アマゾンや楽天などのECショッピングモールで、他人の商標を使用することが許されるのはどういう場合なのでしょうか。逆にどのような場所や方法で使用すると問題になるのでしょうか。これも昨年問い合わせが多かったテーマのひとつです。
商品ページヘのアクセスを増やすために、キーワードとして他人の商標を用いたいという需要はかなりあるようです。例えばバッグの商品ページの一部に「エルメス」や「バーキン」などのキーワードを入れて、Googleなどでそれらのブランドを検索した人を誘導するわけです。
こうした行為が需要者を本来の目的とは誤ったサイトへ誤認誘導するものであり、問題がありそうだということは常識でわかると思いますが、商標権侵害となるかについては検討の余地がありそうです。
この問題には、以下の裁判例が参考になると思われます。
【事案の概要】
X(原告)が以下の構成からなる商標についての商標権を有していたところ、競業他社が「<meta name=”description”content=”クルマの110番。輸入、排ガス、登録、車検、部品・アクセサリー販売等、クルマに関する何でも弊社にご相談下さい。”>」と、メタタグに『クルマの110番』の商標を使用した行為が、商標権侵害に該当するかが争われました。
【結論】
商標権侵害となる。
【理由】
商標及び指定役務の類似性の検討は省略しますが、類似と判断されています(おそらく問題ないでしょう)。その上で、上記のようなメタタグへの記載が商標的な使用であるかについては、MSNサーチの検索結果画面にその内容が表示されたことから、商標的な使用であると判断されました。
【解説】
メタタグとは、そのウェブサイトの属性や概要などを記載するためのHTMLタグで、そのページをWebブラウザで開いても、メタタグ部分は表示されません。ただし一部の検索エンジンではそこに記載された内容を参酌して検索順位を決定したり、上記MSNのように検索結果自体に現れたりします。上記判決では、この「検索結果に現れた」という事実が重視されました。
ウェブサイト(ECの商品ページを含みます)における商標の使用は、一般に、商標法2条1項8号に定める「広告的使用」に該当します。商品名などにもろに用いると、同2号に該当することもあります。
一方で、商標は商品の出所の混同を防止するための表示ですから、目で確認できることが何よりも重視されます(もちろん発音でもいいのですが、結局は見えないモノは発音もされないので、結局は同じことです。※今後音の商標などが登録されるようになると事情が変わるかもしれません)。そのため、メタタグのようにブラウザで表示されないものは商標として機能していないのではないかという疑問が生じて、問題になるのです。
そういう意味で、MSNサーチの検索結果に現れたことを根拠に登録商標を商標的に使用したとして商標権侵害を認定した上記判決は、妥当だと考えられます。
ただメタタグは多くの検索エンジンでは検索結果にも現れないことから、例えば今後MSNサーチの仕様が変わったときには、同様の事案では異なる判断がなされる可能性もあります。また、この種の問題についての裁判例がおそらく上記大阪地裁のものしかないことから、これの先例的価値がどれだけあるかもよくわかりません。ちなみにこの問題については、外国では国により判断が割れています。
さてこのように先例的価値が不明なクルマの110番事件ですが、上述のとおり一定の合理性があるので、これを参考にECサイトでどのように他人の商標を使ったら商標権侵害となるのかを検討してみます。
結局重要なのは「その商標が目視で確認できる」という点なので、商品タイトルや商品説明に用いると商標権侵害となる可能性が高いでしょう。商品のパッケージに商標を印刷して、その画像を掲載しても同様でしょう。アマゾンのブランド欄に記載してもやはりアウトでしょう。
一方で、例えばアマゾンのキーワード欄に他人のブランドを記載することは、少なくとも現在の商標法では違法性を問えないように思います。そのような行為はアマゾン内の検索順位に影響を与える可能性が高いですが、キーワード欄の内容はどこにも表示されず、他人には確認のしようがありません。確認できないのでそもそも裁判などで非常に争いづらいという事情もあるでしょうし、仮に争えても現行の商標法の枠組みでは商標権侵害とはなかなか言えないと思われます。このような行為により明らかに検索結果がおかしいと思われる場合は、法的手段よりもまずはアマゾンに対して個別に対応を迫っていくことになると思います。
また、従来からよくある手法ですが、背景色と同色の文字を用いて、説明文に他人のブランドをキーワードとして記載する行為もあります。これも結局はその部分を選択すれば目視可能ですから、商標法上問題になる可能性が高いです。
いずれの場合も、商標が目視できても商標的に使用しているのかという点も問題になるでしょう。また、「◯◯風」などとしてそのブランドそのものではないと明記すれば問題ないのではないかと考える人もいるようです(この点についてはこちらの記事を参考にしてください)。
結局、他人のブランドをキーワードにして自分のウェブサイトや商品ページに誘導しようという発想がそもそも泥坊根性なわけですから、そんなことはせずに自分のブランドを育てていく方に労力を割いていくのがよいでしょう。