやすい申告書の作成方法について対面で相談することができます。

今回私が伺った際には本件のご担当調査官及び調査部長を含め、計5人もの調査官が参席してくださいました。いかに税関が知的財産権侵害物品の差し止めに力を入れているかが伺えます。

逆にいうと、どのような内容を税関に提供するかによって、水際差止の効率が大きく変わってきます。実際、空輸であれコンテナ輸送であれ、貨物の開封検査は例外中の例外です。日本の輸入許可は輸入申告書の記載に基いて行われ、貨物の検査を経ることは通常はありません。例外的に検査必要と認められた貨物のみが検査されるのですが、どの貨物を検査するかはすべてコンピュータが決めています。

このコンピュータの内容はほとんどが非公開なのですが、かなり高性能なものだと言われています。様々な情報から複合的に判断し、貨物ごとに「検査なし」「書類審査」「開封検査」のいずれかに振り分けるそうです。例えば輸入者が過去に密輸の前科がある場合や、コンテナですと混載種類が多い場合、そして当然輸入差止申立書に記載されている輸入者は、検査の確率が高くなります。

税関への輸入差止申立をするということは、いかにしてこうした検査に引っかからせるかという作業に他なりません。輸入差止申立書に権利内容のみを記載して提出しても、ほとんど実効性はありません。特に空輸で複数の輸入者がパラパラ入れてくる場合は、どれだけ侵害情報を提供できるかで、輸入差止の実効性に大きく影響します。

そのときに、輸入者の情報を提供するのはもちろん有効ですが、それに加えて輸出者の情報を提供したほうが有効的な場合が多いです。偽物の流通は下流に行くほど枝分かれしてしまい、対応に手間とコストが掛かるようになるので、「偽物は上流で叩く」のが基本です。そうすると、例えば偽物がアマゾンで販売されているときに、各出品者に対して手続きするよりもプラットフォームであるアマゾンに対して手続きする方が効率がいい場合が多いですし、アマゾンに対してよりも輸入される段階で止めたほうが効率がいいです。そして更に輸出者レベルでまとめて止めたほうが効率がいいですし、その上流では輸出者の仕入先である小売店や卸売店、更には工場で型を潰してしまうのが最も効率がいいということになります。

しかし一般には上流に行くほど手間とコストが掛かるので、それぞれの段階をうまく組み合わせて全体として効率よく偽物の輸入・販売を差し止める必要があります。こうした対策は、模倣品対策の全体像を十分に把握している専門家のアドバイスに従ったほうが、トータルで安く済みます。

輸出者の情報提供をする意義
近年増えているインターネットでの偽物販売に関しては、中国内で様々な流通経路・流通段階にある商品を、代行業者が購入し、商品を取りまとめてから各輸入者宛に輸出する態様が一般的です。つまり偽物は一度代行業者に集まるので、代行業者レベルで押さえられれば効率よく偽物対策ができます。
ネット販売における偽物流通経路の模式図(クリックで拡大)

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しかし、日本の特許法や商標法などでは、中国における輸出者の違法性は問えません。日本の法律は日本国内のみで有効なので、中国での違法行為は日本では違法性を問えないのです。
ご存知のように中国での輸出通関はザルですから(※中国では事前に税関に登録した権利でないと偽物であっても輸出段階で止まりません)、輸出業者は堂々と偽物を日本に輸出して商売をしています。
このように中国での輸出代行業者の違法行為は止められないため、税関に輸出者の情報を提供できるということは、こうした輸出業者の貨物を水際で止められ得る数少ない、貴重な機会を得ることを意味します。特に小口輸入者の商品を取りまとめて輸出している代行業者の存在が日本での模倣品蔓延の元凶になっているため、こうした業者の違法行為に対応できる可能性がある点でも、税関での輸入差止は大きな意義があるといえます。
端的にいうと、輸出代行業者は、「偽物は下流に行くほど枝分かれする」という原則の数少ない例外なので、ここを叩くのが手間やコストの観点から効率がいいのです。おそらく最近のインターネット販売における偽物を最も効率よく減らす方法は、こうした輸出代行業者の貨物を税関で止めることだと思われます。もちろん輸入者ごとに止めるのが王道ではありますが、そのひとつ上の段階である輸出代行業者単位で貨物を止めるという視点は、今後の偽物対策の鍵になっていくでしょう。

輸出入差止申立の有効期間が延長されました

偽物(知的財産侵害物品)が輸入されようとするときに、税関にて職権でその貨物の輸入を差し止めてもらうことができます。

ただし、税関は無数の知的財産権のすべての権利内容や存続期間を把握しておくことは不可能ですし、さらには膨大な量の貨物のどの商品がどの知的財産権を侵害するか、すべてを判断することももちろんできません。

そこで税関では、各知的財産権の権利者から、権利内容や、密輸者及び違法物品の情報を提供してもらい、適切に偽物を差し止めることとしています。この情報提供制度を輸入差止申立制度といいます。

この輸入差止申立は、これまで有効期間が2年間だったので、2年ごとに更新する必要がありました。しかし、今年関税法(正確には関税法施行令)が改正され、平成27年4月1日より、有効期間が4年間に延長されました。これにより、申立人(=権利者)の更新の負担が減ることとなり、よりこの制度の活用がしやすくなったといえます。

なお、この有効期間は一律に4年間なのではなく、申請書に記載された期間を限度に有効となります(もちろんほとんどの人は最長の4年間を記載するのですが)。今回の改正はこの申請書に記載できる期間が2年間から4年間に延長されるという内容ですので、過去の申請書で2年間と記載してあるものが当然に4年間に延長されるというものではありません。過去に2年間以下の期間を記載してある方は、次回更新時に4年間へと記載を変更することができます。

最近は偽物のほとんどがEMSなどの空輸で小口で送られてきており、ひとたび国内の流通に乗ってしまうと、個別の商品への対応は非常に困難です。このような小規模の密輸には入口=税関で対応するのが圧倒的に効果的です。偽物への対応には是非輸入差止申立制度を活用していただきたいと思います。

※なお、輸出時に税関で差止める輸出差止申し立てについても、上記と同じ改正がなされています。