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IIPPF(JETRO)様における講演のご報告

3週間ほど前になりますが、IIPPF(国際知的財産保護フォーラム)様にて、「アマゾンにおける模倣品対策」について講演する機会を頂戴しましたので、その報告です。

ご存じの方も多いと思いますが、IIPPFはJETROを母体とする、模倣品対策についての企業様の集合体(フォーラム)です。模倣品対策の組織としてはおそらく日本最大だと思います。そこで、先日JEITA様にて講演した「アマゾンの販売システムと模倣品対策」と同内容の講演のご依頼を受け、お話してまいりました。

特に今回は、Amazon.co.jpの運営主体がアマゾンジャパン合同会社と変更となったことにより、アマゾンにおける模倣品対策ががらりと変わる可能性があることをお話しできたことはよかったと思っています。

これまでAmazon.co.jpは、運営者はあくまでも米国企業で、日本企業(アマゾンジャパン株式会社)は対応窓口にすぎないという立場を貫いてきました。なので、Amazon.co.jpでの模倣品への対応をアマゾンジャパン株式会社に相談すると、「ただの窓口なので対応できない」と一蹴されることが少なからずありました。それではと米国企業に直談判すると、「日本のことは日本でやれ」とこちらも門前払いされ、結局どこで誰と話し合えばいいのかわからない状態が続いていました。力のある日本企業も、このようにのらりくらりと逃げるアマゾンに対して有効な対応ができず、困っていたという事情があります(他にも、米国企業を相手に訴訟をするのは負担が大きいなどの事情もありました)。

しかし、運営主体が日本企業(アマゾンジャパン合同会社)になったのならば、これからはここと交渉すればいいことになるのでしょう。これまで模倣品問題で楽天やヤフーが訴えられることはあっても、アマゾンだけは訴えられずにきました。これは、誰を訴えたらいいのかよくわからないということも大きな理由だったと思われます。今後はアマゾンジャパン合同会社が訴えられるケースも増えてくるでしょう。なにより日本企業はアマゾンジャパン合同会社と直接の交渉を持てる可能性が高く、これは非常に大きな前進です。

他にも、数年前に外国の銀行口座で売上げを受け取れるようになったことに加え、最近日本のセラーセントラルが中国語に対応したことなどから、中国人セラーが続々と参入しており、今後は中国人相手に模倣品対策をしなければいけないことなどをお話しました。

また、チュッパチャップス事件に加え、チャフローズ洗浄剤事件も紹介し、ISPの侵害責任をどこまで問えるのかについても簡単に検討しました。

アマゾンでは実は多くのブランドは並行輸入品の販売が禁止されています。これは法律的にではなく、アマゾンのルールとして販売を禁止しているものです。模倣品が多いためだというのがアマゾンの説明ですが、日本企業が模倣品対策をする上で、このような運用を参考とできる部分は大いにあるでしょう。

ざっくりとはこのような感じです。弊所では出張セミナーを無料で行っております。ご興味のある企業様はお気軽にお問い合わせください。

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中傷レビュー投稿者の情報開示が命じられた事例から考えるアマゾンにおける模倣品対策

またも少し出遅れましたが、アマゾンに投稿された中傷レビューの発信者の情報開示を求めた訴訟において、裁判所が面白い判決を出したようです。

記事によると、アマゾンで中傷レビューを投稿されたNPO法人が、投稿者の情報を開示するよう求めていた件で、裁判所は、アマゾンジャパン株式会社に、投稿者のIPアドレスに加え、氏名、住所、メールアドレスの開示を命じる判決を下したそうです。

この話題のポイントは、2つあります。

ひとつは、IPアドレス以外の情報も、アマゾンに開示義務があると判断した点です。これまでの手続きの流れに従えば、まずアマゾンに対してIPアドレスの開示を請求して、その情報を基に、ISP(プロバイダ)に対して個人情報を開示する請求するという、二段階の手続きをすることになっていました。ところが本判決では、アマゾンに対して、IPアドレスのみならず、投稿者の氏名や住所なども開示するように命じました。これにより、アマゾンに対する一度の手続きのみで投稿者の個人情報を入手できることになり、開示請求をする方は手間・時間・費用を軽減させられることになりました。

もうひとつは、今回開示義務が課されたのがアマゾンジャパン株式会社であるという点です。ご存知の通り、Amazon.co.jpの運営主体は、Amazon.com Int’l Sales, Inc. 及び Amazon Services International, Inc. です(米国2社による共同運営)。日本法人であるアマゾンジャパン株式会社は対応窓口に過ぎないため、Amazon.co.jpで生じたトラブルについての訴訟は米国企業を相手に起こさなければならないとこれまでは言われていました。ところが本判決では、アマゾンジャパン株式会社に対して情報開示を命じました。これにより、米国企業と裁判をしなくてもいいこととなり、開示請求がかなりやりやすくなったといえます。

それぞれのポイントについて簡単にみていきます。

前者については、これまでもできるのではないかと言われていました。司法や行政などからの強制力のある命令があれば、アマゾンは情報を出さざるを得ないだろうというのが専門家の見解でした。実際にIPアドレスはこれまでもアマゾンなどのサイト運営者から開示されていました。

今回は、氏名や住所なども含めてアマゾンに開示義務があると判断された点に意義があるのですが、実はこの氏名や住所は、アマゾンに登録されている情報だという点に注意が必要です。従来のISPが開示する方法では、IPアドレスからユーザごとの接続IDや接続先サーバから住所などを特定します。一方で、アマゾンはそうした情報を割り出すことはできないので、アマゾンにユーザ登録されてある情報を提供することしかできないはずです。アマゾンでは、クレジットカードと電話番号さえあればアカウントが作れてしまいます。これらの情報は一時的なものを入手するのが簡単なので、虚偽の住所や氏名で登録がなされている場合、正確な情報が割り出せないという問題が残る点には注意が必要です(このような事情を知って最初から虚偽情報で登録する人は実際にいます)。そのようなケースでは、結局従来通りの方法でISPに情報開示請求をするしかありません。

あとは、今後は同様の訴訟を提起すればこうした情報を開示させられるのでしょうが、弁護士会照会ではどこまでの情報が出てくるのか(アマゾンには出す義務があるのか)も今後の検討課題でしょう。

さて、今回特に重要なのは、後者です。今回原告は、本件訴訟に先立ち、アマゾン米国法人を訴えていたそうです。その後日本法人も訴えたところ、「Amazon.co.jpの運営主体はアマゾンジャパン株式会社である」と認めたため、米国法人に対する訴えは取下げて、アマゾンジャパンに対する請求一本に絞ったという経緯があるようです。

これまで、アマゾンと書面等でやり取りをすると、サイトの運営主体は米国法人であり、日本法人は対応窓口にすぎないという注意書きが必ず記載されていました。一方で、アマゾンの倉庫(FBA)はアマゾンジャパン・ロジスティクスが運営しているという事情があり、サービス全体としては誰が実質的な運営主体がよくわからない状態となっていました。こういった事情のため、Amazon.co.jpにおける問題について訴訟を起こすならば、米国法人を相手に訴えるしかないというのが一般的な考えでした。それが、アマゾン自ら実質的な運営主体はアマゾンジャパン株式会社あると認めたことにより、アマゾンジャパンを訴えればいいとされた点で、本件には大きな意義があるといえます。

本判決は、アマゾンにおける知的財産権侵害への対応にも影響すると思われます。例えば、Amazon.co.jpで商標権や意匠権などの知的財産権侵害をする商品が販売されているのを発見したら、出品取り下げなどをアマゾンジャパン株式会社に申告することになります。ところが、解釈の差などの理由で、アマゾンがスムーズに手続きをしてくれないことがあります。そうしたときに、これまではアマゾン米国法人を相手に訴訟を起こさなければいけないと考えられていたので、かなりハードルが高く、ネット販売では侵害の規模が小さいことが多いことを考え合わせると、手間やコストの観点から、訴訟提起できないという問題がありました。もしアマゾンジャパン株式会社を相手に訴えればいいということであれば、訴訟のハードルが格段に下がる(例えば書類の翻訳料がなくなるだけでかなりのコスト削減になります)ので、今後はAmazon.co.jpにおける知的財産権侵害の問題は裁判で争う例が増えるかもしれません

また、FBA倉庫(フルフィルメントセンター)に偽物が納品されている可能性が高いことがわかっているときに、出荷差し止めや、その前段階として工場への立入検査を希望することは多くあります。これについても、これまでは米国法人を訴えるのは大変なので諦める事例が多かったのですが、今後はアマゾンジャパン・ロジスティクスを訴えればいいのだろうということが明らかになったように思います。

そういう意味で、本判決は中傷レビューに関するものですが、模倣品対策の観点からも、今後の実務に与える影響は大きいと思われます。

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ECサービス提供者の知的財産権侵害への対応責任

アマゾンや楽天、Yahoo!などのECショッピングモールで自社製品の模倣品を発見した場合、どう対応したらよいでしょうか。

本筋からいえば、その模倣品を試買し、真贋を判定して、模倣品である(自社の知的財産権を侵害する)と判断したならば、相手方に警告書を送るとか、裁判所に訴状を提出するなどの手続をとるべきです。

しかし、いまの日本のECショッピングモールは偽物だらけです。ひとつを潰しても雨後の竹の子のように次々と湧いてくるので、正面からいちいち相手にすると費用倒れしてしまいます。なのでなんとかまとめて対応するか、個別に対応するにしてもコストをかけない方法がないかと考えるのは当然のことです。

模倣品対策においては、偽物は上流で止めるのが大原則です。ほとんどの偽物は中国から入ってくるので、「製造工場を潰す」「輸出業者を潰す」「中国の税関で止める」「日本の税関で止める」などの対応をしているわけですが、努力むなしくそれらの網をすり抜けて日本に入ってくる偽物が跡を絶ち絶ちません。一度日本に入ってしまうと日本中に拡散してしまい対応がかなり難しくなるわけですが、ECショッピングモールは数者による寡占状態にあるため、そこで対応することができます。すなわち、バラバラに日本に入ってきた偽物がもう一度だけ集結する、最後のチャンスがECショッピングモールなのです。流通フローでは最下流ではありますが、そこで止められるチャンスがあるのですから、これを利用しない手はありません。

では具体的にどうするのでしょうか。基本的な考え方は、ECショッピングモールに働きかけて模倣品の出品を削除してもらうことになります。いかにコストをかけずに出品削除に持ち込むか、更には各ショッピングモールの用意する制度を利用してそうした違法な業者をいかにしてそのモールから排除するかが重要です。

通常、ECショッピングモールでは、知的財産権を侵害する商品の出品情報を報告するシステムを用意しています。

これらのシステムを利用して自社の知的財産権を侵害する出品を報告すれば、プラットフォームが出品削除の手続きを行ってくれます。出品者に対して個別に警告書を送ったり訴訟を提起することに比べれば、大幅に手間やコストを抑えることができます。

一方で、こうした報告を受けたプラットフォームには、どこまで対応責任があるのでしょうか。以下の裁判例が参考になります。

この裁判例についてはいずれ個別に詳しく紹介しますが、サービスプロバイダに商標権侵害責任が問われる可能性が指摘された点で、大きな価値があるといえます。

すなわち、ECショッピングモールにおいて商標権侵害商品が出品されているときに、その商品を出品している者(店舗)が商標権侵害をすることは明らかですが、それに加えて、サービスプロバイダも商標権侵害責任を問われることがあり得ると判断されているのです。

その要件として、知財高裁は以下のように述べています。

ウェブページの運営者は,商標権侵害行為の存在を認識できたときは,出店者との契約により,コンテンツの削除,出店停止等の結果回避措置を執ることができること等の事情があり,これらを併せ考えれば,ウェブページの運営者は,商標権者等から商標法違反の指摘を受けたときは,出店者に対しその意見を聴くなどして,その侵害の有無を速やかに調査すべきであり,これを履行している限りは,商標権侵害を理由として差止めや損害賠償の責任を負うことはないが,これを怠ったときは,出店者と同様,これらの責任を負うものと解される
(下線は筆者)

つまり、アマゾンや楽天などのプラットフォームは、模倣品が販売されていると通報を受けたら、一定期間内に、その事実を調査し、出品削除などの対応をしないと、プラットフォームが商標権侵害をすることになってしまうと裁判所は言っているのです。

このような事情があり、各プラットフォームは上記の報告窓口を用意しているのですが、実際に報告をして対応を依頼した権利者の方からは、「十分な対応をしてもらえていない」という意見も聴かれます。特にアマゾンについては、他のプラットフォームよりも対応が不十分であるという印象を持っている権利者が多いようなのですが、なぜでしょうか。

理由のひとつに、上記チュッパチャップス判決の射程距離が明らかではないということが挙げられると思います。

例えば、そもそもこの判決は、商標権侵害についてしか言及していません。では他の知的財産権侵害の場合はどうなのでしょうか。そんなの同じだと思われるかもしれませんが、実は重要な問題だと思われます。商標権侵害ならば、その侵害の事実が一見してわかる場合がほとんどです。しかし、特許権の場合はそうはいきません。商品を見ただけでそれが特許権侵害をするかどうか判断するのは、多くの場合不可能です。著作権や不正競争防止法など、登録された権利に基づかないものの判断もまた困難です。このように考えると、そもそもチュッパチャップス判決の射程距離は、商標権侵害のみに限定されているとも考えられます。

また、商標権が問題となる場合であっても、本当に商標権侵害をするのか、容易には判断できないケースももちろんあります。例えば模倣品のクオリティが低くロゴのデザインが少し違うとか、商標を似せつつ敢えて多少変更してあるような場合、商標法の観点からその商標が類似するかの判断が難しいケースも少なくないでしょう。あるいは、「並行輸入」や「商標的な使用」のように、法的な解釈が難しいものもあるはずです。おそらくチュッパチャップス事件では、そのような微妙なケースまでプラットフォームに判断の責任を課してはいないと思います。

さらには、そのような微妙なケースにおいて、プラットフォームの判断が誤っていた場合、すなわち、例えば将来裁判所では「非類似」と判断されるものを誤って「類似」と判断してしまい、出品削除の措置をとってしまった場合、プラットフォームは削除された店舗に対して損害賠償する責任があるのでしょうか。プラットフォームにとっては重要な問題なはずです。

このようなことを考えると、プラットフォームとしては模倣品だからと簡単には出品削除できない事情があるのかもしれません。実際、そのような微妙な部分について判断できるのは、裁判所だけです。民間企業であるECプラットフォームが責任を持って判断することはできませんし、そもそもそのような責任はないので、必要以上のコストをかけてシステムや人員を用意する必要もありません。「プラットフォームが十分な対応をしてくれない」と感じる最も大きな理由はこのあたりにあるのかもしれません。

特にアマゾンは、運営会社が米国企業だという特殊な事情があります。日本のサイト(Amazon.co.jp)での侵害について報告を行うと、アマゾンジャパン株式会社という日本の子会社が対応してくれるのですが、あくまでも日本側の対応窓口であり、実際に法的なやり取りをする相手は米国アマゾン社です。つまり米国アマゾン社の代わりにアマゾンジャパン株式会社が対応するというスキームなため、複雑なケースでは柔軟な対応がしづらく、権利者さんは不満を感じることがあるようです。

ただ上述のようにそもそもアマゾンの対応責任範囲はそれほど広くない可能性があり、また、私が実際にアマゾンジャパン株式会社の法務部と交渉等をしている経験からは、権利者側がしっかりと情報提供すればアマゾンも十分な対応をしてくれることが多いと感じています。必要な情報を揃えて正しい要求をすれば、アマゾンでも他のプラットフォームでも、迅速に模倣品の出品を停止してくれるという印象を持っています。

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